魔術師ノノヰの秘密㊙
帰り道の足取りは軽く、宙に浮いているようだった。いや、実際にノノヰの魔法で浮いていたのかもしれない。頭に花畑が広がり覆い尽くす。ただこんな気分になっていること自体への不安はあった。
異世界に連れていってくれると偽り地獄に引きずり込む死神の話であるとか、こちらが何の魔力も持たない人間であるのをいいことに捕食されてしまったり、異世界の庇護を受けられるというインチキグッズを買わされたり……あまりにもうまく行っている話の裏には、トラブルがつきものだ。見知らぬ人と出会う婚活は疑心暗鬼と隣り合わせ。
しかし、ノノヰ……私一人騙すのに、あんなに大掛かりな魔法を使うかなぁ? 美麗魔法書はともかく、買おうとも思わない残念な本人イラストを披露したりするかなぁ?
浮き上がったままふらふら揺れ動く心は、魔法書でノノヰの情報を検索するという行為へ私を突き動かした。
「変態魔術師 ノノ井の修行日誌」
!?
なんだこの書は。開いてみると、それは変名ではあるものの本人の著であるらしかった。なんでも、魔術に対して変態的な情熱をも注いでいるらしく、ちょっとした魔法でも豪勢に見せかけるコツだの、宗教団体に単身乗り込んでイタズラをして帰ってきた記録だの、リア充爆発魔法の開発過程を詳細に示したレポートだの、何とも「食えない」キャラの魔術師がそこにいたのである。
ちょっと恋愛テクと称して浮気魔法やら姑息な横取り魔法なんて紹介しちゃって、数頁に渡って他の魔術師達に焚書魔法をかけられて炎上したっぽい跡があるのもご愛嬌……。
「ふ、ふぅ~ん」
私の心は、意外な方向で落ち着きを得た。妙に人間めいた奴じゃないか。
これを見つけたことにより、私はノノヰが私を大きな闇に引きずり込んだりするような異世界人じゃないかという疑惑を捨て去った。もし引きずり込むとしても小さな闇だし、そういう時にはこの修行日誌を突きつけて動揺させればいい。
こうして、私はノノヰに約束を取り付けられても、比較的――あくまでも挙動不審にならない程度には――平静でいられるようになったのであった。




