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俺は喧嘩が強過ぎた。
唯強いだけではない。痛みすら殆ど感じなくなってしまっていたのだ。勿論、先程の構成員様様は二人まとめて縛り上げた。
「爺さん、帰っていいぜ」
発言に、爺は首を傾げたが、
「助かる。だが無理をするなよ、若者よ」
「分かってる」
と軽く言葉を交わし、去った。
「お前…!保安部隊の面構えか。」
構成員Bが放った《保安部隊》という単語に謎感を覚えた。一体それは何なのだろうか。咄嗟にスマートフォンを取り出し、検索する。
【私営の警備会社の一つ。主に若い警備員で構成されている。】
「いや違う」
また、一つ厄介が増えた。もしこの《保安部隊》とやらが俺の個人的な喧嘩に首を突っ込んできたら、俺までもを悪役と認識される危険性がある。こうなったら、早急に《メントス》を潰さなければならない。
「本部を教えろ。」
俺は構成員Bの目の前に足の裏を翳し、脅す。すると、
「ち、地図だ。あと…」
構成員Aが潔く地図を差し出す。
「俺らがしくじったことは絶対に口にしないでくれ。頼む、この通りだっ!」
二人合わせて土下座をされたので、善意により、
「言わねえよ。俺は喧嘩したいだけなんだ。じゃあな。」
構成員ABの回答を聞く前に、俺は地図にあった廃工場へと時速60km程のスピードで駆ける。
到着したのは、如何にも数年前に退去しましたー感溢れる中小工場。門を突き破り、突入をしようとしたそのときだった。
「ここか。」
背後に、人影を感じる。俺は反射的に後ろを振り向く。
「あれっ?もう誰か入ってるのかな??」
身長150cmぐらいの、小柄な女の子。前髪は完全たるぱっつんで、短いピンクがかった黒髪のポニーテールをちょこんと下げている。服装は、半袖短パンと、部屋着感満載だ。
「道に迷ったのか?こんな時間に」
俺は少女に話しかけた。
「なんなの??!新人が偉そうに!今回の相手はその辺の変質者とは格が違うんだよ!」
「新人?」
意味が分からなかったので、首を傾げた。
「じゃあ一般人なのね。いいですか?ここには凶悪な組織のドンがいるので、私達《保安部隊》の管轄下には立ち入りを禁じます。退去してください!」
部外者扱いされたのに腹が立った俺は、少し煽てることにした。勿論善意
「へー。これが、いやこんな奴が″マニャーニャー″の″マニャーグル″か!こりゃ笑いますな!あははははははははははっ!」
「け、怪我しても知りませんよっ!何も分かってないなら教えてあげます…」
その瞬間、内部から銃声が響き、弾丸の当たる音が工場の壁に散開する。俺は幸い工場まで距離があったので大丈夫だった。一方、自称保安部隊の少女は…
「爆裂!」
と言いつつ腕に派生した謎の機構から熱線を繰り出す。鉄人なのだろうか。焼けた工場の中から、真っ黒なスーツを決めた若い男性が登場する。
「おー、これが保安部隊ちゃんの力か。すごーい!」
とぼーっと観戦していた俺に、少女は《あっち行け!》と言わんばかりに手のジェスチャーを施す。
「保安部隊の連中には随分とお世話になったもんでね、特にそういう火力馬鹿にはすごく慣れているので」
若い男性縮めて《曲者》は、徐々に少女に近づく。
「モードチェンジ『速』!」
すると、少女の体が急に変態して、腕の機構が二対化する。
「おやおや、躊躇ないですね。若いだけに」
「フレアリック…インファイト!」
見る間もなく、少女は文字通りの攻撃を繰り出したが、曲者は全てを綺麗に躱す。
「…天空裁断」
今度は、幾千メートル跳躍しつつ、少女は落雷のような閃光を曲者に浴びせた。しかし、
「チェックメイトだね」
「爆…っ!」
空中で、曲者に少女は撃墜された。俺は安否確認のため、少女の落下地点まで駆け寄る。一応、息はあった。
「私は…まだ…戦う…っ」
元気なさげな戯言を聞くのは苦手なタイプなので、
「お前の標的は後あれ一人だけなんだな?」
と聞くと、こっくりうなづいた。
「一般人か。お前もパスタ届けに来たのか?」
曲者は、俺に問う。
「いや、今からお前をぶっ倒して、夕飯のパスタを買いに行くところだ。」
「そっか。あばよ」
気づいたら俺は少女の隣に埋まっていた。
「私はまだ戦ってるの。一般人巻き込まないでよ。三下。」
少女は立ち上がり、機構を苦し紛れに発生する。しかし、曲者は少女の目の前に現れ、拳を構えた。
「死ね」
その瞬間、曲者は俺にぶっ飛ばされた。