私だって――……
季節は秋から冬になり、ノノヰから何の連絡もない期間が一ヶ月を越えた。やっぱりこちらと異世界では体感時間が違うから、連絡のない期間が長くても仕方ないのかなぁと自分を納得させていた。それに、私は私で再就職していたので、その近況を尋ねるくらいはしてくれてもいいのになぁと思い、自分からは連絡しないでいた。
異世界人の魔術師である彼に近づこうと、まず魔法書司の資格を取った。そして、ゆくゆくは異世界移住権まで取れるのが再就職先の魅力だった。……正直、仕事は私に合っていなくて日々力不足を実感して辛かったけれど。しかし、ノノヰと今度会った時の愚痴ネタとして話せる、もしかしたら「辛いなら結婚して永住権を取ればいい」なんて言われてしまうかもしれない!
現在私は29歳、20代のうちに結婚出来てしまう……。
そう現実逃避しているうちに、クリスマスが迫る。
さすがに、期待する。あちらでも大がかりなイベントのはずだし、どんなに忙しくても私のことをちらりと気にかけるくらいは……。日に日に元気を失っていった私は、イブの日についに自分から連絡を取ることを決意した。
『使い魔の証』を使って「メリークリスマス☆お仕事忙しいと思いますが、体に気を付けて」とクリスマスカードを贈った。クリスマスのオプションで、郵便妖精がサンタのソリに乗って運んでいく姿まで見ることが出来た。
今日中に返信来るかなぁ、年内には来るといいなぁ……なんて、わくわくしながら待った夕方。
「ごめんね。突然だけど別れてください。」
何の魔法も使われていないメールだけが届いた。
え……。
読み進めると、かつてさえずり姫との仲を疑ったこと、が別れたい理由だという――。そんな、解決したはずの話じゃない!
すぐには信じられなかった。『使い魔の証』もすぐに使えなくなった。
背中が軽くなり、魔法が一気に解けるのが分かった。
端末を握りしめ、何度も何度もノノヰへのアクセスを試そうとして、大泣きで年末を潰して――……。
全てが終わった。
もう思い憧れていた未来は、消え失せた。
彼がいなくなったこの世界で思う。
「私だって普通の婚活エッセイを幸せいっぱいに投稿したかった――」
……正直、ノノヰと結婚できると信じて疑わなかったわけではなかった。もし結婚まで行かなかったとしても、良い婚活仲間としてその先連絡し合える仲になっていれば、もしお互い結婚に対して譲れないものがあったとしてそれをとことん突き詰めた末の納得の後別れていたとすれば、そういう可能性も失ってしまった。
もし終わるとしても、復縁したさえずり姫との修羅場であるとか、さえずり姫が忘れられないという思いを吐露された末に泣きながら別れるとか、そういう「終わりらしい終わり」があると思っていた。
「私だって普通の婚活エッセイを幸せいっぱいに投稿したかった――」
こんな終わり方ってない。せっかくの、異世界婚活で、あれだけ不思議な、魔術師に出会っておいて――。
私の心にある疑惑が浮かぶ。
今までの婚活は現実ではなかったのでは? 本当はノノヰだって何でもない普通の男だったのに、振られた衝撃があまりにも強く、妄想で異世界を作りあげてしまっただけではないか? 根本から意識がゆらぐ。
「私だって普通の婚活エッセイを幸せいっぱいに投稿したかった――」