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14話

「五十嵐、今日もよろしくな!」

「うん、彩香さんもそろそろくるかな。」

 ちょうど彩香も教室に入ってきた。

「五十嵐! よろしく頼む!」

「う、うん……」

 女子を前にして、五十嵐は緊張しているように見えた。がんばれ、五十嵐さん! オタクの底力を見せてやるんだと貴正は心の中で応援した。

 勉強を始めて、三十分ほど経過した後、彩香は苦しい顔をした。

「ああああ! 無理! 範囲広すぎ!」

 ついに彩香は叫び出した。ついにといったが三十分しか経過してないが。


「落ち着け、彩香。俺も昨日までちんぷんかんぷんだったけど、五十嵐のおかげで大分覚えられたぞ。」

「彩香さん、どこが分からないの?」


 すると彩香はドヤ顔でこう答えた。

「ふ……分からないところが分からない。」

 なぜか自信満々で彩香が答えた。これはもう手の打ちようがないと貴正は思った。これはいくら五十嵐でも厳しいのではないか。

「仕方ない。とりあえずこれを渡すか。」


 そう言い、五十嵐は鞄からある本を取り出した。

 五十嵐が取り出したのは、集英社の『漫画版 世界の歴史』であった。

「彩香さん、これ読めば大分頭に入ってくるよ。教科書や参考書よりも頭に入りやすいんじゃないかな。」

「まじか! ありがとう。さっそく読んでみる。」

 彩香は五十嵐にお礼をいった。確かにあいつの性格上、漫画で学習した方が覚えやすいだろう。地味に集英社をチョイスしたのも(恐らくはたまたまなのだろうが)ナイスだと貴正は思った。


「五十嵐、そんな良さそうなもんあるなら、俺にも貸してくれよ。」

「悪い悪い、俺もこの漫画使って昨日勉強したかったから。」

「そうか。いや、それなら仕方ないな。」


 貴正は五十嵐さんから勉強を教わってる立場なのである。感謝こそすれど、五十嵐に文句を言う筋合いなどミジンコの大きさほどもないのである。


「なぁ、後で数学の問題聞いてもいい?」

 貴正は五十嵐から逆に勉強の頼みを受けた。

「ああ、いいよ。教えるのも勉強になるしな。」


 貴正はよく教師が教えるのが一番の勉強になると言っていたのを思い出した。確かに人に教えるのは役に立つと思う。  

 貴正は、比較的理系の勉強が得意である。特に生物が得意であった。なぜ生物が得意なのかというと、貴正が猫好きということもあるが、貴正の夢が獣医になることだからである。彼は、卒業したら獣医になるために獣医学部のある国立大学を目指そうとしていた。彼が住んでいる場所は東京であるが、関東にある国立大学は、東京大学と東京農工大学しかない。

 だから、獣医のある大学に進学するため、日々勉強に励んでいた。部活のキャプテンにも任命されて文武両道がより一層困難になってしまうだろうが、やってやろうじゃねぇかよこの野郎と貴正は意気込んでいた。


世界史を一時間ほど勉強したあと、休憩がてら三人は雑談を始めた。


「そういや五十嵐は何かやりたい職業とかあるのか?」

「うーん、あんまりちゃんとは考えてないけど、漠然とゲーム作りの仕事がしたいとか考えてるよ。」

「へー、そうなんだ。それじゃもしかしてもうなんかゲームとか作ってたりとかしてるのか?」

「じつは……うん。RPGツクールでフリーゲーム作ったり、AlmightJSでライトノベルゲームを作ったりしてるんだ。」


 五十嵐のことを素直にすごいなと貴正は思った。

 貴正は、専門的なことはともかく、五十嵐がすごいことしてるっていうのはなんとなく分かった。


「へー! 五十嵐、ゲーム作ってるのか! すごいな! やりたい! 五十嵐のゲームやらせてくれ!」

 彩香が興味津々とばかりに五十嵐に懇願した。

「い、いや。そんな大したゲームじゃないし」

「俺も興味があるな。ゲーム名教えてくれよ。」

 貴正も五十嵐が作ったというゲームに興味がわいた。

「分かった! テスト終わったら教えるから! 今はテスト勉強に専念しような。」

 圧倒的正論を二人は、五十嵐から言われた。

「そうだな。そうするよ。」

「えー。私、今すぐにやりたい。」

「お前! そんな暇ねぇだろ!」

 貴正は、彩香にツッコミを入れた。


「ところで、お前その漫画読んで、理解は深まったのか?」

 貴正は確かに漫画! 彩香! ベストマッチ! アーユーレデイ? 状態だと思うが、まだ一時間世界史の漫画を読んでいるだけである。勝利の法則はまだ決まってないと貴正は感じた。

「もちろんだ。貴正、何か問題を出してくれ。」

 彩香は自信満々に告げた。貴正は適当に、プリントの問題集から問題を選んだ。

「それじゃあ……約四万年前に現れた新人が使った動物や魚の骨などを材料として製作された道具は何だ?」

 少し考えた後、彩香は答えた。

「確か……骨角器だ。」

「……正解だ。」

 貴正は驚いたが、まだ一問目である。続けて出題した。

「紀元前三千年頃にメソポタミアに都市国家群を形成したのは何人か?」

「シュメール人。」

「正解。」

(こいつ……! 漫画を読んだだけどこんなに勉強できるようになるのか? すごすぎるっていうか、潜在能力高すぎだろう。)

 内心、貴正はそう思った。サイヤ人ばりの潜在能力の高さである。


「彩香、お前すごいな。これ読んでるだけど世界史のテスト高得点取れるんじゃないか?」

「そうかな! あー、でも世界史いい点とっても他の科目で赤点取ったら、結局お小遣い減らされるんだよなぁ……」

「そういや、そうだったな。とりあえず今度は俺が二人に数学を教えるよ。」


 そうして三人は、数学の勉強をすることにした。貴正は、基本問題を中心に二人に数学をレクチャーした。大は小を兼ねるという考え方は、勉強では邪道である。基礎をしっかり固めてから応用問題に入るのが勉強の王道パターンである。

 教えるのが上手いことに定評がある五十嵐ほどではないが、貴正は分かりやすく説明した。その結果五十嵐は水を得た魚のように理解が深まっているようだった。


 一方で彩香は全く理解できてないようだった。

「マッタクワカリマセン。」

 カタコトの日本語で、そう彩香が話した。

「どこが分からないんだ?」 

 駄目元で、貴正は訊いてみた。

「分からないところが分からない。」

(やっぱりやないかい!)


 貴正は、困り果てた。基礎の基礎の部分をできるだけ分かりやすく伝えたつもりであったが、これで分からないというのでは、あまり手の打ちようがない。

「そもそも、数学ってなんの役に立つんだ!」

 彩香は、数学嫌いのやつなら一度は思いそうなことを叫んだ。確かに勉強は、学生時代にはあまり重要だと思わないかもしれない。しかし、将来意外なところで勉強ができると役に立つのだと貴正は思ったが、言ったところで大した意味をなさないだろうと考えた。


「彩香、お前ゲーム好きだろ?」

 彩香のモチベーションを上げるためにある作戦を貴正は考えた。

「ええ、うん。」

 当たり前だろと言わんばかりの顔で、彩香は返事をした。ちょいちょいこいつは昼休み貴正のクラスにやってきては、ゲームをしている。貴正もよく彩香がニンテンドーの科学技術を駆使して作り上げられた3DSでゲームをしていたのをよく見かけていた。


「ゲームを作るのは数学知識が多かれすくなかれ必要なんだ。」

「え。」

 彩香が鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。

「ウソダドンドコドーン!」

 オンドゥル語を想起させる風に彩香は叫んだ。

「いや、本当だぞ? なぁ五十嵐。」

 天下の五十嵐さんに貴正は、賛同を求めた。

「そうだね。僕の作ってるゲームは、まだ複雑な数学の知識はつかってないけど、高度なゲームになるとたくさん数学に知識とか物理の知識も必要になるよ。」

「そうだぞ、彩香。理系科目は世の中のためになってるんだ。理系はすごいんだぞ。」

 理系はすごいぞという、曲のタイトルみたいな教えを彩香に説いた。

「わ、分かったよ! 数学も頑張って勉強するよ。」

 そういい、彩香は基本問題を解き始めた。我ながら上手く彩香をやる気にさせることができたと思っている。

 三人は、夜八時まで勉強をして、家に帰ることにした。



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