第16話 神界のお医者さん
~神界役場 ヤマト~
さて、2階へ連れられてある部屋に着きました。
ここは……ミコトさんの仕事部屋でしょうか? シックなデスクに椅子、その後ろにはいくつもの分厚いファイルが並ぶ大きめな棚。癒しのためなのか観葉植物も置かれています。ローテーブルを挟むように置かれるソファー、大きいのが1つと小さいのが2つ。応接室としても使われているようです。大きいソファーにはデフォルメされた動物の描かれたタオルケットが……寝泊りもしてるのかな?
「散らかっていてごめんなさいね、最近厄介な仕事が……いや話すのはやめとくわ。適当に座って待ってて、今お茶入れるから」
「は、はい。では失礼します」
ミコトさんはそう告げると一旦部屋の外へ。
座ったのはいいけど所々に書類が……無くしたら大変でしょうし、軽く掃除しましょう。
何かまとめて置ける道具が欲しいですね。
「此処でも【創れる】のかな? 何か材料があれば……」
とは考えてみたものの、散らかりすぎてて見つける方が時間かかりそうです。
創ることは諦めて少しずつ整理整頓していきましょうか。
~数分後~
「ハイハイ、お待たせ……って 」
「あ、おかえりなさいミコトさん。少し気になってしまったので掃除を……書類等は机の上に纏めました」
「え、あぁ~いや、ありがとう(そんなに散らかってたかしら?)」
む、やはり無断でやってしまったのがいけなかったのでしょうか? ミコトさん少し言葉が詰まっているようです。こちらが不安そうな顔をしていたのに気づいたのか席に着くように勧めてくれます。
「だ、大丈夫よ。片付けてもらって助かったわ。さ、立ってないで座って頂戴、地上での話をきかせてもらうから」
「はい、では失礼します。実は……」
※※※
「…………」
う~ん、ありのままの事を話したら考え込んでしまいました。
璃狐さんの状況はそんなに悪いのでしょうか? ……いや、悪いのでしょうね。
「1つ良いかしら? 彼女のお腹辺りにあったっていう紫色の線は繋がってた? 」
「えっと、たしか繋がってました。これぐらいの大きさです」
ジェスチャーをしながら大きさを伝えると、あまり良くない表情に……苦虫を嚙み潰した感じです。
そして自身のこめかみに親指をグリグリ当てながら一言。
「マコトさん、彼女はもう手遅れかもしれない」
「そんなっ?! 」
「えっと璃狐さん、だったかしら? もう数日中に物の怪になるわよ、過去に例があるの」
そう言うと立ち上がって棚まで行き、分厚いファイルを取り出す。
パラパラを捲りっていくと、動きが止まりました。どうやら目的のモノが見つかったようです。
件数は軽く百を超えていました。どれも璃狐さんと同じように腹部に紫色の線があり、対応の欄には……
「『物の怪に変異したため討伐』……ですか」
「その症例は瘴気が原因なの。身体が穢れて妖怪、または人間が物の怪へと変わってしまう……地上の薬草で何とかなるモノじゃないのよ」
「瘴気で人も物の怪に? 」
「正確に言うのであれば人の死体ね。瘴気の濃い場所だと死んだ者が動き出すことがあるの。稀にだけど生きたまま狂って物の怪に堕ちる事もあるわ」
説明によると生きた人間が物の怪になった姿は真っ黒な身体に紅く輝く目を持った鬼。
血肉を求めて殺戮を繰り返す恐ろしいモノ、【邪鬼】と呼ばれる存在となるそうです。
「地獄で働いている鬼とは違うんですね」
「あの人たちはまた別の存在よ、地獄はまた特殊なの。それよりこの件は早めに手を打った方が―――」
「手を打つって……ま、待ってください! それじゃ残された枯狸さんはどうするんですか!」
そう言うとミコトさんは黙ってしまう。真面目な表情でこちらを見てきます。
……でも納得できませんよ、ホントに何か手は無いでしょうか?
「そ、そんな目で見たって駄目よ。アタシだって何とかしてあげたいけど此処を離れるわけにはいかないしそもそも霊気治療の心得が無いの。それに体内の瘴気を浄化するとなると相当な―――あ」
何か思いついたみたいです、その【霊気治療】ってやはり難しいのでしょうか? そう言えばここへ来る前に源内さんが何か言ってましたね、思い出してみれば霊気治療の事を知ってるような感じでした。
しかし私もあの時は喝を入れられて無我夢中でやってたので……まさかね?
「1人だけ、この神界にいる……えっとあの神様は今どこにいるんだっけ…………」
放浪癖のある神様なのでしょうか? ミコトさんは机の上にある電話を使い始めましたね。誰かに聞くのかな…………お、メモを取り始めたということは居場所分かったみたいです。
「待たせてゴメンね、この神様なら治せるかもしれない」
「少名毘古那神? えっと……生前でも聞いたことがないのですが」
「あらそうなの? 此処よりも地上では有名かと思ってたのだけど、そうねぇ……医薬の神様なのその人は。
地上では小さい子のルーツとも言われてるわ、お伽話でも有名かもね。さぁ早速行きましょ」
小さい子と言えば日本のお伽話で『一寸法師』と言うのがありますね、えっとどんな話だったかな……たしか攫われたお姫様を救うために小さい人が鬼の胃の中で大暴れするお話だっけ? 小さいとは言えそこまで小さい神様なのでしょうか、一応虫眼鏡とか準備しておいた方が良いのかな。
※※※
現在、役場の公用車で目的地まで移動中です。少し驚きました、神界でも車が走ってるんですね。
しかし此処も現世、私のいた時代とあまり変わらないのかもしれません。多くの人……皆さん神様なのかな? 木造建築の建物が多いなか、ビルのようなコンクリを使ってるモノはより目立ちます。信号や街灯も和風チックで私は好きですね。でも、この都会とも言えず田舎とも言えないこの感じ、なんと表現すれば良いのかな……おや? トンネルもあるのですか。
「さぁここを抜ければ『一寸診療所』はすぐよ」
「1つ聞いても? やはりその方は一寸(約3㎝)ほどの大きさなのでしょうか? 」
「……フフ、さすがに違うわよ。まぁ身長はウチの兄貴と同じくらいかしら、忘年会の時はよくケンカしてたわ。最近はあまり見なくなったのだけどね――――――」
陽光さんと同じくらいって、140㎝位? わ、私より小さい方がまた一人……
しかしせっかく準備した虫眼鏡等が無駄になってしまいましたね、え? いつの間に準備したのかって……役場を出発する前に借りてきました。
「―――でね兄貴が言うのよ、『んな事気にしてるからいつまで経っても小さいんだろっ!』って」
「それって陽光さんも人のこと言えないと思いますよ? 」
「ホントね、まぁみんな笑いながら喧嘩を見てたのよ。中にはどっちが勝つかって賭けをする人もいるのだけど……っとと、そろそろよ」
トンネルの先には役場周りとは違った風景が広がっていました。
コンクリ製のビルはほとんどなく、木造建築の建物も若干減りましたが、自然の木々や田畑が目立ちますね。都心から離れた小田舎、音も静かです。
数分走り続けると看板が見えてきました、ホントに【一寸診療所】って名前なんですね。
普通の和風な一軒家に見えなくもないのですが……
「到着~っと、アタシも彼に言いたいことがあるから一緒についてくわ。さ、行きましょ」
~神界 『一寸診療所』~
さて、ミコトさんが受付で手続きをしてる間に少し診療所内を見てみましょう。
こうしてると小さい頃にお母さんと一緒に来た時の事を思い出しますね。
内装は昔ながらの木の床、カーペット等も敷かれてはない。
待合の長椅子も木のフレームで作られ、背もたれと座る場所にはフカフカの座布団が着けられてます。
この香りはなんでしょう、病院特有の消毒液の匂いではなくお茶? 心がとても落ち着く……。
『ミコトさ~んッ、先生がお呼びですよ~』
「よしっ、今回は早い。さぁ行くわよマコトさん」
「……ふぁっ?! は、はい、行きますっ」
こ、心が落ち着きすぎて変な反応をしてしまいました。
どのような方でしょう、少し楽しみです。……本来の目的は忘れてませんよ?
※※※
「次の方、どうぞ~」
「『どうぞ~』じゃないですよ一寸先生! また住所変更届を忘れてるじゃないですか! 」
……え~、先生らしき人の声が聞こえたと思ったらミコトさんの声で掻き消されてしまいました。
しかし相手の方は書類を書く事に夢中の様で、左耳から右耳へと抜けていってるようです。
こちらを向いてやっと気が付きました。
ゴマ塩な色の髪は角刈りからやや伸びた髪型、顔は40代後半の顔つきだがシワは少な目。
体系は……やや小太り。しかし、和服の上から着ている白衣はサイズが合っていないのか腕をまくってます。座ってる姿からだけでも身長が低い事はわかりますね。
「ん? んんん? お~ミコトさんじゃないか、久しぶりだなぁ。今回はなんだ、その連れが病気なのか? よし診てやろう、そこに座りなさい」
そして人の話を聞かない方です、言われるがままに座ってしまう私もアレなんですが……
「なんだ特に悪い所は無いじゃないか、健康で何より。ただ若干だが瘴気の気がするが、濃い場所にいたか穢れたモノを触ったのかい? 」
「えっと、お腹の付近にこう……紫色の線が出ている人、妖怪の方なのですが、その方の近くにいました」
【腹部に紫色の線】と聞いた瞬間、先生の顔は険しくなる。
ミコトさんをチラリを見たと思うと椅子から降りて何やら準備を始めました。
看護師の方々に支持を出して治療道具等を鞄に入れていきます。
「患者はどこに? 」
「はい? 」
「何処にいると聞いてる! それは早急に対処しなくてはいけない病気だ! 」
「ち、地上ですっ、ヒノモト村の『甘味処 あまてる』に……」
「【転移の鏡】まで行く時間が惜しい、ちょっと失礼」
先生は私のおでこに指を当てて目を閉じてしまいました。
一体何が―――
「見つけた、患者は狐の妖怪か。 では、跳ぶぞ」
「へ……? 」
一寸が言葉を放った瞬間、2人の姿は診察室から消えた。
その場に残されたのはミコトと看護師のみ。
「はぁ……またか、ホント誰かに似てるわ」
「申し訳ありませんミコト様、わざわざ足を運んでいただきましたのに……」
「あ~……いいわ、大丈夫。先生が帰ってきたらこの書類を渡してもらえる? 」
看護師に手渡したのは住所変更届と他書類各種、それらの郵送の為の封筒だった。
「またですか……分かりました、近日中に必ず書かせますので」
「よろしくお願いするわ、アタシもそろそろあの役目が来るはずだからくれぐれも早めに……」
「そういえば今はあの方が来られてて? ……お二人も大変ですね」
「実際あの子が来るだけで色々と処理が倍になるのよ、今日は何時頃寝れるかしら……」
看護師との会話もそこそこに役場からミコトへ連絡が入る。内容を聞いた彼女の表情はとても暗かった。
診療所からの帰り際、ミコトには栄養剤と睡眠薬処方されたらしい。
ど~もKUMAです。2月もあっという間に過ぎ3月となりましたね、これから暖かくなり次第に桜が咲いてお花見ができると考えるとワクワクしてきます。
前回からマコトは璃狐を救う方法を探して神界まで来たところ……あ、そう言えば狐娘の『璃狐』という名前が間違っていたことに気が付きましたので修正しました。思いっきり逆に書いてました、義妹の『枯狸』とごっちゃになってたんですねきっと。しかし、設定資料では間違ってないという……。
さてさて今回はえっと、すくなび……すくなびこ…………少名毘古那神の一寸が登場しました。この神様は医薬の神様で、小さい子のルーツとも言われているようです。まぁ見つけたのは偶然なんですけどね、色々調べていたらポンッと出てきました。何か陽光と絡ませたいなと考えて、小さい小父さん風な見た目と考えております。そして進めていくうちに字数も多くなり、次回に続く形になりました。
メタイお話ははこのくらいに……最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いします、ではでは~




