第36話 華ちゃんとの修業
はいはいど~も、マコトです。
私がいない間もヒノモト村に異常はなかった……あ~、違いますね。
えっと、物の怪! お休みの間は大きな襲撃もなかったようで、皆さん元気に過ごしていたそうです。
今は冬も近づいてきているので村では食物や防寒着、冬道具の準備等々……わりとバタバタしているみたい。
村の人口も大分増えましたねぇ……えっと温泉宿 ”つくよみ”のクロやシロ、スサノさんに八頭さん。薬屋の玄内さん。甘味処 ”あまてる”のおばちゃん、璃狐さん、枯狸さん。萬屋 ”鈍輝”には元忍びの親子、蘭さんと風丸くん。最近倉庫兼預かり屋 ”結”を開いた濡れ女であり雪女でもあるシズクさん。そして武具屋 ”玄人”のカジバラさんと天目さん。
「ホント、増えたなぁ……」
『隙ありッ 』
ポカッ
「イっ……たぁ~?! 」
『修業中にボケっとしてるからだ、お主が”霊刀をちゃんと使えるようになりたい”と言ったんだぞ? 』
「そ、それはそうですけど華ちゃ―――」
『ええいその名で呼ぶなと言ったろう、俺の銘は火華だ! ひ・ば・なッ!! 』
「休憩も無しに続けてたら私の体力が持ちません……なので少し休みましょう? 華ちゃんさん」
「な、なんだその呼び方は……ああもうッ、分かった! 俺は……少し消える、休みが終わったら適当に呼んでくれ」
そう言うと華ちゃんは姿を消してしまいました。いやぁ、たしかに言ったのは私ですけど日が昇ってないのに起こされるとは思ってもいませんでしたね。準備体操で身体をほぐし、まずは村の見回りついでで走り込み。次は境内にて素振り、その次は室内で瞑想……不意に眠気に襲われて寝ちゃいましたね、この時は肩をパーンッて叩かれてとても痛かったです。
そんなこんなあって、ようやく太陽も顔を出してきました……眩しいなぁ
「う~ん、あまてるはまだ開いてないし……とりあえずもう一回見回りにでも行こうかな」
とりあえず霊刀はしまっておきましょう。
此処に置いていくわけではないですよ? 神様特権的というか、別空間にしまうというか……簡単にいうとショートカットです。念じると手元に出現する感じです。
「……これで良し、じゃあ出発ぅ~♪」
※※※
~温泉宿 つくよみ~
「この村は匂う……匂うのぉ、それに上質じゃ」
宿の一室にて男が呟いている、閉め切っている事もあり室内は薄暗い。
手に持っているのは刀……部屋を照らす蝋燭の光が反射すると、刃は不気味な輝きを見せていた。
「どれだけ喰えば、お前は満たされる? 」
刀は老人の呟きに応えるように刀身を震わせ音を鳴らす。
キーン……キーンと一定の間隔で甲高い金属音が響いていた。
暫くすると、隣の部屋から壁を叩かれる。
「……それでは行こうとするかの」
鞘に納めると刀は静まり返る。
手早く荷物を纏めると蝋燭を消し、部屋を出た。
宿の出口まで移動すると、受付には帳簿の整理をしていたシロがいた。
「おや、こんな早朝に出立か? じきに朝飯の準備ができるのだが……」
「いや結構、昨晩の物がまだ胃に残ってての」
「朝を抜くと力が出んぞ? 」
「それに年を重ねると食事が上手く喉を通らなくてなぁ、身体を鍛えていても老いには敵わんわい」
「まぁ無理には勧めんが……では、道中気を付けてな」
老人は勘定を済ませ、宿を出る。
すると今度は石段を下りてきたマコトと出会う。
「おぉ、儂も運が良い。おはようございます、土地神様」
「おはようございます。こんな朝早くから出発されるのですか? 」
「えぇ。残り少ない人生、時間が惜しいですからなぁ。この村はもちろんですが、より多くの土地を回りたいのですよ」
「いろんな土地を……旅行、良いですねぇ。私はそう簡単に行ける立場ではないので少し羨ましいです、道中お気をつけてください」
挨拶を済ませた彼女は村人たちの住む長屋の方向へと歩みを進めた。
老人はその背中をジッと見つめ、ポツリとつぶやく。
「何だ? ……今度はアレが喰いたいと、良いのか? まだあの娘は未熟のようだが―――」
手を添えると小さな振動が伝わってくる。
鞘からは瘴気に近いモノが滲み出てきていた、しかしそれはすぐに気中へ霧散してしまう。
しかし彼女はもちろん、すぐ近くにいるシロやクロ、スサノも気づいてはいない。
「そうか、あの娘から匂うと……ならば行こう。なぁ、神喰? 」
不敵な笑みを浮かべると、男性はマコトの後を追った。
誰も彼女に迫る脅威に気が付いていないと思われていたが、ただ一人だけ……あの一瞬生じた瘴気に反応した者がいた。
その存在は今、宿の風呂場にて掃除を行っている人物……八頭オロチであった。
「ッ?! 一瞬何か得体のしれない気配が……? 」
「どうしたのオロチ? 」
「あ、いえ。申し訳ありませんスサノ様。少し変な気配を感じまして……」
「変な気配? アタシは分かんなかったけど……それより早く終わらせよ? あまりゆっくりしてるとシロに怒られちゃう」
「そ、そうですね。きっと……きっと私の思い過ごしです」
※※※
~ヒノモト村 長屋方面にて~
「ん~……特に異常はないですねぇ、平和で何より。うんうん」
マコトは周囲を見渡しながら独り言を呟いていた、時折すれ違う住人と挨拶を交わしつつ順調に見回りを終わらせていく。しかし彼女はまだ気が付いていなかった……後方の建物等の陰にはあの男性が居る事を。
獣のように相手に狙いを付けつつ、気配を消しながら少しづつ近づいてきている。
「さぁて、そろそろ喰らおうとしようかの……」
男性は音を立てずにその場から飛び上がり、長屋の屋根へと着地する。
着地の際に音が鳴るかと思いきや全くの無音……彼の足元には黒い靄の様なモノが漂っていた。おそらくその靄が衝撃を吸収したのだろう。
屋根の上を駆け、獲物へと急接近……ついにマコトの真上へと到達した。
それでもマコトは気づかない! のんびりと気ままに道を歩いてる。
「隙だらけよのぉ……では遠慮なく―――」
男はその場から勢いよく飛び出した、靄も衝撃を吸収しきれないほどの踏み込み。屋根の一部が弾けていた。近づくごとに柄に添えられた手には力が入る……自身の間合いに到達した瞬間、鞘から刀を解放した。
「ふんふふ~ん♪ ……んん? コレは、枯狸さんのだ。落としたのかな? 」
落ちていた巾着袋を見つけその場に屈むマコト、橙色の葉が描かれた模様に見覚えがあるらしい。
まさに手に取り、裾へしまい込んだ瞬間であった―――
ズドンッ!
突然彼女の目の前で砂煙が舞う、その衝撃で思わず尻もちをついてしまった。
砂煙はすぐに収まり、中からは刀を振り下ろした老人が背を向けた状態で姿を現す。
「ひゃわッ?! 何ですか……って貴方は先ほどの―――」
「……チィ、外してしまったか。ムゥン! 」
「ヒィッ!? 」
老人は振り向きながら刀を振るう、マコトは地面に寝そべる様な姿勢になる事で紙一重で回避。
遅れてパラパラと髪が落ちてくる……額からは微かに血も流れていた。
「ではコレはどうする? 」
「やば―――」
流れるような動きで刀を逆手で持ち直し、真下へと突き立てる。
切っ先がマコトに到達しようとした瞬間―――
ガキンッ……ギギギ
刀の動きが止まった。
老人の手には分銅の付いた鎖が巻き付けられており、それは近くに生えていた木から伸びていた。
「……痛く、ない? 」
「チッ、何者だ? 」
「マコトさん! だ、大丈夫ですか?! 」
鎖の伸びる先には八頭オロチが立っていた、服装は仕事着……どうやら抜け出してきたらしい。
使用している武器は鎖鎌、どうやら太い枝を利用して腕を上へ引っ張るように動きを止めているようだ。
「い、今のうちに……距離をッ」
「は、はいッ、ありがとうございます!」
「小癪な……フンッ」
老人は腕の力を抜く……ほんの一瞬だが鎖が緩み、束縛から逃れる。
分銅がオロチの元に戻る頃にはマコトも態勢を持ち直していた。
「や、八頭さん、どうして此処に? 」
「何と言いますか、嫌な感じがしまして……ご無事で良かったです」
「ほぅ……? 女、お前は神……いや、限りなく神に近い者か。ならば喰らってやろう」
老人は再び刀を脇に構える、マコトも霊刀を出現させた。
鞘から解き放つと近くに火華が出現し、彼女は声を掛ける。
「華ちゃんさんッ、出番ですよ! 」
『その名で呼ぶなと……って、おお? 中々奇怪な相手を見つけたようだな、重畳重畳』
「緊急事態ですッ、真面目にお願いします! 」
『分かっておる。しかし力の使い方を練習する前に、このような大物を相手にするとは思わんかったわい。行くぞ、マコトよ』
「ハイッ! 」
火華はマコトの背中に手を向け、力を送り込む。
彼女の周囲には溢れる霊気が視認できるようになり、火が舞っているように見えた。
その様子に老人、そして八頭も驚きを隠せていないようだった。
「力が湧いてくる……ま、マコトさんそれは一体? 」
『上手くいったな、名付けて”神楽の陣”。霊脈を利用して自身と仲間の士気を高揚させ、身体能力を強化させる技だ』
「今回は私が前に出ます、八頭さんは後ろで援護を! 」
「ほほぅ、成程成程。匂いもより上質になったわい……思った以上に喰らい甲斐がありそうだ」
マコトはまだ完全に霊刀を扱えているわけではない。
しかし、現状でこの老人を野放しにしておけば村に被害が出るのは明確。
そして組むのは八岐大蛇の八頭……互いに連携が不慣れな状況であるが、戦闘は始まった。
え~……もう12月なの?
最近月日の経過が早く感じています、ど~もKUMAです。
華ちゃんさん、うん。マコトだったら絶対このように呼ぶだろうなと名付けたときから思っていました。
霊刀は色々な能力を秘めています、今回使った技もそのうちの一つですね。
基本、霊脈のある場所限定な技が多い……これは土地神が使う事を前提として考えていたから仕方がない。あれこれ制限外しちゃうと制御できなさそうだし、”地域限定”的な感じで十分なのです。
そして八頭オロチが宿の仕事をサボ……ゲフン! 彼女がそのような事をするはずがない、シロじゃないんだし。 使用武器は少々特殊なモノで鎖鎌。理由は簡単、オロチ自身が八岐大蛇なので”蛇っぽい武器が良いなぁ”と。自身の霊力も駆使してカッコいい技をしてくれる事を期待しています。
さて、今回はここまで。
次回はマコトが華ちゃんと色々と大暴れするのか、はたまたオロチが圧倒的な強さを見せて終わらせるのか……どうなるのか展開は作者次第!
そんなこんなで失礼します、ではでは~




