第48話 仇討ち
消えた食料を追って辿り着いたのは新米だった頃のシロが助けられたという妖怪の集落。
更に歩みを進めた先には不気味な洞窟……中には妖蜘蛛がひしめき合っていた。
かつて助けてくれた恩人たちは既に物の怪の魔の手に掛かってしまい、彼女は悲しみに打ちひしがれる。
しかし追跡に同行(半ば強制的に)していた刀の霊、火華は微かにだが洞窟の奥に若い妖怪と禍々しい者の気配を感じ取った。
~洞窟最奥 絡新婦の廃寺~
既に戦いは始まっていた。
シロの薙刀と絡新婦の鋭利に尖った蜘蛛脚がぶつかり合っている。
彼女も手数の多い相手にも一向に退かず、薙刀を巧みに使い戦っていた。
しかしシロの身体にはいくつか切り傷を確認できる……防御を捨てているようだ。
「ッ……」
『クハハハッ! 最初の勢いはどうした? だんだん動きが鈍くなってきたぞ! 』
「五月蠅い! 」
シロは力任せに薙刀を振るい、絡新婦を無理やり後退させた。
連打が終わった後に彼女の呼吸は荒れていた、相当疲労も溜まってきているようだ。
頬の傷から血が垂れてきている、他の傷よりも一段と深いらしい。
汚れも気にせず白いダンダラ羽織で血をぬぐい、呼吸を整える。
『おいシロ、俺を使え! 奴にはその長物では分が悪い!』
「ぜぇ……ぜぇ……すまんな、火華。……(ボソボソ)」
『おぅ、……っていきなり何を―――』
シロは何小声で呟いた後、後ろへ放り投げる。
宙で数回転しながら飛んでいくと、そのまま地面へと突き刺さった。
火華も霊体を出して抗議しようとするが彼女の顔を見て止めてしまう。
笑っていた、何か策があるようだ。火華は自分に与えられた役割を全うする事に決めた。
『あぁ分かったよ、この頑固犬! 死んだら承知せんからな!! 』
「そう易々と死んでたまるか、黙ってそこで見てろ」
『おや、良いのかい? 火を使えば少しは有利になるかもしれないのにねぇ』
その様子を見ていた絡新婦は自身の弱点である火の事をさらけ出す。
後ろの脚を動かしながら哂っている姿は明らかに挑発しているようにも見えるが、シロも馬鹿ではない。
しっかりと相手に狙いを定め、薙刀の切っ先を向けている。
「……(しかし手応えが妙だ、たしかに攻撃は当ててるのに怯みすらしない)」
『そぉれ、糸に絡まれなさいな! 』
「チッ! 」
絡新婦は背にある蜘蛛の糸壺から粘着性のある糸を撒き散らしてくる。
上から雨が降るように、そして時間差で正面からも……シロは地面に札を撒くと薙刀を回転させ上からの攻撃を防ぎ、札からは炎が噴き出して壁となった。
全ての攻撃を防ぎ切ったが相手の姿が見えない。
糸による攻撃は囮だったようだ、奇襲を狙っているらしい。
『ケケケー!! 』
「ウグッ、小癪な……! 」
絡新婦は奇声を上げながら脚で地面を突き破ってきた、石のつぶてと鋭利な足先がシロに襲い掛かる。
脚の攻撃は回避できたがつぶてと砂埃が目に入り視界が遮られてしまう。
『どうだ? 何も見えまい、我が父の仇を討とうではないか』
「父……だと? アチキはお前の父親を殺した覚えはないぞ」
『ふざけるな! 我が父、土蜘蛛を討ったのはお前なのは分っている、同じ苦しみを……じっくり味わうがいい』
「なんとなんと、あの土蜘蛛か。そういえば居たなそんな奴―――がぁ?! 」
軽口をたたくとシロの背中に痛みが奔る、何か太く撓るモノで叩かれたらしい。
続けて右腕、脚、そして顔と連続で攻撃を受けその場に膝を着いてしまう。
まだ視界は回復しない……開けるのも辛いようだ。
「ぬ、グゥ……」
『無様よのぉ、所詮神使もこの程度か』
「クク、なら”この程度の神使”にやられたんだなお前の父は」
『黙りなさいな』
「イギッ?! 」
再び攻撃を受けるシロ、どうやら絡新婦は糸に砂利や石を詰めた鞭で身体を打っているようだ。
背中から血が滲み、白い羽織を赤く染めていく。
『痛いか? 痛いだろう? だが、まだこんなものじゃないぞ!! 』
「ぐああああああっ?! 」
※※※
突入してから数刻後……最奥の廃寺内でシロは捕まっていた。
両腕を糸で縛られ、天井から吊るされている。
衣服は所々引き裂かれ、白いダンダラ羽織も血で赤く染まっていた。
血は滴り、足元に小さな血だまりが出来ている。
「……ッ、うぅ」
『ようやく目覚めたか、まだまだ続くぞ』
「い、良いのか? アチキばかり構っていて……ウグぅッ?! 」
『まだ減らず口が叩けるか』
シロの挑発に乗り、更に鞭で打ち付ける絡新婦……しかし外では火華が動いていた。
霊体となっているが人を持ち上げるのは造作もない事、外で吊るされている子供たちを救出している。
出力を抑えたい炎で少しずつ糸を焼き切り、一人ずつ確実に下ろしていく。
『興が冷めた、飯にでもしよう。目の前で子を喰らってやる』
「クク、出来れば良いな」
『……! 貴様、まさか!? 』
慌てて外に出るもすでに遅し。
最後の一人を救出した火華は若い妖怪少年に本体を持たれ、その場から去ろうとしていた。
「げ」『げ』
『グヌヌヌ……き、貴様らぁー!! 』
蜘蛛の脚を使っての全力移動。迫りくる巨体に少年は恐怖し、その場から動けずにいた。
咄嗟に火華は霊体を出して炎を出して応援するも相手は腕の一振りで消し去ってしまう。
単体で動いていたため霊力が底をつきかけており、出力が十分ではないようだ。
『く……やはりシロがいないと駄目か!? 』
『死ねぃ!! 』
鋭い蜘蛛の脚が振り下ろされる。
少年は目をつむり、腕を交差させて防御の姿勢になるが生身では耐えられないだろう。
火華はまだ諦めておらず、ギリギリまで炎を放ち続ける。
しかし脚は炎を斬り裂き、少年を貫こうとしていた
ガキィン……
攻撃は何者かによって防がれた。
その姿は血で汚れた白い髪とダンダラ羽織、左手には折れた薙刀をもつシロであった。
そうしてもう一方、攻撃を受けた右手は淡い光を纏っている。
握っている蜘蛛の脚は煙を上げ、徐々に塵となっていく。
『ギャァッ?! 』
「フンッ」
怯んだところを狙って腹部に折れた薙刀を突き刺す、刃のある方ではなく折れた断面を深々と突き刺した。
本来は鈍い痛みに誰もが顔を歪ませるが、絡新婦にそのような気配はない。
腹部よりも消えた脚の方を抑えている。
「妙な手ごたえと思っていたが、本体はやはり蜘蛛の方だったか」
『ぬ、ぬぅ……だが何だというのだ。既に武器を失ったお前なんぞ―――』
「いや、武器はある」
言葉を遮り自身の右手を突き出すシロ。彼女の言っている武器は自身の身体であるらしい。
姿を変え、人間と獣の中間あたりの姿となった。そして左手にも光が宿り始め、彼女は構える。
相手が瞬きをした瞬間にその姿は消えると絡新婦の背中に衝撃が走り、前のめりに倒れてしまう。
「さて、今度はお前の番だ」
『ひ……や、やめ―――』
ブチリ
断末魔の叫びが周囲に響き渡る。
一瞬にして背中をとったシロは蜘蛛の脚を掴むと、胴体を自身の足で押さえながら無理やり引き抜いたのだ。
『い、痛い! 痛いィィィィィっ!! 』
「アイツらが受けた痛みはこんなものじゃないぞ、」
一本、また一本と次々に絡新婦は脚を失っていく。
半分を失った所でようやくシロの拘束から脱出……しかし息は明らかに上がっていた。
呼吸を整えると今度は両手を広げて自身の身体を見せつけてくる。
『ぐ、ぅぅ……良いのか? この人間が死ぬぞ? 』
「……何? 」
『寄生している人間が死ぬと言っているのだ! それでもいいのか!! 』
「何を今更……だが、フム。そうだな、神使として人間に手を加える訳にもいかん。どうしろと? 」
『死ぬなら一人で死ぬ、この人間を連れて此処から去れ! 』
相手が自害を要求してきたことに驚きを隠せないシロ。
女性の身体がその場に倒れると、背中から黒と黄色模様を持つ巨大な蜘蛛がズルリと出て来た。
女性の身体に傷はあるが確かに息をしている……絡新婦はその場から少しずつ後退していく。
その様子を見たシロは女性の安全を確保する為に近づいた、その瞬間―――
「しゃぁッ! 」
「ぬ? 」
『カカカッ! 掛ったなこの愚か者め!! 』
抱きかかえたその時であった、女性は手足を拘束するように抱き着きシロを捕縛してきたのだ。
その様子を見た絡新婦は好機とみて攻撃を仕掛けてくる、シロの目には牙の様な突起が大量に着いた蜘蛛の胴体が飛び掛かって来るように見えるだろう。今度は彼女の身体を奪うつもりらしい。
「愚かはそっちの方だ、ムン! 」
『な、何ぃ!? 』
シロもまたワザと罠に引っかかったようだ。
全身から霊力を放出し、拘束を解除する。そして相手が空中で無防備になった所を手刀で貫いた。
もう一方の腕も突き刺し、内側から引き裂く量に絡新婦をまっぷたつにする。
半獣状態を解除し、人の姿に戻ったシロはその場に座り込み天井を仰いだ。
「終わったぞ、遅れてスマン。皆……」
その後シロは子供たちを連れてヒノモト村へ帰還。
マコトに事の顛末を全ては無し、彼らを迎え入れる事を懇願した。
もちろん彼女は快諾、クロに新しい住居を作るように指示を出す。
新たな住人がヒノモト村に加わる事になった。
彼らは神使達の宿で働く事になるのだが、それはしばらく後のお話。
ど~もお久しぶりです、体調が中々安定しないKUMAです。
最近グッとさ寒くなりましたねぇ……家はストーブと羽毛布団を出し、毛布もスタンバイさせてます。
温かい鍋物が美味しくなってきます、楽しみです。
さて今回もまたシロがメインのお話。
ちょっとピンチになりましたが何とか切り抜けてくれました。実際バットエンド的な流れも思い浮かんだのですが、作者のメンタルが耐え切れないので没となりましたよ。うん、流石にシロへ寄生する終わり方は書けなかったんよ……。
でもってシロの新形態、半ケモ状態です。この姿になると身体能力が大きく上昇する代わりに武器が使えなくなる姿です。分かり易く言うとウェアウルフ、であってるかな? まぁソレに近い感じです。
両手に霊力を込めて威力を底上げした爪による連打、俊足を生かして相手をかく乱し死角から牙でガブリ……等々獣寄りの戦い方になりますね。
とりあえず解説はこれくらいです。
また次の機会にお会いしましょう、ではでは~




