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第四話 リエーヴル・ロワイヤル

リエーヴル・ロワイヤルに入団して一年。

クラーレとミルコは、ギルドクエストをこなしながら、戦闘経験を重ねていった。

クラーレは、前衛魔法攻撃剣士として剣技と体術を磨き、ギルド内ランクも上位に入るほど成長した。

ミルコは、その体格と腕力を生かした前衛妖術攻撃拳士として活躍し、拳技と体術を磨いた。ギルド内ランクはクラーレに次ぐ位置だ。


ギルドメンバの入れ替わりも激しくなった。

もともと中位ギルドでソコソコ活躍できればいいと考えていた冒険者は中位ギルドに移り、変わりにクラーレの美貌に釣られた上位ギルド移籍組が増えるようになった。

その結果、城塞都市カルカッソンヌのギルドの中でも三本の指に入るほどに急成長した。

こういうメンバー増員方法は穴があるのだが、あの食えない兎はそこも見込んでいる様子だった。


国や町からのクエスト依頼も多くなり、難易度が最高レベルのクエストを依頼されるなど、信頼度も高い。

役所関係が集まっている中央一等地にギルドを移したことで、役人との連絡が密になりクエスト依頼の増加にもつながっている。

メンバーの所得も必然的にあがり、クラーレもミルコもそのおかげで最上位のアダマンチウムの装備を揃えられた上、貯金も貯まっている。


クラーレとミルコは、政府要人の護衛クエストを終えて、ギルドに向かう道を歩いていた。

もう日が落ちて久しい時間、女性や子供は家に入り、男性は仕事からの帰宅、冒険者も住処に向かっている。

町が静けさを取り戻していく時間帯である。


「全く、政府のお偉いさんはエロジジィばかりかっ!」


歩幅を広く足早に歩いていくクラーレ。頬を赤く染めているのは、憤怒によるものだった。

その後ろを歩くミルコは、汗をかきながら困った顔を浮かべている。


「ダークエルフは珍しいからね」

「珍しいからってお尻触るやつがいるかっ! 依頼人だから我慢しているってのに」

「ギルドマスターに、くれぐれも短気を起こさないようにって、言われていたわね」

「あの兎っ。絶対、俺を餌にしてクエスト依頼を増やそうとしてるぞ」

「営業としてはアピールポイントとしてセールスするのは当たり前なんだけど。露骨すぎるかしら」

「ギルドに完了報告したあと、飲みに付き合ってくれ」

「はいはい。立ち位置が変わったと思うのは気のせいかしら」


ギルドの門をくぐると、いつも受付にいるギルドマスターがいない。

見渡せば、丸いテーブルにギルドメンバーが座って、奥のカウンターテーブルにギルドマスターが座って腕組をしている。

ギルドメンバーは全員いた。


「ちょうど良いところに帰ってきた。適当なところに座れや」


いつものように軽いノリの口調だが、どこか重みを感じる声質だった。

ギルドメンバーも態度は悪いが真剣な表情をしている。


( なにか、あったんだろうか。)


空いていた丸テーブルの席にクラーレとミルコは座った。

ほどなくして、ギルドマスターの説明が始まった。


「こんな時間に緊急招集をかけてすまなかったな。政府から最優先クエストを受けた」


クラーレとミルコにも緊張感が伝わってきた。

政府が発行するクエストの中で最優先クエストは、魔物の警戒レベルが国の危険まで上がったときに発行されるクエストである。


「もしかしたら、皆の耳にも入っているかもしれないが、ミノタウロスが各地で大量発生している」


ロールプレイングゲームでもお馴染みのミノタウロス。中ボスぐらいのモンスターである。

この世界でも同レベルとされているが、単体ではなく二、三匹の群れで発生する魔物である。

そのため、最低でも九名以上のパーティーを組んで戦うことになる。

それが大量発生したとなると、国を挙げての討伐隊を組む必要がある。

噂は耳にしていた。国の精鋭騎士を投入して鎮圧に向かっているが、ミノタウロスの数に対して兵士の数が圧倒的に少なく成果を上げられていないことを。


「我がギルドは、この街の遥か南にある森で大量発生したミノタウロスに全員であたる」


( なっ! 南の森って!)


クラーレは、血相を変えて、椅子が倒れるほどの勢いで立ち上がった。

ミルコは、驚きクラーレを見つめる。

ギルドメンバーの視線も集まる。


「どうしたクラーレ」


ギルドマスターもクラーレを注視し声をかける。


「その森って、メランジェという町の近くにある森かっ」

「あ、ああ。そうだ。今、メランジェの住人は避難準備を始めている頃だろう」


メランジェはクラーレの故郷と言ってもいい町だ。

親しい仲間がたくさんいる町、特に店主やフィレ、孤児たちには世話になっている。絶対に守らないといけない町だ。

ミルコは、クラーレが着用している防具の隙間から見える素肌を指で突っつく。

我に返ったクラーレは、椅子を戻して座りなおした。


「どうしたのよ。急に」

「前に孤児の話しをしたことがあるだろう? その町が危機なんだ」

「確かに心配だけど。すぐに駆けつけられる距離にメランジェがあるわけではないわ。今は落ち着いて」

「そうだな。ミルコの言う通りだ。すまない」


とはいえ、落ち着いていられるわけはない。


「政府が回復アイテムを十二分に調達してくれた。鍛冶師も二名ほど同行する。長期戦になる可能性もあるので、皆準備を怠らないように。明日、日が昇る時刻にここを出発する。以上、解散っ!」


ギルドメンバーたちが一斉に立ち上がり、家や宿に戻り長旅の準備と防具の整備を進めるためギルドを出ていく。

最後まで残ったのは、クラーレとミルコ。先にミルコが立ち上がり、クラーレの肩を叩く。


「ほら準備しないと」

「ああ、わかっているよ」


クラーレの表情は明るくない。むしろ心配でたまらないという感じだ。


「マスターには、私の方から依頼完了報告しておくから」

「ああ、すまない」


ミルコは、クラーレから要人警護の依頼完了証明を受け取り、マスターに提出。

報酬の入った袋と交換で受け取って、ようやく立ち上がろうとするクラーレの傍に立った。

唐突にデコピンをクラーレにみまう。


「な?! なにするんだよ」


デコピンされた額に手を当てがい、怒った顔をミルコに向ける。


「心配なのは分かるけど。あなたがその調子でずっといるなら、メランジェの仲間たちを助けるなんて出来ないわよ。何が最善なのかを考えなさい」

「……っ!」


( 何が最善か。そんなことは、分かり切っている。ミノタウロスを全て倒してメランジェに被害を及ぼさないことしかないだろう。)


「そもそも、ミノタウロスが群れを成して町を襲うこと自体、どのくらい確率が高いの」

「無いとは言えない程度」

「そうね。無いなら、そもそも最優先クエストが発行されることはないわ。政府は連鎖的にミノタウロスが群れをなして活動化するのを懸念しているのではないかしら。もしくは、その兆候があると考えている」


後半は、ギルドマスターに向かって言った言葉である。

ギルドマスターは、にたっと薄ら笑みを浮かべている。カウンターテーブルから飛び降りて、ミルコの前に来る。


「その通りだ。ミルコくん。長期戦を予想したのも、森から群れたミノタウロスが出てきたらの話しさ。それまでは手を出さないのが今回の方針だよ」

「ただ、いつ活発化するかは予測できないから、早々に移動してメランジェで待機するというところかしら」

「そういうことだ」

「つまり…」


クラーレが重い口を開ける。


「ミノタウロスを全て倒すのではなく、ミノタウロスが襲ってきたら確実に倒すことが最善ということか」

「そう。最優先すべきことは、完全防衛することなのだよ」


現在のメランジェは、避難準備を実施しているが、一方で防衛ラインを構築するため自分たち上位ギルドの到着を待っていると、ギルドマスターが話しを続けた。

クラーレは、少し肩の荷がありたような感覚を得た。安堵も安心もできないが、張っていた気が良い感じで少し緩んだ。


「ありがとう。ミルコ、マスター」

「しっかり、町を守ってあげましょう」


クラーレは、凛々しい顔をミルコに向けて頷きで応えた。

もうこれ以上考えることもない。飲みに行くのもキャンセル。明日の出発のため準備を整えるだけである。



翌朝。太陽が地平線から姿を現す少し前、地平線に明るさが広がり始めたころである。

城塞都市カルカッソンヌの南門。一年前、クラーレがメランジェから来たときに通った門だ。

南門の入り口から軍用の馬車が連なっている。

軍用の馬車は、主に物資の輸送目的に使われるため、足の速い四本足の馬の二頭ひきで時速二十キロを通常速度で走ることができる。

人ではなく物を乗せる馬車なので乗り心地は良くないらしいが、メランジェへの到着を早めるため国が貸し出した。


ギルドメンバーが次々と集まり始めている。長期滞在を考え予備の装備と衣類などの生活必需品が入った羊皮製の大袋を背負っている。

クラーレとミルコも同様の支度で、門前に来ていた。

従者が、荷物を馬車の荷台に積み込み、出発の準備を整えている間に乗車する。


「なんで、マスターと同じ馬車なんだ」


クラーレとミルコは、ギルドマスターに腕を捕まれ、強引に先頭の馬車に乗せられた。


「ほらぁ、現場から引いた身だしぃ、二人に守ってもらわないと、やられちゃうのぉ」

「ブリブリ言われても説得力ない」


ギルドマスターは、元冒険者で一線から引いて十年ほどになる。かなりの強者だったらしく、何回か伝説級の活躍をしたらしいが真偽は定かではない。

街道を走っていくとはいえ、魔物に遭遇することはあるので、ギルドマスターが言っていることも正しくある。


「一緒に乗りたかっただけ。裏はないわよ」


不機嫌なふくれっ面を窓の外に向ける。


従者が、馬車全てにギルドメンバーと鍛冶屋二名が乗車したことを確認するとギルドマスターが号令をかけて出発した。

窓の外の景気が流れていく。街道の段差があるところや石の上を乗り上げたりするたび大きく揺れ、お尻を強打する。

クラーレは、悪路を進む軍用のジープの乗り心地ちって、こんな感じなのだろうかと思う。

日が中天を過ぎても休むことなく走り続け、日が落ちる少し前に中間の宿場町に到着した。


軍馬は、従者とこの街の役人に世話を任せ、回復効果のある薬草を混ぜた飼い葉を食べさせて、翌日までには走れるようにしてもらう。

ギルドメンバーは、役所の会議室に集い、ミノタウロスの情報を共有した。

偵察隊が確認したところ、十二頭のミノタウロスを確認したとのこと。何かを探しているような仕草も見せているとのことだった。


( 何かを探している? ミノタウロスが発生した森は、俺が覚醒した森…)


話しが出来過ぎている気がする。

クラーレは、ミルコの方をちらっと見る。その視線に気がついたミルコは、クラーレに振り向き「なに?」と答えた。


「あ、いや。何でもない。マスター!」

「なんだい」

「もしかして、カルカッソンヌの街付近にもミノタウロスが出現していないか」

「……」


ギルドマスターの無言の回答こそが、クラーレの言葉が正しいことを証明した。

おそらく箝口令が引かれているのだろう。

カルカッソンヌは、多すぎる程人が住んでいる。避難するのは難しいため、市民に知らせず極秘に退治したのだろう。


( 転生者を探している!?)


一つの可能性でしかないが、メランジュの森で発生したミノタウロスは、クラーレを探しているのではないだろうか。

全くの偶然という可能性もあるが、クラーレはそうではないと予感している。


「ここまで予定通り来ている。明日の夕方にはメランジュに着くだろう。すぐにミノタウロスと一線を交えることはないだろうが、油断だけはするなよ」

「オオーーーーーーッ!」


手を突き上げ、咆哮のような威勢のいい声を上げて応える。

頼もしい仲間たちだ。これならメランジュを守ることができるだろう。


その後、割り振られた宿屋に向かい休眠を取り、日が昇ると同時に再び出発した。







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