第十二話 蜜葉オリガミフラグ回収しちゃいます。⑤
「ふわぁ…おはようオリガミ君」
上体を起こし背伸びをしながら夜霧がそういうとオリガミはくまが出来ている目を細めながら口を開いた。
「いや、おはようじゃないんですけど!」
「なんだい朝から声を荒げて。やっぱり男の子は元気いいわね」
「元気よくないですよ!もうヘトヘトです!」
ヘトヘトとオリガミは言うが実のところ紫姫陽が帰ってから一晩が経過したのみである。だが夜霧がいるポジションがオリガミをそうさせたのだ。
「どうしたんだい?」
「いや、昨日も言いましたけどやっぱり二人で一緒にベッドっていうのはどうなんでしょうか」
そう、夜霧はオリガミと一緒のベッドにいた。オリガミは昨夜、夜霧がどこで寝ているのか気になり尋ねたところ、オリガミが気を失っている日を含めて一緒に寝ていたらしい事がわかったのだ。
「いやぁ、君はいい匂いだ。安心するよ。寝すぎる事のない私が寝すぎてしまったし」
「や、やめてくださいよ!僕はそのせいで全然寝れなかったんですから!」
「む、不眠はよくないよオリガミ君。しっかり寝ないと!」
「だから!泊めてもらってる身で何ですがアナタのせいなんですけど!」
「ふむ、私が言うのもなんだが女の人と寝れると言うのは君としては、そう、おいしい体験というものではないのかい?」
「それは確かに凄く美味しいでしょうけど、いただきませんよ!」
夜霧の寝ていた格好はカッターシャツとパンツのみでノーブラだった。そんな格好にも関わらず夜霧は眠りについてから無意識にオリガミの腕にコアラのようにしがみついて寝ていたのだ。男のオリガミが寝られないのも無理わない。
「君はチキンというやつなんだね」
「うるさいわ!」
こうして超巨大ドラゴン討伐までの一日目が始まった。
「よし、もう内臓も大分治っていると思うよ。走るなんてコトは無理だろうけど少し歩く分には問題ないだろう」
「そうですか」
オリガミはそう言うと体に掛かっていた掛け布団をどけ、足をベッドから地面へ下ろした。
「四日ぶりだろうから気をつけたほうがいいよ」
「はい!…とうわぁ!」
「んふっ!」
注意された瞬間、予想以上に力が入らなかった足により体は崩れオリガミの顔は夜霧の胸の谷間へぼふっと埋まっていた。
「ぶはっ!すすすすいません!」
「やっぱり君も男なんだね。大丈夫、お姉さんは君がワザとでも触れないで置いてあげるから。それとチキンと言って悪かったね。ふふ」
「いや、ワザとじゃないですよ!本当に足に力が入らなかったんですってば!それならチキンで大丈夫です!」
オリガミは赤面しながらも慌てて夜霧の認識を正そうと必死だった。
「まぁ、それは置いておいて。どうだい?立てそう?」
「はい、なんとか」
「そうかい、イスに座っていてくれ。今ご飯を用意しよう」
「すいません、ありがとうございます」
「いいよ、それで今日はどうするんだい?」
「そうですねぇ、まずは次の出現場所の下見にでもと」
「そうかい、もしもの事がないように私も一応、同行しよう案内と君が経験値にならないようにね」
ふふ、と笑いながら口を開く。この世界では経験値ジョークが定番のようだ。
「…はい色々とすいません」
「大丈夫だよ、それに関しては私も暇つぶしさ」
「思ったんですが、昨日教えてくれた出現場所はどうやって特定してるんですか?」
「あぁ、それはこれまでの緊急コールによる出現パターンから判断してるんだよ。何でかは分からないけど一定なんだ」
「そうなんですか…思ってたんですが夜霧さんは普段、何をされてるんですか?」
リアルの事を聞くのはマナー違反かな?とオリガミは考えたがここも考えればリアルなのだ。
「私は大学に通っているよ。今年で最後だ。まぁ単位は取得済みだし後は卒業するだけかな」
「そうだったんですか。それからはどうするんですか?」
「私はこっちに住もうと思うよ。向こうの世界にはもう行かないって訳じゃないけどね」
「そういえばこっちに住む人も少なからずいるんでしたね」
「うん、この世界は素晴らしいからね。オリガミ君は知ってるかい?この世界がいつから私達に知られているかを」
そういいながらも机には次々と朝食がならべられていく。
「いえ、紫姫陽からは最低限だけで歴史とかはまだ。いつからなんですか?」
「この世界はもう五百年も前から認識されてるんだよ。それも認識されてるのは五百年前からでその前からあると考えていいだろうけど」
「そんなに前から…」
「でもね、その歴史の中でもこのパネルの事は一切伝えられていないんだよ」
夜霧は指でウィンドウがあるであろう場所を指差しそう言った。机には朝食が全て揃い、オリガミはそれを食べながら話を聞いている。
「!…モグモグ…そうなんですか?」
「うん、君も気づいているかもしれないけど、このパネルはこの世界では必要ないはずのものだろう?」
「僕も思ってました。この世界のモンスターはこの世界の武器を使えば狩れるし、スキルなんてものも必要性がわからない」
「そうなんだよ、ここがもしゲームの世界なのならスキルが存在しても違和感はない。まぁこの世界でも殆どのハーフプレイヤーは違和感を持っていないだろうけど。」
夜霧はクールな顔でそう告げる、夜霧は男っぽい口調からは想像がつかない程に美人だ、この世界について論じている姿は実に様になっている。
「でもね、ここはゲーム、二次元じゃなく2.5次元。限りなく現実に近いその一つの事実だけがこのスキルを意味不明にしている。この世界自体が滅茶苦茶なのはわかっている。それでも尚コレだけは理解できない」
「そうですね、僕もそう思います。気になっていましたけどパネルが出来た時期を聞いてもっと気になってきました」
「そうだろう?私はそれが気になるんだ。だからここに住もうと思う」
「なんかいいですね、そういうの」
オリガミは優しい表情でふふと微笑んでいる。夜霧はそれを見て、だろう?と満足そうに答えるのだった。そんな会話をしながらも少しずつ打ち解け合い時刻は午前十時頃。二人は夜霧さんの家から更に山の中へと進み次の出現場所であろう場所に来ていた。
「ここが次の出現場所ですか?」
「そう、ここがユーリア神殿湖さ」
「はぁわぁ…マジですげぇ…」
オリガミは何度この世界に感動すればいいのだろうかと言わんばかりに歓喜のため息を吐く。
オリガミの目の前には巨大な円形の湖が存在し、水は非常に透明度が高く、青というより水色だ。太陽がキラキラと反射し湖を四方から囲む森からは鳥の鳴き声が聞こえている。それだけでも神秘的な風景なのだが、二人が立っている少し古びた白いレンガ道の先の階段は澄んだ湖の中にある壮大な神殿へと繋がっていた。
神殿はかなり大きく、いくら透明度が高い湖だとしても神殿の最深部までは見れない程だ。
「私もそう思うよ、湖の中にある神殿の古びた感じ、何かがありそうなこのワクワク感がたまらないよね」
「はい!こう、なんていうか高揚っていうんですか!?もう最高です!これって中に入る人とかいるんですか?」
「夏は探索する人はいるよ、でも今は冬だからね寒くて入れないよ」
「そうですかぁ…でもこんなのが見れて良かったです!」
「ふふ、目標を忘れてないかい?」
「あ!」
「私がここで緊急コールモンスターを見たのは五回程だけど、現れたのはこの神殿の前、つまり私達がいるこの広場ね」
「結構広いですね」
オリガミは神殿から目を離し後ろを振り返る、神殿に気を取られ気がいかなかったが神殿に続くこの広場というよりは大きな道もかなり凄まじい。神殿までは左右四本、計八本の巨大な柱が等間隔で並んでいて迫力があった。広さは緊急コールで出現したドラゴンが余裕で動き回れるほ程に広く、柱はドラゴンと同じくらいの高さを誇っている。
「どうだいオリガミ君。いけそうかい?」
「えぇ、決戦の場にはもってこいな雰囲気ですし作戦には丁度いいかもしれません」
「ふふ、そうかい」
「はい、詳しく見て回りましょう」
「了解、了解。それにしてもさぁオリガミ君」
「はい?」
「君、学校とか親は大丈夫なのかい?今日は日曜日だけど」
「んー、大丈夫じゃないです。でもいいです。家族は一緒に住んでませんし、学校には幼なじみが何とか言ってると思いますから」
「そうかい、それならいいけど。留年しない程度には学校に行きなよ?」
「はい!」
「それならよろしい。…ところでだけど……何してるの?」
オリガミより先を歩いていた夜霧が振り返り無表情で聞いたその先にはうつ伏せになって顔だけあげたオリガミがいた。
「いや………足がもう限界です」
「全く、だから無理しない方がいいと言ったのに。ふふ」
「すいません、なんだか直ぐに息が切れるし本当にしんどくて…」
「まぁゲームみたいにHPさえあれば死なずにスラスラ動けるっていうのとは全く違うからねぇ。体は疲弊しきっているから、それはしんどいだろう」
「はぁ…はぁ……」
「しょうがない、ここで休憩しながら作戦でも練ろうか」
「はい…お願いします」
「ふふ」
オリガミは苦笑いしながら仰向けに姿勢を変えると只々ひろい青空を見ながら昨夜伝えた作戦の詳細を練り始める。超巨大モンスター討伐までの詳細を、レベルアップまでの道筋を練り、始める。
レベルアップまで74,942,544




