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第一話 クラーレ・アプフェルシュトゥルーデル

クラーレ・アプフェルシュトゥルーデルは、森から見えた町に向かった。

魔物に遭遇しないように比較的安全な街道を全速力で走った。

途中で、獣人の護衛をつけた商人や、街道の外でゴブリンなどの小型魔物を退治している治安維持隊とすれ違った。

町の入り口には簡素な門があり、両脇に先ほど見た治安維持隊と同じ装備を着用した守衛がいた。

守衛は、魔物の侵入を阻止いるだけでなく、危険な犯罪者の取り締まりも兼ねている。

門に書かれている町の名前は、メランジェ。

明け方にも関わらず、町の至るところから様々な色の光が漏れている。

街道の途中にある町は、商人が中心となって開拓した町が多く物流が盛んで、商人相手に早朝から料理店が開いているのも珍しくない。


「そこのダークエルフ止まりなさい」


守衛が前に立ちはだかり、町に入ろうとしたクラーレを押し留める。


「君、この辺りでは見かけない顔だが、あの森から来たのかね」


守衛が遠くにある森を指す。

クラーレが来た森だ。うなずいて答える。


「昔、あの森にダークエルフの集落があったが、今は移動して住んでいないはずだが」


その知識もクラーレはある。

数百年前、人間種との間で戦争が起き、その戦争で集落の半分以上のダークエルフが亡くなり、雪が積もっている山の向う側の森に移り住んだ。

今は、あの森に誰も住んでいないのだ。

知ってはいたが、森からのこの町にくる道は、この街道しかないので、嘘は言えずうなずきで答えたのだ。


「事情を説明しても、信じて貰えないことも分かっている。もし通行許可を得るのに担保が必要ならば支払うのもやぶさかではないが、持ち合わせがない」

「タンポ?」

「おっさんみたいな、喋り方をするダークエルフだな」


こちらの世界には、自分の身を金で保証する『担保』という考え方がないことは知っていた。

あえていうことで、話しの落としどころを見極めるためだ。


「その人物にとって最も高い価値ものを渡し、もし、この町にとって被害となることを行えば、その担保を売って弁償とする。そういうものだ」

「なるほど。そのような仕組みも有効だろう。しかし、それと似たような制度もない」

「ならば、どうしたら入らせてもらえる」

「名前は」

「クラーレ・アプフェルシュトゥルーデル…だ」


守衛が腰に掛けっていた袋から、手配書の束を取り出した。

その一枚一枚にある手書きの似顔絵と名前を調べる。


「手配書にも登録されていない、犯罪者の可能性も低いだろう。何よりも会話の中で嘘があったような感じもなかった。よし、入っていいぞ」

「ありがとう」


壁になっていた守衛が左右に分かれ、その間を進んだ。

第一関門は突破したが、一番の問題は、装備を買うための金だ。

この世界の通貨は、金貨、銀貨、銅貨の三種類で、銅貨百枚が銀貨一枚の価値、銀貨千枚が金貨一枚の価値に相当する。

一般的な家庭の一日分の食事が、銀貨一枚前後の価格となるので、金貨は相当に高い。

武器や防具などの装備は、その質などで価格に天と地ほどの差があるが、最低価格とされるライトアーマーとナイフの組み合わせでも、銀貨十五枚は必要になる。


「アルバイトの経験はないんだが」


太陽の日差しが差し始めた門から続く大通りの両脇には大小の酒場や防具店、娼館などが軒を連ねている。

この町では、人間種や獣人の町人が、混在して住んでいるようだ。精霊種のエルフともすれ違ったが、ダークエルフはさすがにいないようだ。

すれ違うたびに男どもの視線を感じるが、これほどの容姿であればそれも分かるので無視した。


「酒場あたりでウェイトレスでもしてみるか」


従業員募集のポスターがある酒場は、たくさんあった。これだけ、多くの商人や冒険者がいれば、人手がたらなくなるだろう。

バイトは、どれも日雇い制ではあるが給金にかなり差があった。高級酒場になると給金も高いらしい。


どうせなら、給金が高いところが良いだろう。

町の中央にあるその酒場は、周囲より賑やかで活気があった。

その店名は『ケルントナー』。この町一番の高級酒場で、料理の値段も酒の値段も高い。

正面の入り口から堂々と入り、そのまま奥にある調理場に向かって進む。

どこの店でも、調理場にいるのが店主である。

こちらに背を向けている店主は、熊系の獣人、大柄で背中から滲み出るものは肝っ玉が座った感じが漂っている。


「従業員募集のポスターを見た。ウェイトレスとして働かせてほしい」

「ああ~ん。あんたがかい」

「そうだ」


店主は、タオルで手を拭きながら鋭い目つきでクラーレを見つめる。


「うちは、器量が良いだけじゃ通用しないんだよ」

「うむ。確かに綺麗なウエイトレスばかりの上、接客にはかなり高いスキルを感じる」

「ほう。見る目はあるみたいだな」

「うまい料理を出すようなところは、どこの世界でも同じだ。しかし、自分はダークエルフなので接客には向かないかもしれん」


ダークエルフは、清楚なイメージがあるエルフとは対極の妖艶さがある。こういう高級酒場には合わないことは言うまでもない。

とはいえ、この町ではダークエルフを見ること自体が珍しいのは、町を様子を見て分かっていたので売りこみの材料になると思ったのである。


「珍しいダークエルフがこの店にいると知れれば、良い客引きになるのではないか」

「お前さんは、頭が切れそうだ。しかし、その言葉遣いはどうにかならないのか」

「問題ないわ。そのあたりはネトゲでスキルアップしてるもの」


オンラインゲームの女性言葉のテキスト入力スキルを地声でやればいいだけのこと。


「ふふ。猫かぶりは得意そうだね。よし、アレをやらせてみるか」

「アレ?」


店主は、黒髪のキャットピープルを呼んだ。


「なゃにかにゃ」

「フィレ、こいつにアレを着せてやれ、サイズは…まーうまく縫い直して着せてやれ」

「分かったにゃ。新人、名前はなんというにゃ」

「クラーレ・アプフェルシュトゥルーデル。クラーレで良いわ」

「んにゃ、クラーレ。こっち来るにゃ」


フィレの手招きに誘われて、奥の従業員部屋に連れていかれた。

しばらくして、店内に戻ると客や従業員が感嘆の声を上げるほど、妖艶と清楚がミスマッチしたウェイトレスが出来上がっていた。


( まさかコスチュームを着させられるとは。)


従業員の制服は、中世のメイド服を連想させる仕立てになっていたが、クラーレが着せられたのは、お嬢様学校の女生徒が着るような服だった。

こちらの世界にも学校はあるが、それは魔法学校で制服も魔法士のローブである。

決して、白ブラウスにワッペンがついた黒のベスト、赤生地のチェック柄ミニスカートではない。

丈が短かった分へそ出しになり、胸囲が大きかった分ベストが開いたままで、ブラウスが張っている。


「今日から入った新人のクラーレだよ」

「よ、よろしくお願いします」


店主の紹介に合わせて、ぺこりと可愛らしくお辞儀した。


「クラーレちゃん、こっちにきて一緒に飲もうぜ」

「馬鹿野郎ども。うちの店では、そういうサービスはしてないんだよ。注文しな!」

「俺、ジョッキ追加!」

「俺は、ボイシェル」

「俺は---」


( こ、これは、サラリーマンの時より、仕事がきつそうだ。)


クラーレは、出来上がった料理や酒を笑顔を振りまきながら、テーブルに運んで行き、飲み終わったジョッキと皿を回収し店主のところに持っていく。


ケルントナーで飲食した客は、外でクラーレの話しをして、それを聞いた客がケルントナーに流れていく。

評判が広がり続け、本日の売り上げは過去最高となったようだ。

結果、クラーレがもっらた手当は、銀貨二十枚の大判ぶるまいだった。


時間は昼過ぎ。店は、閉店。また、未明から開店することになっている。

着替えて従業員出入り口から外に出るとフィレが待っていた。


「どうしたんです」

「クラーレを待ってたにゃ」

「俺をですか」

「そうにゃ。住むところはあるのかにゃって」

「宿屋に泊まろうかと」

「宿屋は高いにゃ。うちに来るといいにゃ」

「それは、悪いですよ」

「大家族だから一人増えても問題ないにゃ。その変わり手を貸してほしいにゃ」


( 泊まりこみする代わりに何かの手伝いをするということか。)


「わかった。それなら、お邪魔させてもらう」

「素のときは、本当におっさんにゃ」


フィレに連れて行かれた先は、町の隅にある壊れかけた教会だった。

その裏手に石造りの建物があり、まだ小さい子供たちが二十人ぐらい住んでいた。

さまざまな種族の孤児が、ここで暮らしていた。


「この子たちは?」

「数年前。この町がドラゴンに襲われ、両親や家族を亡くした子供たちにゃ」


この世界にも存在する最強の種族ドラゴン。

魔物に属していないが、時々山から下りてきては、麓の町を襲い金品を強奪していく。

その際にドラゴンと戦った両親や、逃げ遅れた兄弟姉妹がいなくなることは、多々あった。

国もドラゴン対策を講じているようだが、有効な手立てを打ててないのが現状で、地方のこのような町に届くような支援金もない。

町も金がないため、廃墟などの建物を少々改修しただけで、身寄りがない子供たちをそこで生活させている。


「私も孤児だったにゃ。子供たちに少しでも良い生活をさせてあげたくて頑張ってるにゃ」

「そうだったんですか」

「フィレおねぇちゃんお帰り」


フィレの姿を見つけた子供たちが一斉に駆け寄ってきて、取り巻いた。


「お腹空いたかにゃ。パン買ってきたからみんなで食べるにゃ」


売れ残りのパンを格安でゆずってもらったパンである。

価格的には安いパンだが、二十人の子供たちのお腹を満たす量となるとそれなりの金額になる。

子供の中でも年長者に袋ごと渡す。その年長者の子供は、慣れたように他の子どもたちにパンを分けていく。

パンだけだと栄養が偏るので、野菜スープを付けるようにしている。


子供たちもダークエルフを見るのが初めてなのか、最初はおどおどしていたがすぐに近づいてきて仲良くなった。

子供は苦手の方だったと思っていたが、子供たちの笑顔を見ているとこちらまで穏やかになる。

絵本を読んだり、お勉強を教えたり、結構楽しい時間を夕方まで過ごせた。

夜八時に子供たちを寝かせて、自分とフィレも一緒に寝る。


( こういう生活も良いかもしれないな。)


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