第7話 神様は万能じゃないの?
ど~も、書類に埋もれたマコトです。
皆さんは作業する時は眠りこけないようにしましょう。
紙の場合は切り傷ができることがあるので……ね?
あ、一緒に作業していた女の人が掻き分けてくれました。
「ちょっと、大丈夫? 」
「だ、大丈夫です……ホントにこれが研修なんですか? 」
「新人なら誰もが通る道なのよ……この仕事は」
床にばらまかれたモノを集めながら聞くと、彼女は遠くを見るようなまなざしをしていた。
そういえばまだ名前を聞いてなかったなぁ、ついでに色々と聞いてみましょう
「なにか辛い事でも? えっと、……お名前は」
「言ってなかったかしら? 月読 ミコト、さぁ早く終わらせましょ」
彼女は話を切り、そのまま作業に戻る。
よほど言いたくないなら聞かないでおきましょう。
……ん? 月読、ミコト?
「月読命?! え、男の神様じゃないの!? 」
「え、何? いきなり大声出してどうしたの? ……そっか、現世の神界から来たんだっけ」
咳払いをし、軽く説明をしてくれる。
まずはこの場所、神界から。
名前の通り神様が生活している世界。天国、地獄、そして人間界の中間にある場所。
此処から各場所へ出勤?しているそうです。そういえば役場に向かう途中で住宅や駅もありましたね。
次元ごとに仕様が違うらしく、色々とトラブルも多いとか……
次に自身の事について。
天照の陽光が兄、下にもいるようですが、それについてはまだ話してくれないそうです。
現世、元々私のいた世界では男性神と言われてますが、天照と同様に次元が違えば性別も変わる事もあるだそうです。ここでは事務課の課長をしていると。 中間管理職って言うのかな?
……違う気がするけど、まぁいいか。
「課長さんだったんですか、それじゃあ陽光さんは……」
「ここのトップ、一番上の人」
「天照の陽光さんが此処のトップ、月読 ミコトさんが事務課の課長……建速、須佐之男命さんはどちらに?」
「さっきも言ったと思うんだけど……あの子はねぇ、まだここで働けないの。
ちょっとワケありでね? ホント聞かないでちょうだい」
【子】って言うくらいだから幼いのかな?
私の知っている須佐之男は男性神で、悪神ってことぐらいだけど……
あまり踏み込むのは良くないですね、やめましょう。
おっと、色々聞いてる間に誰か来たようです。
「おいミコト、急に呼び出して……ってなんでお前が―――」
「こんのクソ兄貴! 新人を入れるなら前もって連絡しろっていつも言ってるでしょ!?
大体いつも……」
彼女の文句は止まらない、まるで機関銃のように次々と言葉を放っている。
あ、女の人がそんな事言っちゃ駄目ですよ。
そんな【ピーッ】って言いながら陽光さんに対して【ピーッ】するなんて……
=ここから先はご想像にお任せします=
~20分後~
「……もういいか?」
陽光さんはいつの間にか装着していた耳栓を外す。
それと同時に薄い光の膜、多分防御壁かと、それが消えました。
私、耳鳴りがすごいです。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……もう、いいわ」
そりゃ全力であんな事をしていたら息切れしますよ。
途中からはピーッって音しか聞こえなかったですし。いったい何の音だったのかな?
おや? 陽光さんが私を見てます、と言うより睨んでる。
「で、なんでお前が此処にいるんだ? マコト」
「いやぁ~、神社を散策してたらいつの間にか……」
これまでの経緯を軽く説明すると、ミコトさんも私が土地神であった事に驚いてます、「嘘……こんな子が? 」って言われてもこれが現実です。陽光さんは……とてもめんどくさそうな顔をされてました。
1週間で神社を直すと言った瞬間にですよ? 眉間にシワを寄せて口はへの字になってました。
「お前なぁ……1週間で直せるわけないだろ? 」
「なんらかのやり方があると思ったんですがねぇ、こう、指をパチンッと鳴らすと謎の光で覆われて的な」
「あ、あのねマコトさん? 神様もそんな万能じゃないの。モノ自体は直せるんだけど、その、なんて言ったら良いのかしら……? 」
流石に2人とも困惑しているようです。
「例えば……だ、偶然持ってた筆を使うか。 これを、フンッ」
ベキッ……バキッ……
次々と折っていき、どこからかすり鉢を取り出すとゴリゴリと細かくしていく。
ついには木片は粉になり、毛も一緒に混ざっていた。結構高そうなモノに見えたのですが、大丈夫かな?
「ん? ああ、コレか? 俺のじゃない、ミコトのだから」
「ハァッ?! ちょっと―――」
「ちゃんと直すから黙ってろ」
すり鉢を片手に、ミコトに対して何か唱えると黙ってしまう。話そうとしているが口を強制的に閉じられてるようだ。殴ろうとすると今度は腕を後ろに縛られ、これは……エビ反りと言うのでしょうかね?
両腕と脚がくっつきそうです、彼女は相当身体が柔らかいんですね。
「よし、これで静かになった」
「ムッグーーッ!? ムググググーーーッ!! (ちょっとーーーっ?! クソ兄貴ーーーー!!)」
「よく見てろよ、今からこの筆だったモノを直す」
すり鉢を机の上に置き、手をかざす。
光が集まり、モノ全体を覆ってしまう。
数秒経つと光は収まり、すり鉢の中には新品同様の筆があった。
「おぉ……あれだけやったのに」
「そう、直せる。でも只じゃあない、見合った対価が必要になる」
見合った対価、それは【信仰心】、別名は【徳】。神々の力の源。
人間であった時は善行を行えば溜り、次の転生先を決める対象にもなっている。
神様の場合は人々の願いを叶え、信仰される事で溜まっていくモノらしい。
「ちなみに神界では、金の代わりに使われてる。でも1円≠1徳だから、そこは注意な。お前のいる所だと1円=1文、1000文で1両だからな」
「お金の単位は文……と、まぁ元いた場所と対価が同じなら何とかなりそうですね」
「しかしなぁ……、神社の修復ってより、あれじゃ再建になる。その場合、金と時間は―――」
懐から取り出した十露盤をパチパチと弾いていく。
……明らかにそこに入る大きさじゃないですよ、四次元なモノなんですか?
「これ位掛かる、時間は現世の技術があれば最低でも3~4年、今いる大和ならもっと掛かるかもな」
「……マジですか? 」
むむむ……どうしましょうか? 期限は大幅に過ぎてしまいますし、なによりもお金が……
こうなったらDOGEZAをしてでも―――
「神が簡単に土下座すんじゃねェ。俺は不可能とは言ってない、これは人間が行った場合だ。土地神の場合……大分無茶することになるが、自業自得だからな? ついてこい」
来いと言うのであれば行きましょう。
私は書類を置いて後を追う。
数分歩くと5階にある陽光さんの自室に着いた。
※※※
~陽光の部屋~
「適当に座ってちょいと待ってろ」
そう言うと棚や机でモノを探し始めた。
「確か此処に……っと、あったあった」
机の引き出しから木製の手形を取り出す。
筆で文字が書かれているが擦れていて読み取れない。
「なんですか? その……木の板は?」
「ん、コレは代行手形だ。今からお前に持たせるヤツさ」
文字の書かれていた部分を鉋で削り、新しい木目をだす。
筆と硯、墨を準備すると、サラサラと何か書いていく。
「……よし、こんなもんだろ。ホレッ」
「ワッ?! っとと、危ないじゃ―――」
代行手形の文字を見て言葉を失う。そこにはこう書かれていた。
「あ、天照大神代行? 」
「そうだ、ソイツを持ってれば俺の力の一部を自由に使うことができる。流石に神社を1週間で直す事は出来ないが、3~4ヶ月で済ませられる」
「……間に合ってないですよ、それじゃ」
「まぁそう急かすな、もう一つ道具を使う。それは地上に降りたら渡すから、さっさと行くぞ」
陽光さんは話を切ると指を鳴らす。
光に包まれたと思ったら地上の本殿前に立っていた。
なんでもありですか、この天照大神は。
今月も何とか更新できました。
予想よりも忙しくなったので更新ペース変更はある意味正解だったかもしれません。
実は先月末に大変嬉しい事がありまして、土地神ライフの主人公 (ヒロイン?)のマコトをx6x様(@pro_zelofuji/http://ncode.syosetu.com/n2685de/ )より描いていただきました!
素晴らしいイラスト、そして初レビューをありがとうございます!
今後も精一杯頑張っていきますので、よろしくお願いします。