活躍七年の市役所
「ワダさんですね。」
「はい。」
「教師ですか。」
「はい。お恥ずかしながら。」
「では、はじめます。あなたは昨晩、イヌと遊びましたか。」
「かわいかったので……すみません。」
「あなたは先週、本を読みましたか。」
「あ、一冊。で、でも、ビジネス書です。ほんとです。」
「……べつにいいんですよ。傾向をお聞きしているだけですから。」
「ところで、じつは投書が来ているのですが、これはあなたの書いた詩ですか。」
「……っていうか、これは仕事のメモです。そう、メモですよ。」
「ほう。では、毎日、非効率なのに駅まで徒歩で通っていますね。自宅から駅までのSPICAの使用履歴がありませんよ。」
「混雑が苦手なもので。」
「わたしどもは、あなたの睡眠時間を心配しているんですよ。非効率な通勤のせいで早起きするのは大変ですからね。健康じゃないと活躍できないでしょ。」
「ど、どーも。」
「ところで、維新前に図書館で『老子』を借り出していますね。」
「でも、もう、忘れました。覚えていません。」
「忘れたとは?……それも無為自然の実践ですか?」
「いえ、ただただ、アタマが悪いだけです。」
「よかった。特定禁止図書ですからね。ところで、維新前はテツガク科にご在籍ですね。」
「すみません。すみません。ああ、ごめんなさい。わが人生最大の過ちです。活躍している皆様には本当に申し訳ないと思っています。」
「維新前の過ちですね。それじゃ、教師くらいにしかなれないでしょ。」
「自分について考えてみたくて……」
「え?……もしかして、抑鬱傾向はありましたか?」
「いいえ!とんでもない!」
「そうでしょうね。まあ、鬱になる自由が制限されたのは、活躍三年でしたから、法の遡及適用はしませんよ。……どうも、お話を聞いていると、活躍が足りませんね。このままでは結婚もできませんよ。結婚したいなら活躍ポイント3000はないと。あなた、まだ30代ですよね。40までに活躍ポイント5000に達しないと、ベーシック・インカムの停止もあることは知ってますね。」
「はい。……どうすればいいでしょうか。」
「まず、指定活躍ソングの『ガッツで元気!』を毎日聞いて、マエムキになってください。それから腸内フローラドリンクもですね。……脳活手術はもうちょっと待ちましょう。あれもお金がかかるんで。あなたのような中途半端なサボタージュ分子にはつかえないんです。」
「わかりました。」
「では、活躍課窓口で四半期目標を提出してください。これは国家との契約ですから、マジメにおねがいしますよ。最近もあんなフザケタ目標を書いた方々がおられて、脳活させていただきました。」
役所の壁には「活性課の実績!!非活者を活性化!」と、壁新聞がはりだしてあった。
身の毛もよだつ非活者たちの極悪な発言がならんでいた。
『がんらばないことをガンバル!』
『一生懸命がんばらない』
『まいにちたのしくサボる』
『お花を育てる。』
『釣をする。』
最後には、なんと中学の担任にこんな目標を提出した生徒がいた。
『ハヤク、シニタイ』
なんてヤツだ!
国家総活躍の時代に!
(終わり)