第12話 枯れた水と湧き出る蟲
この村は物の怪が多いな、畑怨霊を祓ってからは所々に雑魚が出てくる。
おそらく他の物の怪が此処を狙ってるのだろう。……まったく霊脈(地脈)というのは困ったヤツだ。
神や人間、妖怪の三種にだけ恩恵があれば良いのだが、穢れると物の怪にまで力を与えてしまうからな。
ああ、知らなかったか? 今建て直してる神社の所に霊脈の源泉があるのだよ。
そこを狙ってるのさ、奴らはな。
クロは怪我で動けんし、アチキが走り回っておるのだが・・・これではキリがない。
どんなのが出てるかだと?
複数の目と鋭い牙を持ち、不規則に四つの尖った脚をカサカサと動かすヤツだ。
しかも後ろにある膨らんだ腹からは糸を出す。
小さな蟲型の物の怪だ、小さいと言っても秋田犬位の大きさはあるがな。
「よし、とりあえずこれで―――」
「た、大変だぁー!! 」
今度はなんだ、何やら向こうでで村人たちが騒いでるようだが……
「み、水が……水が無くなっただぁっ!! 」
ふむ……しょうがないな、見に行ってやるか。
※※※
来る途中に大体の予想はついていた、川に水が無い。
そりゃ田畑の流れるモノがなくなれば騒ぎにもなるか。
しかし、騒ぎの中心には井戸があった。
桶を上げると粘着質な糸が絡みついている。
やれやれ……植物の次は蟲か?
「おいおい、なんだぁこの白いのは? 」
「水はどこさいったんだ? まさかホントに枯れ―――」
「いや、それはないだろう。よく見てみろ、糸の隙間から僅かに湧いている」
アチキが言った通り、この井戸はまだ活きている。
水源を塞いだのは【糸の主】だろう。
「村に流れる川……いや水はどこから来ている? 」
「え……ああ、たしかヒノモト山ん中にある湖からだったか? 」
「んだ、満月湖からだ。 神社さ行く階段を途中で曲がった所、そこさ入り口があるだ」
なるほど、湖があるのか。ではその付近に【糸の主】がいる可能性は高い
桶に付いてた糸と最近出てくる雑魚の形状から考えて敵大将は……蜘蛛。
どうやって湖の水を枯らしたかは知らんが面倒事を増やしおって、タダじゃ済まさんぞ。
「アチキはこれからソコへ行く、お前たちは家に籠ってろ。雑魚に襲われても守れんからな……ついでにクロも頼むぞ」
「へ……? は、はぁ」
ん……皆もクロの事が気になるのか?
奴は畑怨霊にやられた傷のせいで動けなくてな、村の馬小屋へ寝かせてある。
しょうがないだろう、場所が空いていてかつアチキが守れる範囲の場所はソコしかなかったのだからな。
「ホレっ、さっさと行かんかっ」
「は、はいぃっ、おお任せくだせぇ! 」
「あっ! クロは馬小屋に寝かせてるぞーっ! 」
さて、アチキも向かうことにしよう。
神社へ向かう途中に入り口があるんだったな。
※※※
村人たちの言う通り、神社への階段の途中に山への入り口はあった。
脇に湖までの道が示された板が刺さっており、その先は獣道が続いている。
蛇の身体のようにうねった道を進んでいくと、道中に物の怪の糸を見つけた。
「この糸……井戸にあったのと同じヤツだな」
周囲の木には所々に糸が絡みつき、大きな塊も複数出来ている。
その形状を見ると何かの繭のようにも見えなくもない。
いや……これは卵だな、物の怪の。中で動いてる。
「生まれる前に潰してしまおう、面倒だが戦うよりマシだ」
糸で覆われた卵はそこまで硬くない、中の蟲を貫くのに若干力が必要なだけだ。
おっと、全部壊せるほど世の中甘くないようだ……
「チッ、出てきたか」
『ギシャァァァァァァッ!! 』
見逃していたのか後ろには蟲型の物の怪が3体いた。
上から垂れてる糸を見る限り、葉の中に隠れてたのだろう。
村の中でも戦っていた奴らと同じだが、正直今は分が悪い。
木々が多くある森の中、長物で戦うにはチョイと不利だ。
だから―――
「……逃げる! 」
アチキは全速力で駆け出す。
もちろん奴らも追ってくるが振り向かずに先を目指した。
『シャァァァァァァッ!! 』
進むほど蟲の数はどんどん増えてきている。
奴等が迫ってくる光景など見たくもない、皆も嫌だろう?
聞こえてくる奇声だけでも相当な量だ。
~ヒノモト山 満月湖~
走り続けると開けた場所に出る、どうやら無事目的地に着けたようだ。
軽く周囲を見てみると……ここに湖は無い。
ただ大きな窪みがある広い場所だ。
さらにその窪みの中央には糸が山のように積もっている。
近くまで行ってみるとしよう。
「詳しく調べるには……コイツ達を何とかしないとな」
後ろを振り向くと、蟲型の物の怪達が大量にいた。
すばや動きでアッという間に囲まれてしまう。
「む……囲まれてしまったな」
口をカチカチと動かし、威嚇するように奇声を上げている。
アチキも武器を構え、攻撃に備えることにしよう。
「さぁ、どう仕掛けてくる? 」
実力の差が分かっているのか奴らは攻撃をしてこない。
フフフ……蟲のくせに怖いのか? ならこっちから―――
『シャァァァァァァッ!! 』
「甘いッ! ……っとしまった、こいつは囮か?!」
後ろから襲い掛かってきた大型の個体を切り裂くが、詰まっていた大量の糸が刃に絡みついた。
群れの中に自らを犠牲にして獲物を捕縛する【自縛型】がいたらしい。
「なんてな」
まぁ予定通りなんだがな。
そのまま糸が絡まった状態の武器を振るう。
中々丈夫な糸だ、どんなに振っても切れない、むしろ伸びていく。
「そらそらぁっ! どんどん巻き込むぞっ!! 」
言葉の通り、糸は蟲を次々と捕らえていく。
自分の糸なのに解けないのかコイツ等は……。
さて、大群に囲われていたはずが気づけば残り1体。
狙いを定め、そのまま振り下ろした。
「これで、終いだぁっ!! 」
結構な大きさの糸玉ができたな、所々から尖った脚が出てる。
いつまでも付いてると邪魔くさいし……適当に投げてしまおう。
この程度の糸、刃へ霊力を込めてやれば簡単に切れる。
シロはもう一度武器を振るうと、糸はあっさりと切れた。
放物線を描きながら飛んでいき、白い山へ落ちる。
静かに沈み込むと、突如山の内側から巨大な脚が現れる。
これまでに対峙した蟲よりもはるかに大きい。糸玉を触り、何かを確認しているようだ
「どうやらお出ましのようだな」
『おぉ……我が子らよ、人間を捕まえてきたのか? しかし乱暴に扱うでない、貴重な食糧だ』
「……ハァ? 」
『どれ、久しぶりの人肉だ……じっくり味わうとしよう』
何を言ってるんだコイツは?
飛び出している2本の脚で器用に糸玉を沈み込ませていく、完全に埋もれると中から音が聞こえてくる。
どうやら喰っているようだな。でも共喰いだぞ、ソレ。
『こ、これは……! そして外の気配、貴様ぁ謀ったなぁっ!? 』
「謀ってもいないし、お前が勝手に喰ったんだろう。土蜘蛛よ」
『黙れっ! 神使風情がぁぁぁっ!! 』
最初の2本に加え6本の脚が飛び出してくる。
地に脚をつけると白い山も一緒に浮き上がる、どうやら自身の身体の上へ作っていたようだ。
顔には8つの目がある……と思ったか? 残念ながら厳つい鬼の顔だ。
姿に関してもう少し詳しくか?
奴は6本の脚で身体を支えているようだ、さらに顔の後方……あれは背中でよいのか?
そこから2本飛び出しているのは攻撃用かもな。顔面は鬼、角も2本生えてる。
糸はどこから出すのだろうか、腹の部分には山を置いておるし……?
「ふむ、しかし文献で書かれていたモノよりもデカいな」
『我が子の恨み……貴様を喰らって晴らしてやるっ! 』
だから勝手に喰らったんだろうて……まぁ、仮にも大型の物の怪だ、油断はできん。
『グラアアアァァァッ!! 』
上に飛び出している2本の脚を振り回しながらの突進、しかし直線移動なら避けるのは簡単だ。
「当たらんよ、そんな攻撃」
攻撃はかすりもしなかった。
土蜘蛛は斜面をそのまま駆け上がり淵を回るように走り、徐々に距離を詰めてくる。
巨体の割に早い動きだが、明らかに背中の糸山が足を引っ張っている。
グラグラと揺れ、安定していない。
「……お前、馬鹿だろ」
懐から投刃を取り出す。
相手の動きを予測し、少し先へ投げると……ヤツの足元の地面へ的中。
刺さった瞬間に小さな爆発が起き、土蜘蛛は体勢を崩してズリ落ちてくる。
『ヌオオオォォォッ?! 』
「よ~しそのまま来いっ」
薙刀を構え切っ先を土蜘蛛へ向ける。
相手の勢いが止まる前にこちらも駆け出した。
「真神流薙刀術 四ノ段……【十日夜】!! 」
この技は連撃。霊力を込めた突きと斬撃を乱雑に繰り返す。
アチキの場合毎度組み合わせが違うから読みにくい……らしい。
しかし、そう上手くはいかないようだ
『ヌゥゥゥっ、舐めるな小童ガァッ!! 』
5連撃目、横一線の斬撃を放とうとした瞬間土蜘蛛は飛び上がった。
アチキの攻撃は空を切ることになる、しかし相手のこの行動は中々間抜けな結果になった。
真上を通り過ぎ後ろを取ったのは良いのだが……
『ガアアァァァっ!? し、しまったぁぁぁっ!! 』
無理に飛んだせいか空中でひっくり返りそのまま落ちたのだ。
振り返って見てみると思わず笑ってしまう。
「ブッ! ハッ……ハハハッ!! お、おまっ、ソレは無いだろう!? 」
潰れた糸山の上でもがく土蜘蛛の姿がそこにあった。
か、仮にも文献や絵巻物に名を遺す程の物の怪が、あんな姿で。
駄目だ笑い過ぎて腹がっ、痛いっ……。
『す、少し待て! 今体勢を、ヌゥンッ! 』
身体を何度も揺らす、しかし体勢を持ち直すことはできない。
さすがに見続けてると飽きてくるな、そろそろやってしまうか。
「フフフ、ハァ……ハァ~。もういいぞ、そろそろ目障りだ」
空いている手で袖から札の束を取り出す。
封を切り、扇子のように広げるとすべて同じ絵柄の札。
焔の文字とその周囲に荒ぶる炎のような線が描かれている。
コイツは【焔ノ札】と呼ばれるモノで、えっと仕組みは……クロが詳しいのだが、
まぁアチキでも簡単に扱える便利なお札だ。対象に向かって放つだけだからな。
『ま、待て! もう少しでムグゥッ?! 』
「口を閉ざせ、そしてそのまま燃えてしまえ」
もう話させはしない、顔を覆うように張り付かせ、残りは適当に散らばらせた。
偶然なのかは知らんがアチキが言い終わると同時に札から炎が上がったのだ。
次第に炎は大きくなり土蜘蛛の全身、潰れた糸山まで燃え移っていく。
その中で声も上げずにもがく、徐々に動きは遅くなり、そして止まった。
「……フム、終わったようだな。さて、枯れた原因を探さんとな」
武器を収め、窪みの中央へ行き周囲を確認してみる。
そこにはさらに小さな窪み、形状から丸い何かがハマっていたのだろう。
他に何かないか調べるも、その窪み以外手がかりはない。
「物の怪が水中から何かを盗った? いやしかし……」
水には浄化の力がある、霊脈付近の水ならその効果も強いだろう。
瘴気で穢れた存在である物の怪が触れられるようなモノでもない。
まさか、現在神社を覆う結界が霊脈の力を遮っているからか?
色々と考え込んでしまっていたアチキは、後ろに迫る脅威に気が付かなかった。
ハッと思い振り向いた時、後ろには尖った脚を振り上げた土蜘蛛がいたのだ。
「お前っ……あの火をどうやって?! 」
『クァ……ギギ、ギ』
アチキがやっておいて言うのもおかしいのだが、その姿は酷いモノだった。
脚を半分以上失い、所々からは内臓らしきモノも飛び出している、さらに腹部からは液体が垂れていた。
顔の形状も変わっていた。大きさの違う目玉が8つ、口の形も蜘蛛と同じになっているではないか。
情けないことにアチキもすぐには動けなかった。
完全に焼き殺したと思い込んでおり、まさかの事態に頭が真っ白になっていたのだ。
『ギ……ギギッ!! 』
「キャァッ!? 」
アチキが出来たのは目の前で腕を交差させての防御。
分かっていた、これでは切り裂かれてしまうことぐらいはな。
アチキに合わないような悲鳴も上げてしまったがいつまでも痛みは襲ってこない。
防御を解き目を開けてみると、目の前にはダンダラ模様が入った黒の羽織がはためいていた。
嘘だろ? お前は動けないはず……
「く、クロっ?! 傷は良いのか!? 」
「大丈夫だよ、でもシロがあんな悲鳴上げるとは思わなかったな」
「なっ……わ、忘れろ! アチキは悲鳴なんて―――」
「とりあえず終わってから、【霊壁ノ札】も長くは持たないよ」
そう言われてみると周囲には半透明な蒼白い結界が張られていた。
土蜘蛛の脚を受け止めている部分からはヒビが入っており、徐々に広がっている。
それに気づいたアチキも武器を構えなおす。
「分かっている! アチキが―――」
「技を放つ時に結界を解除だね? 分かってるよ、コッチもね」
後でタップリと問い詰めなくては、そして不覚にも悲鳴を上げたという事実も……
さぁ準備はできた、今度こそ終わらせる。
「真神流薙刀術 弐ノ段……」
「行くよっ! 」
「【若月】!! 」
結界が消え、相手も動きだす。しかしアチキの方が速い。
初撃の横一線で脚を切り、流れるように持ち替え土蜘蛛の巨体を縦に切り裂いた。
今回はクロに助けられてしまった、まだまだ半人前ということか。
その後は完全に消滅したことを確認し、ヤツがいた場所を確認してみた。
その結果、【水源石】という石が見つかり、枯れた原因が判明した。
物の怪がどのようにしてコイツを盗ったのかは不明だが、とりあえずは解決したので良しとしよう。
それよりもクロを問い詰めなくてはならないからな。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
9月も終わり10月、早いなぁ、今年は炬燵どうしようか迷っています。
ど~も、KUMAです。
今回は少し長めですが、なんとか1話分に収めることが出来ました。
え……最後が無理やりじゃないかって? そ、ソンナ事ナイデスヨ? ダイジョーブデスヨ。
と、とりあえず本作の最後に出てきたモノの説明を。
【水源石】は名前の通りの石です。
シロの見つけた小さな窪みにピッタリとハマる大きさで、設置後は地中の霊脈からの力で水が出てくる石と考え書き出しました。そこまでは本作でも書いてませんが土蜘蛛を倒した後にちゃんと行っているので大丈夫です。ただどうやってこの石を盗ったのかはまだ明らかになってないのですがね……。
土蜘蛛で思い出した。自分、超が付くほど苦手な生き物が蜘蛛なのです。
今回書くにあたって調べはしたのですが、鳥肌が止まりませんでしたね。
目やあの動きがもう……無理っす、いやマジで。
大きさに関しては小型の蟲しか書いてませんでしたね、本作の設定で土蜘蛛の場合は2tトラック程とメモにはあります。そんなのと出会ったら発狂しますよ自分は……。
そして中々間抜けな感じになってしまった土蜘蛛さんですが、これは皆さんも知っていますよね?
源頼光伝説に登場する妖怪として出てきます。有名なものだと土蜘蛛草子と平家物語なんのかな?
書き進めていくうちに「あれ? なんか変な感じに……」となり、気付いた時には手遅れでした。
次に考えてるお話を簡単に説明すると、神社完成。戦闘は多分なし。
つまりマコトと紳使のクロ、シロがが初めて会う話を予定しております。
そろそろマコトが中心となる話を出さないとまた拗ねてしまいそうですから……前回はお団子3個で許してくれました。
さて今回はこの位で。
後書きまでお付き合いいただきありがとうございました。
また次の機会に、ではでは~




