第9話 不在の土地神、神使達は踊る1
わんっ! わわわわんっ、あお~んっ!
くぅくぅ? くぅ~ん、ぉおんっ。
わふ、わぉふっ! わふっわふっ!!
?
……ッ?!
失礼しました、ついクセで犬のまま語りに入ってしまいました。
僕の名前はクロ。天照様よりマコト様の神使として使わされた者。
黒柴だからその名前を付けていただきました。
そして隣で包まってる白柴がシロ。
……ちょっとワケありでして、拗ねてるみたいなので今は触れないでおきましょう。
今は僕たちが召喚されて、天照様が帰られたところでしたね。
まずは村の人たちに挨拶をするので、人の姿へ変化します。
陽光が姿を消すと、黒い柴犬は飛び上がり宙返りを行う。地面に着地した時には姿を変える。
腰に一振りの刀を帯刀し、独特な模様の羽織を着た侍が立っていた。
黒色のダンタラ模様、新撰組を思わせる羽織だが背に誠の文字は無い。
年はやや若いが16歳ほどの整った顔立ち、チョンマゲに似た髪型をしている。
「私の名前はクロ。ヒノモト村土地神様の神使です。マコト様が動けない今、我々が村の守護を勤めさせていただくことになりました」
「……」
シロ~、自己紹介位自分でしてよ。
仕方がないなぁ……
「ほら、ちゃんと挨拶を―――」
「ヴヴヴゥゥゥゥッ! 」
触ろうとしたら威嚇されました……やっぱりあの事で怒ってるみたいです。
ここへ向かう時にちょっとね、まぁ今は村の人たちに説明しないと。
シロの事は諦めてクロは説明を始める。
2人が行う事は単純明快、物の怪退治と村人達の悩みを解決する2つ。
土地神は神社の修復に力を集中しているため、村は完全に無防備な状態。
まずは村内に発生する物の怪を退治することで、ヒノモト村の土地自体にに力を取り戻させる必要がある。
村人の悩みの解決については言葉通り、依頼を受けて解決する。
何でもとまではいかないが、人間・妖怪の解決できない物の怪に関する事が主となる。
数をこなして信頼を得て、信仰してもらうのが目的だ。結果によっては人が増えていくかもしれない……
人が増え、信仰してもらえば土地神の力も強大になってくるだろう。
とまぁ大まかな説明はこんな感じです。
え、一人称が違う? 公私混同を避けるためと言いますか、村人の前では私を使ってるんです。
その事は置いといて……さっそく1人の村人が悩み事を話してくれるみたいですよ。
「あんのぉ……今の話はホントだが? 」
「ええ、その内容によりますが」
「んだば、あの畑らをなんどかしでぐんねぇか? 」
村人は後方に広がっている田畑を指差す。
内容を聞くと、作物が育たなくて困っているらしい。
土や肥やし、与える水に問題は無いという。
「……他に原因があるとすれば、もしかしたら物の怪が原因かもしれませんね」
「や、やっぱり物の怪の仕業だか? ここん所凶作が続いてて……今年もだったらワシ等は飢え死にじゃっ! 」
「もう蓄えも少ねぇ……クロ様、お願いしますだぁっ!」
そんなに頭を下げなくてもやりますよ、さっきからプンプン匂いますし
これは……霊系ですね、しかも相当昔の。探してみましょうか。
「わかりました、私にお任せください。皆さんは物の怪から襲われぬようにご自分の家に―――」
「そ、その自分家に来たらどうするだっ!? 」
「ではこの結界の札を柱に貼ってください、それで物の怪は入れなくなります」
札を渡すと、村人たちは蜘蛛の子を散らすように去って行った。
しかし一人だけその場に残る。
「……おい」
「な、なんでしょうか? 」
「他のは信じたみてぇだが、俺は違う。神っつうもんを信じたわけじゃあねぇぞ。お前ぇ等は人の心を弄ぶ物の怪だッ!!」
「ッ!? 」
目の前で札を切り裂き、どこかへ行ってしまう。
僕は突然の事に言葉を失っていた。
「もっ……物の怪? マコト様は一体何を……」
考えても仕方がない、とりあえず対象の物の怪を探しましょう。
シロは……アクビを掻いてまた包まりましたね。
今回は役に立ちそうにないです。
※※※
~村周辺 廃屋の畑~
「クンクンクン……ここが一番強い」
神社や村人の住まいから少し離れた場所、廃屋の影に隠れるような場所に畑がありました
ヒノモト村も昔はもっと広かったのかもしれないですね。
「瘴気がこんなに……」
畑の中央には黒い煙に包まれた髑髏、この煙は物の怪たちが振り撒く【瘴気】。
これが人間や妖怪、濃くなると神にまで悪影響を及ぼすんです。この髑髏は恐らく過去に亡くなった人でしょう。今は畑だけで済んでますが早く手を打たないと……
「まずは物の怪が此処から出ないように結界を……ハァッ!」
袖から札を4枚取り出し、空に向けて放つ。
各札は畑の4方を囲うように配置され、宙に留まると、ほのかな光を放つ。
「よし、コレで大丈夫なはず。 あとは霊を祓うだけ……」
畑に踏み込んだ瞬間、鼻を衝くような異臭が……ウプッ!
……な、なんとか持ち堪えました。嗅覚を人間並みまで押さえればなんとか大丈夫です。
異臭に……霊、いや怨霊の匂いが混じってる。
「ウググ……様々なふ、腐敗臭が」
人間並みでも辛いモノは辛いです……でも近づいたおかげで特定できました。
「畑怨霊、姿を現すんだ! 」
地面が盛り上がり、髑髏が転がってゆく。土の山からは紫の珠と植物の蔓らしきモノが現れた。
蔓は収束し形を頭部の無い人間の身体に変えた、所々には死体の肉片も付いているようだ。
地面を転がる適当な髑髏に腕を伸ばし、身体に取り付けると唸るように声を響かせる。
『オ―――ォォォ――イ――族、ニンg―――ガ―――くいイイイィィィ!』
ほ、ほとんど聞き取れない……相当怨みがあったみたいですね、人間だけでなく神族にも。
……ここからが本番です。
この物の怪の身体には紫色の珠、【怨珠】という核があるはず……実はこの怨珠、まだ未解明な部分が多いんです。できれば回収したいのですが道具が足りないので今回は破壊します。
多分余裕がないので語りは作者さんと交代です。
「さぁ、祓わせてもらうよ」
クロが刀を抜き、脇に構えると畑怨霊も戦闘体勢に入る。
周囲に瘴気を集め鍬や鎌等の農具に変化させていく、どの農具も血や錆で汚れていた。
『……ォォォオオオッ!! 』
吠えると同時に宙に浮かせていた鎌を放つ。
しかしクロはその場から動かない。
息を深く吐き、目を瞑る……。
直前まで近づいたとき、目を見開きクロは刀を振るった。
「【犬走】! ヤアアアァァァッ!! 」
順に迫る鎌は次々と切り裂かれる。
畑怨霊は何が起こったのか理解できていないようだ。
クロの刀はほのかにだが白く発光していた。
犬走と言うのは彼の持つ技の一つだろう。
「それで終わり? なら次はこっちからっ! 」
クロは地を蹴り、距離を詰める。相手も近づけさせまいと応戦する。
次は農具だけでなく蔓の腕を鞭のように振り回す。
「……ッと、甘いよ! 」
飛んでくる鍬と鎌、不規則に動く蔓を冷静に見切り、刀で切り払いながら前に進む。
途中盾にされた蔓には農具が突き刺さり畑怨霊は自身の身体を傷つけてしまう。
『グオオオォォォ……』
痛みに怯む隙をクロは見逃さなかった。
腹部に狙いを定め刀を振るい、切り抜ける。
ガキィン……
金属同士をぶつけたような音が響き渡る。
刀は確かに怨珠に当たった……しかしクロは目を見開き、顔をこわらばせる。
「そ、そんな……僕の……」
『グゥゥゥ……ォォォオオオ……』
切り裂かれた胴体からは黒い殻に覆われる怨珠が見えていた
刀の斬撃で亀裂が入ったらしく、そこから紫色の光が洩れている。
「僕の【斬々丸】が……折れたッ?! 」
折れた刃が地面へ突き刺さる。
一方畑怨霊は斬撃の衝撃で体勢が崩れたのか、上半身をズルリと後方にのけ反らせてしまう。
胴体と脚部を繋げていた蔓は千切れていき、そのまま地面へ落ちた。
『ア゛ア゛ア゛アアアァァァ……捕マ、え……たァ 』
転がりながら髑髏は呟く。
その瞬間クロの脚に何かが絡みついてきた。
「しまっ―――」
絡みついてきたのは畑怨霊の蔓。脚の部分を地中で伸ばし、クロを捕縛したのだ。
言葉を発した時には腕まで縛られ、一瞬で簀巻き状態になる。
『オ……エハ神ゾ……ノ…………クぃニクイ……にクイ、憎いッ。
憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ
憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ
憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イニクイニクイニクイニクイニクイィィィィッ』
髑髏がカタカタと震えながら叫びだす。
怨珠を包む殻の隙間から瘴気が溢れだすと、折れた刃に伸びていく。
「ま、まさか」
彼の予想は当たっているだろう。
瘴気を蔦に変化させ、抜き取った刃の切っ先をクロへ向ける。
『………………死……ネ』
ポツリと一言漏らすと刃は勢いよく放たれた。
毎度ど~もありがとうございます、KUMAです。
今回からマコトの神使として2匹の犬が出てきましたね。白柴と黒柴、飼いたいなぁ。
名前もシンプルに[クロ]と[シロ]、今回出てきたクロの服装は新撰組、髪形はチョンマゲっぽいヤツなんですが……某ゲームの主人公の髪形ですね。カブトやクワガタ型のロボッ―――おっとこれ以上はいけない。
一人称は[僕]、人前に出る時は[私]に変える。シロの恰好も大体は決まっていますが、まだ秘密。
今回は人によっては気づいている方もいるかもしれません。
畑怨霊という物の怪についてですが、書籍等にも名前はほとんどなく、水木しげる大先生により創作されたモノとの説があるそうです。
凶作で餓死した人々の怨霊で、家よりも大きく、鬼のような顔をした姿をしていると説明にありました。他にも作物に憑りついて人間を喰らうと書かれているのも……。
*畑怨霊 本作品でのイメージ*
・全体像
1.畑の作物やその土地の腐敗させる。怨霊又は植物の妖怪。
→植物に憑りつき人型になる怨霊/霊の状態は農民の姿(こっちは没にしました)
2.頭部以外、つまり身体を太めの蔓で構成し所々に人間の腐肉を付けている、適当な頭として髑髏を手に取りくっつける。目の部分は赤く光る。大雑把だと……時オカのス〇ルフォスと大デ〇ババ複数体を融合させたキメラモンスターっぽいかも。
・攻撃方法
瘴気を農具に変えて飛ばす中距離攻撃。両腕を鞭のように振るう近距離。拘束技もあり。
・サイズ
人間で言う190㎝くらい。
……メモを見る限りはこんな感じですね。
最初は名前で判断して書き進めてました、途中気になったので調べなおしたらコレですよハハハ……。
ちなみに怨珠と言うのは書いてる途中に思いついたものです。こう、なんか物の怪には核的なものがあってもいいなぁと。これは今後も出していく予定ですので。
今回の説明はこのくらいですかね、あまりガチガチにすると書けなくなりますし。
さて、活動報告にも書きましたが更新予定を変えました。
今回の件で[言葉]の怖さを再確認できた気がします。私自身も気をつけなくては……。
長くなりましたが最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
スローペースですが、今後も土地神ライフをよろしくお願いします。
それではまた次の機会に……ではでは~