第三十話 夜の霧は狂気に笑う。
あけましておめでとうございます。
これからもよろしくです。
「あちぃなぁ!」
そう言いながらじいさんは流星群のように飛んでくる炎の塊の数々を斬り刻んでいく。
「んじゃあ、冷たい方がすきか?」
矢倉が指をパチリと鳴らすと炎の塊が氷の塊に変わり、辺りが一気に冷え込む。
「適温で頼むぜ!魔法使い!」
「そりゃあ無理な相談だ!」
どちらも白い息を出しながら、おじさんとは思えない程に機敏に動き続ける。
「それにしても魔法使いとやらは何でもありなのかよ!!」
「さぁな!敵にくれてやる情報はねぇよ!」
「ったく、冷たいやつだぜ!」
「なんだぁ?氷だしてるからそれと賭けたのかぁ?」
「かけてねぇ!!そんな事言ったら滑っちまうだろうが!」
「んあ?それも氷とかけたのか?」
「かけてねぇよと言っとるだろ!!!!」
そう言いながら全ての氷を斬り落とすとじいさんはココだとばかりに突進する。
「剣も届かなきゃあ意味ねぇよ!」
矢倉がクイっと指を下から上へ動かすと同時に草原の下にある地面が持ち上がりじいさんの刀を防いだ。刀は土を削っただけで矢倉に刀が届くどころか土の壁すらも壊せない。
「刀でだめなら!」
「なに!?」
利き手から刀を持ち変え、空いた手で拳を握ると一気に振り被る。するとクッキーでも砕いたように土の壁が爆散した。
「ジジイでもやるときゃやるもんよ!」
「全く、無茶苦茶だなぁだが」
「!!?」
「それだけと思って貰ったら困るぜ!」
すると爆散した破片が一つ一つ形を尖らしていきじいさんの体に突き刺さる。貫通はしなかったものの傷は浅くない。
「ふぐっ!っ!」
「まだまだ!」
「はぁ!」
一息つく暇もなく第二撃目の岩の砲弾がじいさんを襲う、実弾とは程遠い速さなものの、それでも速い。だがじいさんはそれら全てを粉砕した。
全てを。
全ての砲弾が一欠片と数える事も出来ないほどに粉砕した。
粉砕された岩が砂埃のように舞う。
「おいおいじいさん、テメェ何しやがった」
「やれやれ、元々長期決戦とやらは向かんのよ」
「やろう!スキルか!!」
そう言ったじいさんの体と刀身には灰色に輝く光が不規則な炎のように大きくなっては小さくと荒々しく揺れている。
「ここからは侍だった頃のワシに戻ろうか」
「…………」
「ワシの名は織田 武蔵、そっちは?」
「天下を統べた武将と剣豪の名を持ってる何て……ハズレを引いたのかねぇ」
矢倉は服の中から一本の煙草を加えると火をつけながらそう言う。
「……」
「矢倉 楓だ」
「早々と行こうか」
「まったく…これが貫禄というやつかねぇ」
貫禄、人を斬ることのない現代では見る事のないであろう侍である貫禄が織田武蔵からは湧き出るようにでていた。酒場のマスターの様な優しさは微塵も感じられず己の目の前にいる敵にのみ痛いほどの殺意をだしている。
「この世に来てからというもの刀の道はもう何年になるか……磨き上げた業はそう簡単に廃らんよ」
一方、凛胆対晴矢。
「当たらない!」
無言のまま凛胆は剣を当てにいってはいるもののスイスイと避けられてしまう。
「当たらないっていってるだろ!」
突如繰り出された剣撃が頬をかする。凛胆の首を斬り落とす筈だった剣撃を凛胆はギリギリで避けた。
「ったく、クールな人だなぁ」
「少し…」
「ん?」
「少し黙れ」
そう凛胆が呟いた瞬間、浅いが晴矢の肩から腹が斬れた。
「なっ、なに?!」
驚いた晴矢とは裏腹に凛胆は寡黙なままだ。
「テメェ!やるじゃねぇか」
そして紫姫陽は。
「はぁ…はぁ…はぁ…私まだレベル5だから…はぁ…アジトって所に行った事もないし……結構、時間かかるかも……はぁ…」
レベルによる身体能力の上昇の過程は人それぞれだ、体力が多くなってから色んな動作を出来るようになる事もあれば色んな動作が出来るようになってから体力が徐々についていく事もある。紫姫陽は後者だった、走るスピードが少しだけ上がってはいるものの体力がついておらず長距離を走る分にはマラソン選手よりも遅いだろう。
「でも、頑張らないとね」
よし!と気合いを入れながら走り出す。
「このペースだと音がした方へは一時間くらいかしら……」
そんな事を呟きながら走っていると街を抜け、林道に差し掛かる。すると一匹の小さなドラゴンが現れた。
「………そういえばモンスターもでるんだ…」
着替えていて、女の子らしい格好の紫姫陽には不似合いの剣を取り出し、そういえばと何かを思いついた言葉を発する。
「スキルって使った事なかったわね」
ドラゴンは準備運動でもするかのように首をグネグネと動かしている。まだ攻撃はしてこないようだ。
「スキルを使う時は…と」
そう言って紫姫陽はオリガミとの会話を思い出す。
『スキルは言葉にだして使用するか、頭の中で考えて使用する方法がある。』
『技名よね?』
『そう、基本的には相手に隙を見せないように頭で考えて動きながら発動するのが普通なんだけど、紫姫陽みたいにまだ戦闘に慣れてない人は言葉で発動した方がいい』
『どうして?』
『テンパるから。モンスターと戦って少しはわかっただろうけど漫画やアニメみたいに深々と考えながら戦うのはまだ無理だろう?』
『まぁ、そうね。残念だけど、渋々、認めざるを得ないわね。』
渋々納得しないがら紫姫陽は答える。
『でもこれから狩りをしていくなら、考えながらスキルを使用しなきゃならない。まぁそこは経験だから最初は声に出してって事かな』
そんな事を思い出しながら紫姫陽は呟く。
「『逆転』」
すると薄く薄く紫色の光が紫姫陽を包む。
「ふわぁ、凄いわね」
紫姫陽が感心していると準備運動を終えたのかドラゴンが鳴き声を上げながら突進してくる。
「ふぅ…『逆転』!」
紫姫陽は少し重い剣を体の回転を利用して横一直線に振りかぶる。すると一瞬の間にちいさな光の刃だけが飛んでいきドラゴンの首を斬り落とした。
「ひぃっ」
『逆転』の効果が上昇しておらず、イマイチな威力の刃はドラゴンの首を斬りおとすという紫姫陽にしては生々しすぎる光景を生み出した。
「なんだかモンスターとはいえ、この殺し方は少し気がひけるわね……」
換金のパネルを押す。
風によって木々が揺れる音が流れる中、紫姫陽は少しだけ黙りドラゴンを見ていると「よし!」と立ち上がり直ぐさま走り出す。
「ごめんなさいドラゴン!私いかないといけないから!」
ブォンと風切り音を立てながら夜霧の長刀は志乃風の衣服をかすめる。傷はつかない。先程からは一転し攻められているように見えた夜霧が志乃風を圧倒している。志乃風は避けるので精一杯らしい。
「どうした?」
「う、うるさい!」
「うるさいなんて酷いな、さっきはあんなにベラベラと喋っていたのにさ」
「くっ!」
志乃風が夜霧の長刀を避け次の一撃に備えようと構えようとした時、夜霧は振るった刀を構え直す事なく、そのままの体勢で刀身ではなく柄巻を使い志乃風の腹部をどついた。
「君が言ってた事を言い返してあげるよ…『スキルは使わないのぉ?』ってね」
「……………」
「?」
志乃風は俯き黙り込む。するとどこからか風が志乃風に対して収束していく。
「……ふふふ、使ってあげるわよ」
「……!」
不敵な笑みを浮かべながら俯いたままの志乃風はそう言うと志乃風の体を水色の光が包み込む。
風が吹き荒れ、志乃風の周辺の草は飛び散り地面が露出する。
『闘心』
すると、どこからかガチャリと何かがハマった様な音が聞こえるとカチ、カチと一定の間隔で音を刻み始める。まるで時計のように。
「………」
「何をしたと思ってるでしょぉ?」
「……」
夜霧は無表情のまま黙り込む。
「コレはねカウントダウンなのぉ」
「カウントダウン?」
一定時間強化か何かか?と思考を巡らせた時、その思考を聞いていたかのように志乃風は割り込む。
「いいえ、少し違うわ。強化というより強くなるの」
「…………」
「私が貴方より一定時間、強くなるの」
志乃風 林檎 レベル145
職業 『決闘者』
職業による特殊効果
『決闘』
敵と認識した対象者が一名のみの時、攻撃、身体能力が中上昇。(尚、敵と認識するまでに約二十分必要)
レベルによる特殊効果
・身体行動サポート95%
・自動回復50%
(上記レベル効果は下記スキルが発動した時、?%上昇する)
職業による特殊スキル
『闘心』
・『決闘』の発動の為に認識した対象よりも五分間攻撃、身体能力が勝る。
「そういう事か」
「あれぇ、案外落ち着いてるんだね」
「いかなる時も落ち着けっていうのが父からの教えでね」
「ふぅーん…そっかぁ…じゃあ死なないようにね?」
志乃風は持っていた剣を手から離す、ほんの一瞬、瞬きをする程の一瞬、夜霧は剣に気をとられる。そして目線を戻した時、志乃風はもういなかった。
「なっ……
「遅すぎぃ…ふふ」
その声が聞こえた時には夜霧の視界はブレ、十メートル程地面を削りながら転がっていた。
「うっ…く…
目を開けると視界上を液体が通過する。頭を怪我したらしい、夜霧がすぐさま起き上がろうと左手をつくがいつものように地面を押せない。押そうとした手が地面の上を通過しただけだ、何だ?と思い左手を見ると左手の肘から下が絶対に曲がらないはずの自分の後方、二の腕に対して九十度に折れ曲がっていた。
「くそ…っ…
「ふふ、まだまだいっちゃうよ!」
「……!」
右手だけで刀を使い立ち上がった途端に腹部に鈍痛が走り、夜霧の口からは盛大に血と胃酸が飛び出る。
続けて一発。二発。三発と志乃風の拳が打ち付けられる。
「ガハッ!ガハッ!う…っ…」
夜霧は腹部を抱えながらも右手に持った刀を振るう。だが身体に負荷を負った夜霧のソレは『振るう』と表現する事も危うい程にか弱く、当然の様にかわされた。
「さぁ、もっと振ってごらんよ。お姉さん」
「はぁ…はぁ…はぁ……っ」
「さっきの挑発はどうしたの?お姉さん」
志乃風は夜霧と距離を置き、夜霧は刀を地面に刺し、俯きながら沈黙を保っている。
「……………」
「んーー、もう限界かなぁ?」
「ふふ」
「?」
「ふふ、ふふふ、ふふふふ」
夜霧は俯いたまま体を震わせながらいつもの様な笑い声を重ねる。不気味だ。
「…何よ?」
「ふふ……いやぁ……全く…やってくれたね…このチビは」
「だからチビって言うなっ……て…」
「ふふふ、ふふふふふふふふ」
「言ってん……だろ…」
志乃風は何かに少し怯えたように声を詰まらせる。
「さてと、随分と痛いなぁ…まったく……………」
「何よ…何なのよアンタ!!?」
「ねぇ…チビ、右腕見てみなよ」
「へ?」
そう言いながら志乃風は右腕に目をむける、するとそこには少しの、本当に些細な、血も垂れ落ちない程の少しの切り傷があった、
「ふふふふふふふふふふふふふ」
「こんな傷が……どうしたっていうのよ」
「今からたっぷりとわからせてあげるよ」
夜の空間には白い霧が舞うように、白い光が揺らめく。
「さぁ……」
夜霧は狂気に満ちた笑みを浮かべ月に背を向け言った。
「罰の時間だ」
更新少し遅くなりそうです。




