第44話 ヒノモト村防衛戦!
~ヒノモト村 神社~
神社の敷地中央付近に一人の男性が立っている。
新撰組を思わせるような模様の黒の羽織、腰には一本の刀を差し、肘を掛けながら空を見上げていた。
彼はマコトの神使、クロである。
「………あっちも始まったみたいだね」
何かを感じ取ったのか一言呟き、刀を鞘から抜く。
鳥居の方角へ振り向くと、その奥から数十体の猫が走り込んで来た。猫たちは走りながら姿を変化させると獣の特徴を残しつつ人型となり、それぞれ武器を構える。
刀や槍だけではなく鍬などの農耕道具、中には爪を構えている者もいた。
「へっ! たった一人で守りきれるってかぁ!? 」
「奥にいる人間は貰ったよ! 」
一斉にクロへと飛びかかり、攻撃を仕掛ける化け猫達……肉が切り裂かれる音が周囲に響き、地面には血溜まりが出来る。
「あっけねぇ……っ?! 」
化け猫達は自身の目を疑った、確かに自分達にはクロへ武器を突き立てた……もちろん感覚もあった。しかし、その場で倒れているのはクロではなく人の胴体程の大きさはあり、肉片が巻かれた丸太。ご丁寧にも彼の羽織と顔の部分には"へのへのもへじ"が書かれた半紙が貼られている。
「ぬ、抜けねぇ! 」
「痛ぇよ! 引っ張るな!! 」
「コッチを先に抜かせろって! イダダダダ?! 」
武器を持つ者は手放すという発想に至らず、そのまま丸太から引き抜こうとする。
しかし一方では爪を突き刺した者もおり無理やり引っ張られ、痛みを訴えていた。
変わり身を残し後方へと下がっていたクロは刀を脇に構え、その集団へ向けて駆けだした
「真神流剣闘術……参ノ段! 心犬石穿!! 」
交差と同時に刀を振り抜くクロ。
血振りを行いうと化け猫たちの集団に一筋の線が入り、身体が徐々にズレていった。
痛みを訴えながらも、化け猫たちは次々と黒い塵となって消滅してしまう。
「……まだだね、早く姿を現せ」
『ククク……お前が斬ったのは私が生み出した意思を持つ分身達、そぉらもっと増えるぞ』
突然その場に声が響き渡る。
謎の声が消えると同時に塵となったはずの化け猫たちは再び姿を現す、今度は数が倍となっているようだ。
襲い掛かって来る相手を斬り裂くもすぐに分裂、再生を行われる。
クロは一瞬のうちに化け猫達から囲まれてしまった。
「これは、キリがなさそうだね……だったら―――」
『だったらどうするというのだ? お前は押し負け、全てを奪われる。その結果は変わらない』
「もっと増やしてやる、僕も本気で行くよ」
クロの左手からもう一本の刀が出現する。
柄には紫色の紐が結ばれており、椛色の鞘に収まっている……長さは右手に持つ刀よりも短く小太刀と言う方が正しいだろう。鞘から引き抜くと逆手に持ち直し自身の前へと構える。
真後ろから一匹の化け猫が襲い掛かってきた。
「刀が二本に増えたところでぇぇぇッ! 」
「伍ノ段……犬真、刻撃ッ!! 」
「ぎぇぁッ?! 」
振り向きざまに一閃、化け猫たちは次々とクロに飛び掛かるが武器を振り下ろす前に斬り裂かれてしまう。
しかし数が減る事はない……分裂、再生を繰り返しながら勢いは増していく。
「まだまだァッ!! 」
『クッ……しつこいぞお前! 』
クロの斬撃は更に速度を増した、刀と小太刀による連撃は化け猫たちを徐々に押し返す。
そしてついに相手の動きに綻びが見え始める……増やし過ぎた故に、分身の制御が追いつかないようだ。
彼はその隙を見逃さず、自身の武器へ霊力を籠め始める
「陸ノ、段ッ……疾術剛犬! 」
刀と小太刀、それぞれを左右に薙ぐと込められた霊力が解放され、周囲に真空刃を発生させる。
クロを取り囲んでいた化け猫たちは一瞬にして斬り裂かれた。分裂は行われてしまうが攻撃の際に発生した風圧によって距離を開ける事は出来た。
瞬時にクロは周囲を見回す……自分と同じ高さには化け猫の分身ばかり、上空の様子を確認すると鳥居の辺りの景色に揺らぎが視えた。
「そこだ! 飛犬!! 」
「ウクッ……な、なんのッ! 」
クロは揺らぐ景色を目がけて小太刀を投げる。
すると見えない何かに弾かれ、声が聞こえてきた……そこには着物を頭部に羽織った女性が立っている。
どうやら彼女が化け猫たちを生み出していたらしい、小太刀は手に持っていた煙管で弾いたようだ。
彼女はクロに対して言葉を投げかけようと視線を舌に下ろすが、その場に彼はいない。
「ど、どこに……」
「真神流剣闘術奥儀、漆ノ段―――」
クロは彼女の真上に移動していた。
どうやら彼の放った飛犬と言う技は二刀流の状態で動作が変化するらしい。
本来この技は斬撃を飛ばす技なのだが、今の状態では投げた小太刀の位置まで瞬間移動を行う技のようだ。
彼は弾かれた小太刀を手に取り、両腕を交差させて宙を蹴る。
「うしろ―――」
「犬魂一擲!! 」
クロは相手と交差すると同時に武器を振り抜く。
十字に斬り裂かれた彼女は断末魔の叫びを上げながら鳥居から落ちていく……分身達は瞬く間に黒い塵となってその場から消滅していった。
「ふぅ……今度こそ、終わりかな? 」
武器を収めながら周囲を警戒するも、物の怪の気配は感じられない。
どうやら村の防衛は成功したようだ。
「あとはマコト様達の方のみか……頼んだよ、シロ」
増援に向かいたいが、彼も今回の戦闘で力を出し切ってしまったらしい。普段は行わない二刀流、そして流派技の連発で霊力が足りないようだ。
その場に膝を着き、マコトたちの無事を祈る事が限界であった。
※※※
~ヒノモト山 満月湖~
「に、にゃぁ………? (こ、コレは……?)」
「主殿?! 」
「クク、猫毒が回ったみたいだねぇ」
山頂にて化猫大将の猫美弥と戦っていたマコトの身体に異変が起きる。
身体から力が抜けたかと思うと背が縮み、手足の形状も猫のようになっていた。見た目は白猫、しかし変化は中途半端であり猫がそのまま二足で立っているような姿である。
彼女のいた場所には衣服やお札、勾玉等所持していた道具が散乱していた
「にゃっ? にゃ、にゃぁーっ?! (えっ? 私、猫になってる?!)」
「貴様っ、主殿に何をした!! 」
「言っただろう、”毒”とね。さっき捕まえた時に仕込んでやったのさ」
少し時は戻るが彼女たちが戦っている間に、一度マコトは猫美弥の尻尾に拘束されていた。
接近戦を試み、近づいたまでは良かったが相手の爪や瘴気を用いた術に翻弄されている間に隙を突かれてしまったらしい。その際に捕まった尻尾から”猫毒”という特殊な毒を盛られたとの事。
効果は見ての通り、相手を猫の状態にするものらしい。
「安心しな、死ぬような毒じゃない。まぁ一生そのままかもしれないがねぇ……ククク」
「にゃ、にゃぁ……(そ、そんな……)」
「ならお前を倒して解毒させるのみ、主殿は隠れてろ」
シロは猫と化したマコトの頭を軽く撫でると化猫大将目がけて駆け出した。
薙刀を振るうも相手の瘴気を纏った尻尾に阻まれ本体へ攻撃は中々届かないようだ。
その様子を見たマコトは自分も何かできる事がないか考え始める。
そして周囲に落とした道具を見てある事を思いつく。
「……? にゃぁッ! (……? そうだ! )」
まだ不慣れな身体で動きはぎこちないが彼女も反撃の準備を始めた。
手に取っているのはお札、そして周囲に生えているある植物を採取し始める。
シロも彼女の動きに気づいたらしく、化猫大将に注意を自身に集める動きを行う。
「肆ノ段、十日夜! 」
刃へ霊力を籠めると相手の周囲を掛けながら突きと斬撃の連撃を繰り出した。
流石に相手も全方位からの攻撃は防ぎきれず、数発は受けてしまう。
怯んだところに蹴りを入れ相手を無理やり後退させる
「ぐ、ううぅッ?! 」
「行けるか?! 伍ノ段―――」
「甘い!! 」
シロは強力な一撃を与えようと力を込めた所に不意打ちを受ける。
足元の地面から相手の尻尾が出現し身体を拘束されてしまった。
「く……」
「やはりアンタ達犬は騙しやすいねぇ、餌をチラッと見せるとすぐに喰いつこうとするんだもの」
猫美弥は尻尾による拘束をより強くする、シロも締め付けられる痛みに思わず声を上げてしまう。
マコトと同様に毒を流し込んだようだが彼女には効果がないらしい。しかし身体に力は入らない……毒を抜かなければ拘束から抜け出す事はほぼ不可能だろう。
猫美弥はシロをどのように痛めつけようか考え始める。
「さぁてどうしようかねぇ、ただ締め付けても面白みがない。目を抉る? 手足を捥ごうか? このまま血を吸い尽くしてやろうか? あぁ……どれも悩ましいねぇ」
「……そんなに油断してていいのか? 」
「ふん、強がったところで何もできやしないじゃないか。……決めた、心の臓をえぐり取ってやろうじゃないか」
「まだ気が付かんのか、この阿保め。主殿! 」
「な―――」
シロの後ろからマコトが飛び出してきた。
いつの間にやらサイズを合わせた衣服を身に着けており、両手で丸い何かを抱えていた。
猫美弥と目が合った瞬間、抱えていた物を彼女目がけて投げつける。
「にゃぁッ! (てぇいッ! )」
「小癪な! 」
マコトの投てきはアッサリと防がれてしまう。
猫美弥に当たる前に彼女の爪で斬り裂かれ、中に詰まっていた粉が周囲にまき散らされる
「にゃにゃん! (狙い通りです! )」
「こ……この香りは―――」
粉を浴びた瞬間に猫美弥はその場に膝を着いてしまう、少し遅れてだがマコトの様子もどこかおかしくなっていた。両者ともに顔が赤くなっている、マコトに関して言えばフラフラと揺れておりまるで酔っぱらっているようにも見える。
マコトが投げつけたのは粉末状にしたマタタビをお札で包んだ物、名付けるとすると”簡易型マタタビ玉”。
多少の衝撃で包んでいるお札は緩み、中身が散布されるようにしたようだ(※偶然である)。
「んにゃぁ~……ヒックッ! にゃお~ん……」
「ぐ……こ、この程度で、ヒックッ! アタイはまだ―――」
「どうした? 随分と顔が赤いじゃないか」
猫美弥に刃が付きつけられる、金色の輝きを放ち、近くにいるだけでも肌が焼けそうな程熱く感じる。
どうやらマコトの攻撃によって拘束が緩みシロは脱出。マタタビを包んでいた浄化のお札で解毒後、溜めていた霊力をもう一段階上げたようだ。どうやら現在のマコトの状態では満足にお札を扱う事が出来ないらしい、斬り裂かれた事で効果も半分であったがそれで充分であった。
「さぁ、覚悟はできたか? 」
「ま、待て! アタイが死んだらコイツは一生―――」
「安心しろ、ソレはありえない事は分かった。アチキ達が持っている札で十分浄化できる毒と言う事は今分かった」
シロは薙刀を振りかぶる、刃の輝きも最高潮に達したようだ。
猫美弥は他に手がないか周囲を見渡す……目に付いたのは近くでマタタビによって泥酔したマコトであった。
尻尾を地面に潜り込ませ、マコトを掴み自身の元へ投げつけると首元を持って彼女を盾にした。
「い、良いのかい? このまま振り下ろせばアンタの主事―――」
「まったく問題ないな」
「な……いぎぃッ?! 」
猫美弥は背中に激痛を感じる。
よろめきながら視線を後ろに向けると薙刀を振り下ろした彼女がいた。
「漆ノ段、奥儀影ノ型……鏡花水月」
「そんな……アタイはまだ…………ギャァぁぁッ!! 」
背中の傷跡から光が溢れ、猫美弥の瘴気を浄化していく。
盾にしていたマコトを投げ出し、その場でのたうち回るが光は収まらない。
「っと、大丈夫か主殿? 」
「んにゃん……にゃぁ~ご、にゃぁ~ん♪ (んん……大丈夫ぅ、えへへ~♪)」
「まったく猫となったのに呑気なものだな、やれやれ」
『ぐぅぅぅッ!! おのれおのれおのれぇぇぇ! もう少しで”あの御方”の身体を解放できるところだったのに! 許さない、許さないぃぃぃぃッ!!』
「いい加減失せろ、化猫め」
シロは壱ノ段 繊月を猫美弥へと放つ。
霊力の刃が止めとなり化猫、猫美弥は塵となって消滅。
その際黒い靄が彼女の身体から放出され、空へと消えていったらしい。
「しまった……”あの御方”について聞きそびれてしまった、それにあの黒い靄は一体……」
「にゃぁ~ん♪ (えへへ~、もう飲めないですよ~♪)」
「はぁ……とりあえず帰るか、早々にクロから主殿を戻してもらわんとな」
ふぅ……今月も無事更新できました。
ど~もお久しぶりです、KUMAです。
先月は暑さにやられてガッツリ体調を崩してしまい、後書きはお休みさせてもらいましたが今回はしっかり書きますよ~。
さぁさぁ今回のお話はタイトル通り防衛戦。前半はクロ、後半はマコトとシロがメインとなっています。
相手はどちらも化け猫でしたが厄介なのはクロが相手にしていた方かなぁ……と思ってたんですが、彼も本気を出したおかげで割とサクッと倒せたようですね。彼が本気の時は小太刀を出現させて二刀流となります、技も全体的に変化し、一番特徴的なのは【壱ノ段 飛犬】。本来は霊力の斬撃を飛ばすはずが小太刀を投てきし、その位置まで瞬間移動するようなモノへとなりました。やっぱこう、スタイルが変わると一緒に技も変化するのって良いよね?
そしてマコトたちの方はこれまたてんやわんやしてましたね、相手の毒によってマコトは猫となってしまいました。ぱっと見はア○ルー……うん、その方が動きもイメージしやすかったんです。
逆境にもめげずに思いついた対処方法はまさかの自爆攻撃、マタタビの詰まった球体を投てき。
ライオンでも脱力状態になるくらいですから相当強力なんでしょう、猫にとってはね。
余談ですが、この事件をきっかけにマコトはいつでも猫に変化できるようになりました。
よし、今回はここまで。
また次の機会にお会いしましょう、ではでは~




