第二十三話 …たぶん。
紫姫陽が目覚めた翌日の昼間、僕は2.5次元世界の個室のある酒場にて夜霧さんと二度目の作戦会議を行っていた。紫姫陽とは夜会う約束をしている。
「凛胆誠だ。よろしく」
すました表情でそう言ったのは夜霧さんの隣に腰掛けている凛胆誠さんだ。今回の作戦に参加してくれる夜霧さんが連れてきてくれたハーフプレイヤーだ。レベルは128。大学生な彼は男としては長い黒い髪に黒縁のメガネをかけていて、カッコいい男の人だ。夜霧さんと並んでいると美男美女のカップルみたいだ。
「よろしくお願いします、竜胆さん」
「さて、それじゃあ私が情報収集で集めた新しい情報を言うよ」
そういって夜霧さんは情報を話し始める。
「まず私達が幹部と位置ずけている五人の中でリーダーと銃の生成をする女以外の職業とレベルが判明した。まず一人目はレベル130で職業が魔法使い、久々にベターなのを聞いた気がするよ」
「でも、シンプルな程に幅はひろいよねぇ?それに102か…」
「そう、シンプルイズベストの言葉があるくらいにシンプルは厄介だ。一先ず次にいくよ」
そういって夜霧さんは次の人物をあげる。凛胆さんは寡黙な人なのか頷くだけだ。
「次も性別は男、この男のレベルは118と低めだけど職業は予報者。もう分かったと思うけど何秒か先の動きを何パターンもみれるらしい」
「うわぁ…」
「そして最後は女、レベルはこの中で一番の145、職業は決闘者」
「決闘者?」
「あぁ決闘、つまりは一対一の時パラメーターが上昇する」
「それなら一対一に持ち込んでくる可能性が高いね」
この世界でのレベルは基本的に十や二十など極端に変わらなければ実質それ程までに変化はない、いくら身体能力のサポート率が上がろうと本人の腕が関わってくるからだ。
「どれと戦うかを決めたいんだけど、それはもう決めていいのかい?オリガミが呼ぶ二人は大丈夫?」
「大丈夫だよ、その二人は職業上、基本どれでも大丈夫そうだし」
「そーかい、じゃあオリガミはリーダーとして私と凛か…」
「凛と呼ぶなといってるだろう…はぁ」
そこで作戦会議が始まって初めて口を開いた。凛、確かに女性っぽい。
「私は魔法使いを見てみたい、凛は?」
「む、じゃあオレは予報者でいい」
「ありがとう、で突入時なんだけど。下っ端の数は四十人前後、レベルは70程だから真っ向から行こうと思うけどいいかな?」
「おっけー」
僕がそう返事をすると凛胆さんも無言で頷く。基本的にはこういう作戦で真っ向から挑む相手はそういない、侵入して少しずつ計画的に圧倒していくのが最善だろう、先に記したようだがレベルの十や二十が離れていない限り大差は生じない、だが逆を言えばそれだけ離れているのなら大差が生じる。それほどの大差があればハーフプレイヤーはスキルを使って一蹴できてしまうのだ。
「よし、じゃあこれで大丈夫かな作戦決行は六日後、体調を揃えておいておくれ」
作戦会議は三十分程で終了した。まぁ正面突破で話し合える事も無いのだろうし妥当な時間だろう。僕は早々に店を後にした。夜霧さんと凛胆さんは少し話すらしい。
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「どうだった、オリガミは」
夜霧は凛胆に向かい少し期待を含んだ声で問いかける。
「特にない。だが本当に大丈夫なのか?オリガミはスキルを使えないんだろう?」
「そうだね、でも何とかなるんじゃないかな……」
「…」
たぶん。夜霧は不安そうにそう呟くとそこで個室にお昼の昼食が運ばれてきてご飯になった。
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僕は店からでてすぐにもう一軒の酒場に向かった。月城だ。
「じいさん」
「んあ、昼間からとは珍しいなぁ」
「うん、ちょっとね」
「何にする?」
「オレンジジュース」
「はぁ…まぁいい。それで要件は?」
じいさんはヤレヤレと首を振り、オレンジジュースを注ぎながら僕に要件を聞く。
「うん、今日はじいさんを雇おうかなと思ってさ」
「んん?それで要件は?」
「いや、だからじいさんを雇おうと思ってさ」
「ほらよ、オレンジジュースだ。それで要件は?」
「聞けよ!」
ゲームのNPCとはいかないまでも怪訝な顔をしながら聞き直す。
「何でワシなんじゃ、こっちでこの酒場をやるようになってからワシはもう狩りやパネルに関係する事はキッパリやめたといったろうが」
勿論、パネルがあるという事からこのじいさんもハーフプレイヤーだった。
「でもさぁ、この街の伝言板にXYZって書いておいたんだけど」
「しらんわ!どこぞのシティなハンターなんかこんぞ!大体、お前その世代じゃないだろ!しかも後がないわけでもないだろ!」
「世代じゃなくても面白い漫画くらい読むさ。後がないのは本当だよ。じいさん」
「ワシはやらんよ。じじいはジジイらしく余生を趣味で楽しむのさ」
じいさんは葉巻に火をつけくわえると店員側のカウンターに背を向けるようにもたれかかる。
「それが、その余生を愉しむおじいさんに頼み込まなきゃいけない程に今回はムズカシイと思ってるんだよ」
「ほう?」
「ヤキリンは何とかなるだろうと思ってる。勿論それはバカだからだとかそんな感じじゃない。情報を集めて、推測して、順序良く物事を考察して、シッカリ考えた上での『何とかなるだろう』だと思うよ」
「……」
沈黙が続く。
「でも…それでもなんだ。そのヤキリンが考えた根拠に疑問を感じるのは推測だとか胸騒ぎだとかそんな少しだけでも根拠があるわてじゃない。でも……」
僕は少しだけ黙り込む。じいさんは顔をこちらに向けずに葉巻をくわえたまま黙っている。
「…………」
「難しい」
「……………」
「……………」
「勝算は?」
「…九割…それも百パーセントに近い九割だ」
「それでも難しいと?」
「あぁ」
「ふぅ……」
じいさんは煙を吐き出し葉巻の火を消すと口を開く。一瞬、その瞬間だけ、辺りは昼間なのに繁盛しているざわめきが聞こえない程に僕の耳への音が消える。
「しばらく、店を閉めなきゃならんな」
音が戻る。
「…すまない…」
「謝るくらいならこっちに来た時はココに来て財布が空っぽになるくらい金を使え」
「へいへい……それじゃあ作戦と向こうの人員について説明するよ」
「じじいにも分かるようにな」
「しっかり解説してやるさ」
そう言って僕はじいさんに説明を始める。少しだけ葉巻の香りが残ったカウンターで。
時刻は夕方の五時ごろ。じいさんとの作戦会議が終わり作戦の為の体慣らしに洞窟に狩りにいった後、僕は紫姫陽との約束で紫姫陽の家へと足を運んだ。
「んしょっと」
僕は紫姫陽宅のインターホンを鳴らす。
『あ、オリガミ君、部屋の中に上がって。鍵は開いてるは二階の一番初めの扉だから』
「はいよ」
僕はそう言って、躊躇いながらも扉を開ける。紫姫陽の家は広かった。二階へ続く階段はすぐに見つかり二階にあがり初めに差し掛かる扉をひらいた。
「おじゃまします」
「少しぶりねオリガミ君」
「少しぶり?少しぶり」
少しぶりという初耳な言葉を言い合いながら僕は紫姫陽の部屋へと踏み入れる。
「広いな、新人ちゃんの家」
「そう?まぁ私は産まれてからここだから分からないけれど」
「まぁそういうもんか。準備がよければ行くけど、どうする?」
「家に来させてで悪いんだけど一応スマホを持っていきたいのよ。今充電してて…」
「そうか、なら待とう。スマホは用意しといて損はないからな」
紫姫陽はコンセントから繋がる絨毯に置かれたスマホを指差しそういうと僕は絨毯の上に腰を下ろした。紫姫陽の部屋は勉強机と絨毯の上にもう一つ正方形の机があった。
「ん、お前こういう本読むんだな」
「う!うん」
「漫画とかは僕も読むんだけど…新人ちゃんってオタク?」
僕が指差した本棚にはライトノベルが結構な数置かれていた。
「ち違うわよ!それは偏見よオリガミ君!全国のラノベファンに謝りなさい!」
「いやいや、何でだよ」
「オタクじゃないわよ!大体、表紙で判断してるでしょ!中身は面白いのよ!」
「そうなのか」
「そうよ!これ貸してあげるから暇な時に読んでみなさい!てか読みなさい!」
僕はそういうと一つのラノベを三冊ほど渡されたのだった。
「あいつだったのか!ライトノベルを僕に勧めたのは!」
僕は夜霧さんの家の裏で目を覚ました。記憶の回復により意識が無かったのだ。
「やぁ、起きたねオリガミ君」
「あ、夜霧さん」
「今回は少し長かったね」
夜霧さんは持っているカップを口に近ずけながらそう言うと、僕にもココアが入っているカップを差し出す。
「ありがとうございます。そうですね、もう少しで作戦が始まりそうです」
「そうかい、じゃあもう少しかな?まぁこれからが山場だと思うよ」
「なんかワクワクですよ!僕がどんな職業なのか!」
「ふふ、楽しみにしとくといいよ」
「はい」
僕はそう言ってココアを口に含む。その時少しだけ夜霧さんの表情が切なそうだった事には口を挟まずに。
記憶消失まで後、七日。
レベルアップまであと……???
少し間が空きましたが今日から通常運転でいきます。…たぶん。




