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私は女優

『私は女優』

そんなはずはない。

私は、大手輸送機メーカーの子会社に勤める、ただのOLである。

しかも、何の資格も取り柄もない、ただ事務をこなすだけの契約社員である。

趣味で市民劇団に参加している訳でもない。

むしろ人前で何かするのはすこぶる苦手な性格だ。


けれど時に私は、とんでもなく唐突に高度な芝居を要求される事がある。

それはシナリオなどもちろん無く、いつ要求されるかもわからない。

「脚本家」 兼 「演出家」 兼 「演者」である。

しかもそれは無償なのはもちろんの事、うまく演じ切れても拍手を送られる事もない。


そう、ここまでの章をお読みくださった方には薄々察しがついて来たと思うが

父とのやりとりの中で、時に私は「女優」となるのである。


認知症の父は、最近私を自分の娘だと認識できない事がある。

ある時は介護施設の職員だったり、またある時は親戚の家の子供だったり、

またまたある時は「ところであんたはどちらさん?」となり、

咄嗟に自分で役柄を決めなくてはならない時もある。


それは、いつ始まるかもわからず、全てをアドリブで返さなくてはならない。

そして「ハイ、カット!」の声もなく、いつの間にか現実に戻っている。


これに対応するのは、演技を勉強した人でも相当大変なのではなかろうか。


最初のうちは、「違うよ、私は娘だよ」と修正しようとしたが、

それを理解させるのはとても大変で、合わせるしかない事にすぐに気が付いた。


突然始まる『お芝居』に戸惑う事も多く、私の演技はまだまだ『大根』である。

けれど、誰の評価もいらないのだ。

二人の間でピッタリ息が合って、父が納得して落ち着いてくれればそれでいい。


演技や台詞回しは上達しないけれど、相手に合わせる術は大分身について来たようだ。

さあ、次はどんな舞台が待ち受けているやら。

ハラハラ、ドキドキの毎日である。




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