第1話 転生を繰り返してたら土地神になりました
どーも、初めまして。身代 マコトです。
え? 【みのしろ】や【しんだい】じゃないですよ。これで【みしろ】と読むのです。
いきなりですが、簡潔に現在の私の状態を教えましょう。
今私は……自分の身体を上から見ています。ええ、頭から血が出てますね。目や口からも……
近くには小さい子供、男の子かな? まぁ子供が大声で泣いてます。どうやらかすり傷で済んだみたいですね。壁に衝突した車の中には50代の男性が一人、何か唸ってる。
あ、近所のおばさんが来ました。救急車を呼んでくれたみたいだけど、もう遅いです。
身体と繋がっていた魂の尾、切れちゃいましたから……
※※※
~とある県のT市にて~
今回の私は工場で働いてました。旋盤、フライス盤……まぁ機械を使って色んなモノを加工する仕事ですよ。
勤め先までは徒歩で約15分。車を使うにも近すぎるし、ガソリン代がもったいない。
その日は偶々午後から出勤の日でした。昼御飯を食べ、そのまま会社に向かう予定だったんです。
え? 【今回】ってどんな意味だって? まぁ後で説明しますよ。
……どこからでしたっけ? ああ、昼御飯云々の所でしたね。
向かう途中、気分転換を兼ねて道を変えたんです。
住宅街にある食事処を出て少し進むと反対側に通り抜けられる公園があるんですよ、晴れた休みの日に昼寝をするのに良い場所がね。
ブランコ、滑り台にシーソー、後はいくつか穴の開いた半球状の遊具。木陰にはベンチが2つあったな……。
この普通な公園を抜けていくと私の勤める工場へ真っ直ぐ行けるんですよ、最近見つけた近道です。
入口手前まで来ると、突然ボールが勢いよく私の目の前を飛んでいきました。顔面スレスレだったのでゾッとしましたね。子供は私を見ずに謝りながらボールを追いかけて走って行ったんです。
その時は思ってましたよ、今の時間なら車は走ってないし大丈夫だろうって。
そのまま公園に入ろうとした時、後方で車のクラクションが鳴り響きました。
振り向くと車2台が何とか通れるくらいの道路の真ん中に子供が一人、それに向かって走る暴走車が1台。
こんな狭い道で結構な速さでしたよ、90キロ以上は出てたと思う。
子供も車を見たまま動かないし、運転手も必死にブレーキを踏んでるみたいだけど全く減速してない……。
ちゃんと車検に出してたのかな?まぁ要するに、子供が大ピンチだったんです。
色々考える前に私の身体は動きました、衝動的に。
子供をこちらに引っ張ればよかった……でも前に出ちゃったんですよね、一緒に避けるにも時間が無かったので公園側に突き飛ばしました、その反対は壁だったので。
後はまぁ……分かりますね?
私があの子供の代わりに轢かれました、そして死んだのです。
そして今私は自分の体の上を漂っている、胡坐をかいたまま。
宙に浮いていても誰も気づかない。
あ、今更ですが女性です。 そんなこと聞いてない? だって話す事無いんですもん……。
【今回】について話せ? そう、ですね……っと残念お迎えが来てしまいました。
※※※
空から四角い物体が降りてくる、正確に言えば走ってくるですね。
私も学生時代によく使っていた乗り物です。
ここまで来るとわかりますね。そう、これはバス。
最近のお迎えは乗り物が使用されてるみたいです。
おっと、誰か降りてきました。
「またあんたかい? ホントよく来るね~ 」
このバスの運転手はウメダさんと言います。
一番最初に死んだときも迎えに来たのはこの人でした。
「ほら、乗りな。 三途の川まで送ってやるから」
そうですね、まずは乗りましょう。その間に説明しますかね……[今回]についてを。
「誰と話してんだい、ついに頭までおかしくなったのか? 」
何を言ってるんですか、大丈夫ですよ。
やっとツッコんでくれた……このやり方辛かったんですよ、頑張りますけどね。
さて説明をしますか、大体予想は付くでしょう。私、これが初めての死じゃないんです。
この霊体の形……いえ、魂というのは私が初めて此処に来た時と変わらないです。
もしかしたら今、生きている人も初めての【人生】ではないかもしれませんね……。
この白い装束は仕方ないとして、黒髪のショートヘアや整った顔つき、体格等は約……何年前のだったかな? ちょっと覚えてないのでご勘弁を。
ん~……最初に死んだ時の姿という認識でいてください。ちなみに身代 マコトという名前も同じですので。
記憶についてですか?
転生して生身の時は霊体時の記憶は無いのですが、現世で亡くなると今まで魂に蓄積された記憶へ新しいモノが追加されて戻ってくる形です。一気にボーンときますね……慣れればそんなに辛くないですよ?
え~、今回の死因だけど唐突な事故によるものでしたよね。
でもここで、あの時私はまだ死ぬ運命じゃなかったと言ったら信じますか?
人や動物の【生き方】は【運命】と共にあるらしいです。
それは生まれた時からそのように決まっている……このことは何度も聞かされました。
誰にって……閻魔様ですよ。
私は特殊な例みたいです。まだ死なないはずが、誰かの代わりに死んでしまう事がよくある魂と言ってました。不幸な事故死を代わりに受けるって嫌ですよね、これももう慣れましたが。
気づいたら三途の川が近くなってますね、説明はバスを降りてからにしましょう。
※※※
~あの世 三途の渡し船乗り場前~
「今度転生してもすぐに来るんじゃないぞぉ~ 」
努力はします。
ウメダさんのバスを降り、少し進むと大きな川が見えてきます。
これが三途の川です。落ちると蘇れるらしいけど、実際は違いますよ。
……聞きたい? 聞きたいですよね? いや聞いてください、重要なので。
船から川に落ちてしまうと、流れに飲み込まれて魂が消滅してしまうんですよ。
意外ですか? 消滅したらどうなるのかまでは私も聞いてないけどね。
さて、桟橋前の受付で手続きしましょうか。
受付は木で造られた小型の小屋みたいな形をしており、その中には奪衣婆のコンドウさんと懸衣翁のオガタさんがいます。婆、翁と言うよりも若いけど……世代交代したそうです。
6文銭じゃなくても大丈夫、現在の通貨が使えます。
「あら? マコトさんまた来たの? 」
「ここに来る間隔が短すぎるよ、処理を行うこっちの身にもなってくれ! 」
仕方ないじゃないですか、来てしまったんだもん。
「だもんじゃない! ……ハァ、言っても仕方ないか」
「フフ……じゃあ船賃を頂くわ、600円ね」
ハイハイ……、ここで衣類を剥がれるんじゃないのかって?
それただの変態じゃないですか、結構前からその制度は廃止されてますよ。
「はい、毎度」
「俺も船の準備してくるよ……」
オガタさんが行きましたね、安全運転でお願いします。
此処の船、木造じゃなくなったんですよ。
あの世も近代化に力が入ってまして……今では立派な客船になってます。
~渡し船にて~
そうそう、三途の渡し船を乗ってると面白いモノが観えますよ。
川を見てください、落ちないように気を付けて。
わかりますか? ……え、何もないただの川?
そうか失礼しました。貴方はまだ、でしたね。
では私のを観てください。
川に映ってますよね、小さい子供の姿が。その子は成長して学校に通ったり、友人と遊んだり……楽しそうに。コレは私が此処に来るまでの生きていた時の映像、つまりその人の【人生】を観てるんです。
乗っている魂はこの映像観て、過去に戻る為に川へ落ちようとする。消滅することも知らずに……
そろそろ着きますよ、閻魔様のいるお城にね。
※※※
~閻魔城 船着き場~
到着すると出迎えてくれるのはもちろん鬼です。
……どう見ても鬼に見えない?
ああそうか、今の彼らの姿は人間と変わりないし。
ちょっと待ってくださいね。そこの係員さん、すいませ~ん!
「はい、なんで……ってマコトさんじゃないっスか」
お忙しい所で悪いけど、鬼の姿になってくれませんか?
「え、なんでッスか? ……まぁ良いッスけど、フンッ! 」
なんという事でしょう。あの軽い感じだった男の人は姿を変え、見事鬼になりました!
体格は一回り大きくなり筋肉隆々、肌の色は赤くなり頭には角が二本ありますね~。
着ていたスタッフ用の制服は伸縮性が優れてるおかげで破れてないけど……。
「なんかよくわからないけど、喜んでくれたなら良かったッス!」
あ、戻りましたね。
此処に初めてくる人もいる事を考えてこの仕様に変えたんだってさ。
あとはこのまま道なりに進めば会えますよ、閻魔様にね。
~裁きの間~
……居ましたよ、あれが閻魔様です。
「はい、地獄行の切符。 次の君は……フムフム、天国行の切符だ」
なんか忙しそうですね、ちょっと待ちましょうか。
……閻魔の恰好がおかしい? どう見ても駅員にしか見えない?
おかしくないですよ、だってここは駅だから。正式名称は【天と地の境界線】と言います。
閻魔様は切符を売ってるんですよ、その人がどちらに行くべきかを見ながらね。
あ、こっちに気づいたみたいです。
「……お、マコッちゃんじゃないか! よぉ来たなぁっ!! 」
仕事モードから変わりましたね、また来ちゃいました。
どうもです、閻魔様。
「そんな堅ッ苦しい呼び方はやめてくれい、いつもみたいにヤマさんで良いからよっ!」
それではそうさせてもらいます、この人が閻魔様ことヤマさんです。
何度か来ているうちに仲良くなっちゃいました。
「ん? お前さんは……なるほどな」
流石にヤマさんは分かるみたいですね、このまま見なかったことにしてください。
「マコッちゃんの頼みならしょうがねェな、分かったぜ。
お~いッ! ちょっと抜けるから変わってくれぃ!! 」
わざわざ抜けなくてもいいのに……
「いや、今回はお前さんの事もあってな……客間で話させてもらう。
お、クニダ来たか。 後は頼むぜ」
「またですか所長ぉ~、早く戻ってくださいね? 」
「馬鹿野郎ぅ、俺とお前の仲だろ」
今話してるのは相手はクニダさん、ヤマさんとは長い付き合いなんだって。
某ゲームで有名な人らしくて、鬼状態になると怖いよ。
「待たせたな、じゃあ行こうか」
近くに来ると結構大きいでしょ? ヤマさんは人の状態でも2mはあるんだってさ。
鬼状態になったらもっとデカくなるよ、じゃあ行こうか。
~閻魔城 客間~
相変わらず広い部屋ですね、もしかして畳変えました?
「お、分かるかい? つい昨日変えたばかりなんだよ」
良い匂いです。それでヤマさんお話の内容は?
「まぁ、焦るな。 今回も誰かの代わりに死んだみたいだな」
多分小さい子供の代わりだと……違います?
「違うな、運転していたヤツみたいだ。 経歴は……」
何か話し始めましたが聞き流していて大丈夫ですよ。
でも、子供の方じゃなかったんだ……、まぁいいや。
ヤマさん話すと長いからなぁ、何を話しましょうか。聞きたいことあります?
転生について? めんどくさいなぁ……。
まず、生物は亡くなると身体から魂が抜けて此処にきます。そしてどちらかに行くわけですけど、天国はゆっくり休みながら、地獄は罰を受けながら待つんです。ザックリとした言い方だけどね。
前者の場合は魂の休息が終わるとほとんどが別の人間に転生します、本人の希望が無い限り植物や、動物にはなりません。
後者は罪の重さに合ったを罰で受けながら待ち続けます。詳しい内容は言えません、こればかりはね。
良い言い方をすると魂を鍛えながら待つ……かな、休憩なしで。
そして転生先ですがまず人間にはなれない、できても一部の魂だけかな。
動物や植物がほとんどで、酷いと一生日の光を浴びずに終わる事もあるとか……
「……こんなモノか。 結論から言うぞマコッちゃん。今度の転生先だけど人間じゃないんだ」
そうですか、……って人間じゃない?
「…………」
ちょ、ちょっと黙らないでくださいよ、そんな怖い顔もさ。
ヤマさん?
「マコッちゃん、今回の転生で何回目だっけ? 」
……もう忘れましたよ、途中で数えるのがめんどくさくなってやめました。
どれも短命でしたけど。
「そうか。しかし、いくら短命でもお前さんが今まで得た【徳】は多いんだ」
【徳】……人に対して善行を行うと魂に蓄積されるモノですね。
そんなに多いのですか?
「数回地獄へ行った分を引いても余るんだよ、なんで今まで気づかなかったんだろうな。
この量だと……なぁマコッちゃん、土地神に興味はあるかい? 」
と、土地神? まさかそれになれって言うんじゃ……
「ああ、そうだ。何回も短命な人生じゃつまらないだろ。
この量なら一番下の神格だが土地神になれるぜ、準備はいいか?」
ちょっと勝手に話を進め――――
「大丈夫だ、天国・地獄の両方から許可は貰ってる。 急だけど転生を始めるぞ」
いつの間に!? 私はまだなるとは――――――
「それじゃあ行ってこい! 新しい世界へ!!」
うわあぁぁぁぁッ! 落ちr…………
「……上手くいったな。さて、いいかげんお前さんも戻りな。今度はちゃんと死んでから会おう」
※※※
目が覚めた時、目の前は白い壁で覆われていた。
身体には鈍い痛みが走り、うめき声が出てしまう。
意識と視界も徐々にハッキリしてきた、白い壁は萎んだエアバックだ。
どうやら自分は車で女の人を轢いてしまい……壁に衝突、そして長い間気絶していたらしい。
不思議な体験をしていた気がするが思い出せない……ただ今感じているのは酷い罪悪感だけだった。
他の作品が完結してないのに新しいモノに手を出したKUMAです。
まず、このお話を考えた経緯を説明しましょう。
簡単だから、懐かしい絵本を見たんです。
皆さんは「じごくのそうべえ」を知ってますか?
片付けをしてたら棚の奥から出てきましてね、色々考えながら読んでたら1時間経ってました。そこから死後の世界、輪廻転生云々を考えて書き始めました。
……大丈夫ですよ?
コレヲ書イテルKUMAハ正常ダヨ~、恐クナイヨ~
と冗談はこれくらいにして、3つの作品をそれぞれ進めていくわけですが……ちゃんと終わらせますよ。創ったからには最後までやります。
それでは、最期まで読んでいただきありがとうございました!
できれば評価や感想・アドバイス等をよろしくお願いします。
機会があれば、次のお話でまたお会いしましょう……