生きててよかった~PINKY.の推し活日記
人間、日々生活していく中で心の底から『生きててよかった』と思えることは、そうそうあることではない。
私も思い返してみると今までの人生で生まれて初めて生きててよかったと思ったのは、友人の叔父さんが経営する寿司屋でイカを食べたときだった。笑われるかもしれないが、40年近く前のことなのに、みんなの前で「生きててよかった~」と、そう言葉にしたのを今でもはっきり覚えている。
それまでのイカに対するイメージは硬くて味が無く、飲み込むタイミングが難しい魚介類という感じで、どちらかといえば好きとは言えない食べ物だった。だが、本当に新鮮で質のいいイカを丁寧に下ごしらえし、これまた上質な酢飯と合わせることによってもたらされた甘くてとろけるような食感が、それまでの私のイカに対する概念をくつがえし、私に心から『生きててよかった』と思わせたのだと思う。
そんな、人生に何回も感じられることのない感覚が私の身に起こった。
タイトルからもわかるように、我が推しIMP.のライブに初参戦したのだ。
まさに「生きててよかった」と思える夢のような時間だった。
そもそも、車いすの私は移動に新幹線など公共交通機関を使いにくいから、公演自体が車で行ける範囲で行われることが参加する条件のひとつだったが、今回全国ツアーで地元での公演が計画され、運よくチケットが取れたため参戦できることとなったのだ。
スケジュールが発表されてから、私にとっては初めて経験する事ばかりだった。
まずはオンラインでのチケット予約申し込み。
恥ずかしながら、私にとってチケット予約といえば、電話予約の時代だった。
予約開始日当日に、電話番号「117」で時報を確認して予約の電話を掛ける。一発で掛かれば儲けものだが、人気殺到の公演の場合にはそこで話し中になるか、「お客様のおかけになった電話番号は大変混みあっております・・・」というメッセージを聞くことになる。それに比べてオンラインでの申し込みは、期限までであれば仕事や学校を休んだりせず自分の都合の良い時間帯に落ち着いて申し込みすることが出来るし、予約を受ける方も電話受付という手間がかからないので、理にかなっていると思う。
そして今回は転売防止のために顔認証システムが導入されていたので、顔認証登録も行わなければならなかった。ドキドキしながらも説明の通りに何とか顔写真データを登録し、当落を待った。
やるべきことはやったからと思いつつ、当落が発表される日は落ち着かなかった。
発表日当日、家に帰るまでは当落を確認しないでおこうと決めていたが、どうしても我慢できなくて仕事が終わってすぐにメールを確認してしまった。(この意思の弱さよ・・・)
幸いにも2公演申し込んだうち、1公演が当選していた。もちろん、どちらかが当選すれば十分と思っていたので本当にラッキーだった。
平日だったので、前日と当日に有給休暇を取得し、休暇前日までの仕事の段取りをつけた。
そして、当日までにやらなくてはならないことはまだまだあった。
事務的なことでいえば、チケット代金の支払い、同行者登録、同行者の顔認証登録。
そして推し活面でいいえば、やっぱりライブに行くならうちわとペンラ(ペンライト)は必需品に違いないと同行者の分まで合わせて購入。え、なんとうちわがすっぽり収まるトートバッグがあるではないか。んーと悩みつつ一生に今後そう何回もあることではないし、うちわ丸出しで持ち歩くのもなと自分に言い聞かせ、ポチリ。あら、このキーホルダー年代やバッグを選ばずつけられそう、とこれまたポチリ。
財布の紐がゆるむどころではない、もはやガバガバである。困ったものだ。
ただ、私にはまだ越えなければいけないハードルがいくつかあった。
車で行くということは駐車場が必要だ。その会館には専用の駐車場というものがなく、すぐ近くの駐車場を地域で共用している。そのため障害者用駐車スペースの有無といった問題だけでなく、物理的に台数が足りずにそこに停められない可能性もあるのだ。ただ、会館には主催者用駐車スペースの中に2台障害者用の駐車スペースが設けられている。大ホールが2000人規模のキャパシティの会館で、ホールには全部で車いす用の席が10席設けられてはいるのだが、駐車スペースは2台だけだ。ひとつの公演で一人の車いすユーザーにつき一人の付き添いがいたとしても5台分の駐車場が必要となるのだが、そこまでは整備されていないのが現状だ。そして、その2台の駐車場もあらかじめ予約する事はできず、当日朝9時から電話予約を受け付けるシステムだった。
そこで、私の数十年前のあの経験が生きてきた。時報を確認しながら予約の電話をするあれだ。ドキドキしながら数分前からスタンバイして電話したが、実際は拍子抜けするぐらいすんなり予約が取れた。今回の公演に限らず、きっと誰かに送ってもらったり、介護タクシーを利用するなど皆さん工夫しているのかもしれない。
まずは第一段階突破である。
そして、ほぼ時間通りに現場に到着。もうすでに多くのPINKY.さんが列をなしていた。どこが最後尾かなと思いつつ近づいていくと素早くスタッフの方が声を掛けてくれた。今日の公演に車いすユーザーがいることをあらかじめ情報共有してくれていたのだろう。スロープのある場所を素早く確認してくれ、開場とともに最初に受付をしてくださった。しかも、私よりも先に列の一番前に並んでいた方への断りもきちんとしてくれた。スタッフの方の配慮と、私が先に受付することを快く了解してくださったPINKY.さんには本当に有難かった。顔認証も手持ちのタブレットで行ってくれたので、不便を感じることもなかった。
席はあらかじめ調査済みの車いす用スペースで、同行者の妹にはパイプ椅子が用意されていたが、私がびっくりしたのは、私の前2席を使用不可としてくださっていたことだ。
SNSなどでは、車いす席の前は着席指定としてあることが多いようだが、結局観客が盛り上がり、立ち上がってしまう事が多いという投稿を見かけることがあった。だから、最悪見えなくなったとしても仕方ない、その場の雰囲気を感じられるだけでもいいと思っていた。だが、前の列2席を使用不可として頂けたことにより、私の視界は十分確保された。
ここまで記した主催者側の配慮と、先日体験した運転免許証の更新手続きを比べると雲泥の差がある。
地元の警察で実施した運転免許証の更新は、まず受付にタッチパネルを使用するのだが、これは立っている人の高さに合わせてあるため、車いすでは手が届かない。もちろん担当者の方が代行して操作してはくれるのだが、パスワードを入力する際に「パスワードはどうしますか?」と聞かれた。(公の場でパスワードを口にするとは・・・)と、しばし沈黙してしまった。そして極めつけは視力検査。カウンターの上に、これもまた立ち上がっている人を想定した高さに置かれている検査機器。それを男性警察官が二人がかりで持って私の顔の前にあてがってくれた。重いものを持って頂いているその状況に、私はとにかく早く終わらせなければと早口で「右!左!下!上!!」と言い続けた。
受付のタッチパネルも、視力検査機器も高さ調節のできる台にでも置かれていればなんの問題もないのに公共の施設ではそういったバリアフリーについての対応がまだまだ足りていないのが現状だ。もちろん、都会や大きな市の運転免許センターなどにはあるのかもしれないが、警察に限らず公共施設ほどそういった対応が足りていない、もしくは名ばかりの状態になっている傾向にあるのは否めない。
その後での今回のライブでの対応だったから、私にとっては神対応としか思えなかった。
そして神対応と言えばなんといってもIMP.メンバーと周りに居合わせたPINKY.さんたちだ。どのメンバーも車いす席を気にかけてくれたし(少なくとも私にはそう思えた)、PINKY.さんたちも銀テを拾って渡してくれたり、会館の外で車いすが段差にはまった時には「手伝いましょうか?」と優しく声を掛けて下さった。
IMP.のパフォーマンスを間近で見られたことはもちろんだが、そこも含めて、参加してよかった、生きててよかった、と思える経験だった。
自分自身、障害者だからという理由で特別扱いを受けたとは思っていないが、それで気分を悪くされた方がいらっしゃったとしたら申し訳ない気持ちもある。ただ、たぶん皆それぞれの環境や立場の中で良いことも悪いことも経験するのが人生だと思う。
多分次はもっと大きな会場でライブをすることになるだろうし、そうなると私もいつ参戦できるかわからないが、しばらくはこの思い出で十分楽しめる。
7人主演の舞台も決まったと発表されたが、それは映像化されるのを期待して待つとしよう。




