はじまり
美少年。それはこの世の宝。
その場にいるだけでそよ風を起こし、花びらを舞わせる特殊能力の持ち主。
周りの者を幸せにしていく天使達。
私はそんな彼達が好きだ。
なのに…
「婿選び?お断りよ。」
姫路 園人生最大の崖っ淵です。
事の発端は私が部屋に隠していた書籍を母が見つけてしまったこと。
その書籍というのが…BL。
「じゃあこれは捨ててもいいのね?」
「それはだめ。」
十数年間。今までこの姫路家次期当主として厳しい規則と義務感に耐え、そして女であるという引け目を跳ね除けるための努力をしてきた。
けれど心はポッキリ折れそうになったこともあったし、その唯一の癒しの着地点がBLだった。
「母様、私は別に男性をきらっているわけではないのよ?」
(むしろ好きです、2人組なら。)
「だって!この本の中の男の子は泣かされてるじゃない!
こんな小さな男の子が泣いているのを見て喜ぶ娘に育てたおぼえはないわ!」
そういった母さまの目からはポロポロと涙が溢れ始めた、ヤバい。
「きっと、園ちゃんにはいろいろ背負わせすぎたのね。女の子でやりたいこともいっぱいあるのに…だから男の子が泣いているのを見て喜ぶ変態予備軍に…。うわーん!!」
「「お嬢様おいたわしい!」」
とうとうギャン泣きし始めてしまった母さまと口元を隠しながら涙を流すボディーガード兼執事の零々(こぼれ)と智利。
「な、泣かないでください母様!というか変態予備軍?!そんな言葉誰が教えたの?!」
「零々と智利がぁー!」
あなた達かっ!
泣き崩れそうな母様の肩を支えながら2人の睨みつける。
よよよ、と泣いているようにも見えるけど、ハンカチて隠された口元が笑っているのが分かるのは長い付き合い故である。
母様からからの変態予備軍はすごく傷つくんですからね!心抉るんだからね?!
プルプルと笑いを堪える二人の姿に更に腹が立ち睨みつけるが全く聞いていない。
「で、私考えました。お婿さんを取ろうと。」
突然顔をあげた母様は涙と鼻水だらけの赤い顔で言いました。
「…待って母様。意味がわからないわ。」
「園ちゃんがお婿さんをとって二人で姫路家を支えれば園ちゃんの負担も減るし我が家安泰。
園ちゃんも男の子を好きになれば変態予備軍脱退。
いいことづくめ。」
目が座ってらっしゃる…。
「母様、よく考えて?私だっていつかは世継ぎを生むために相応のどなたかと結婚するわよ?今急いで婿をとることないんじゃない?」
「だめ。園ちゃんにはこれからお婿さんを選んでもらいます。もちろん恋愛結婚で。そのための準備はもう出来ています。」
差し出されたのは一枚のパンフレット。
捲って確認すると男子校の案内らしい。
「園ちゃんは明日からこの学校に通って、お婿さんを選んでもらいます。」
「はぁ?!」
「はしたないですよ、お嬢様。」
「はしたない、はしたない。」
「今それどころじゃ!…いえ、失礼しました。」
零々と智利の言葉で深呼吸をして冷静さを少しだけ取り戻した。
「母様明日から私は高校生ですよね?」
「そうね。」
「こことは別に通う高校は決まっていましたよね。」
「そうね。」
「…ここ男子校ですよね」
「そんなこと知らないわ。」
口にめいいっぱい空気を溜めてふてくされ顏をつくる母さま。擬態語にするならプスー。
あなた今年で45歳ですよね?
そんな顔さえ似合う母様はすごいですが、もう少し年相応の大人の女性というものになってほしいです。
目をそらされてしまったし、母様はもうなにも教えてくれないだろうなぁっと思い二人を呼ぶ。
「零々、智利。詳しく説明してちょうだい。」
「実はこの学校には姫路家が多額の寄付をしていますので、今回は特例を認めお嬢様の入学を歓迎すると…」
「また、そのための準備もすでに手配をはじめているらしく…」
「つまり、寄付の増額と姫路家へ恩が売れるのを餌に無理を押し通したと?」
「簡単に言えばそうですね。」
「今日のお昼頃に電話で交渉をして二つ返事でしたね。」
頭が痛くなる。
「では園ちゃん選びなさい。
ここにあるびーえるぼんを燃やすか、明日からお婿さんを探すか。」
差し出されたのは二人の少年が抱き合った表紙の本と明日から行くはずの高校の生徒手帳。
「っ〜、もう!」
私は手に収まるほどのそれを暖炉の中に投げ入れた。
「結局そちらを選ぶんですね」
「キレ方が慣れてないやつのそれでお可愛らしい。」
「五月蝿いわよ!」