第十一話 蜜葉オリガミフラグ回収しちゃいます。④
「うっ……」
僕は暖かい空気と柔らかい木の匂いを感じながら目を開いた。白い煙に襲われた時のようにぐっすり眠っていた気がした。
「起きたかい?」
僕が眠っているベッドの横から大人っぽい女性の声がした。紫姫陽じゃないらしい。
「…はい…あなたは…」
そう聞きながら身体を起こすが思うように力が入らず起き上がる事が出来ない。
「無理に起き上がらない方がいい。君は今RPGでいう毒をくらった後の状態だ」
「毒を…くらったあと?」
「そうだ毒、つまりは傷によるダメージは無くなったがHPは回復していない」
茶髪の綺麗な女性は僕にそう告げる。的を射て分かりやすい説明だ。
「そうですか……あなたが僕を?」
「結果としてはそうだが、ここに君を連れてきたのは紫姫陽ちゃんさ」
「紫姫陽が…そうか……おれが言われた事を無視して…ドラゴンに…」
「そう、言うことを聞いていればそんな事にはならなかっただろうに。怒られる事は覚悟しときなよ」
「はは…恐いなぁ」
僕は渇いた声で笑い天井をみる。
「紫姫陽は今どこに?」
「学校だろうね」
時刻はお昼の12時半、どうやら僕は三日も眠っていたらしい。
「そうですか……うっ……」
「どうした?」
「いや…頭痛が…」
「そうか……今はまだ寝ていた方がいい。紫姫陽ちゃんは夕方来ると言っていたし、その時に起こしてあげるよ」
「ありがとうござい…ま…」
僕はその言葉を最後まで言わずに眠りについた。随分と体が重いのと意識がずっぷりと水に沈んでいく感じがした。
すると僕の頭の中に映像が流れてきた。
『や、ヤキリン!今日も治してくれ』
僕だ…夢の中で僕が喋っている。場所は…どこかわからない。
『その呼び方で私を呼ぶなと言っただろう、オリガミ』
そう言ったのはさっきの茶髪で綺麗な女性だ…でも…なんでだろう…さっき初めて会った筈なのに何でこんなにも親しそうに喋っているのだろうか…
『いいじゃんか…つつ』
『またかいオリガミ。まったく君は無茶をするなと言っているだろう?』
『ごめん、ごめん』
『まぁいいよ、で例の女の子……えっと……ちゃんだっけ?』
え?……名前は聞こえなかった。
『うん、美人だし可愛いぞ』
『まったく、本人の前でそういう事いっちゃダメだよ。オリガミは勘違いされやすいんだし』
『わかってるよ』
そこで見てる場面は変わった。
『オリガミ…』
……ん?…サクだ。
そこにいたのは僕の幼なじみ甘十咲夜だった。まるで2.5次元世界で着るような服装で僕を見下ろしている。
『私への愛は何グラム?』
…何グラムって……わからない
『私との友情は何センチ?』
……かなり…親しいんじゃないかな。幼なじみだし。
『ふふ…うれしいわ…私は例えあなたの手足が無かったとしてもずっと愛してあげる♡』
……何を……
すると咲夜はあるはずのない剣を腰から抜き出すと僕を斬った。
『ふふ…私はあなたを…ずっと愛してあげる♡』
『オリガミ♡』
『オリガミ』
「オリガミ」
「オリガミ君!」
そこで夢は終わった。紫姫陽が来てくれたらしい。目を開けると紫姫陽がベッドの横にある椅子に腰掛けこちらを向いていた。
「………紫姫陽…」
「…や、やっと起きたわね…」
「あ、あぁ…起こしてくれてたのか」
「違うわよ……やっと…意識が戻ったわねって事」
「あ、あぁありがとうな。ここまで運んでくれて」
「本当にフラグを回収するなんて、どういう運してるのよ」
「はは…最悪みたいだ」
「何で最悪なのよ、それじゃあフラグをたてた私が悪いみたいじゃない、喜びなさい」
「何でだよ」
「あら、喜べないというの?」
「当たり前だろ!」
僕は体が痛まないようにそっと紫姫陽にツッコミをいれた、どうやら全快な紫姫陽さんらしい。少し安心した。
「ふふ、紫姫陽ちゃんはオリガミ君が心配で学校が終わるたんびにココに来てたんだよ」
「もう夜霧さん!何で言うんですか!」
「あら、素直じゃないないなぁ紫姫陽ちゃんは」
「はは…ありがとう紫姫陽」
僕は優しく微笑みながら紫姫陽にそう伝える。紫姫陽は心配なんてしてないわよなんて主張をしていたけど何だか疲れている様子から僕は察した。
「べ、別にいいわよ…」
そういいながらオリガミはレベルのウィンドウを開いた。オリガミは意識が飛ぶ寸前に気づいていたのだ、ドラゴンの尾を防いだ際にたまたまつけた擦り傷に。
「って!うそだろ?」
「「?」」
「僕の経験値…」
「確かに大幅に上昇していると思うよ、なにせ君と紫姫陽ちゃんだけしかダメージを与えていないみたいだからねぇ」
「え?」
「私が一人で倒したのよ。コレでわかったでしょ私の偉大さが」
「…まじですか紫姫陽さん」
「まじですわよ新人君」
この時の紫姫陽はえへんと言わんばかりに胸を張り、凄いドヤ顔だった。でもこの事に関しては本当に胸を張れる事なのだろう、僕が何も出来なかったドラゴンを、ハーフプレイヤーが何十人も集まらないと倒せないようなドラゴンを、倒してしまったというのだから。僕が山のふもとで倒したドラゴンの経験値は二千弱、ドラゴンタヌキ(仮)は例外としてモンスターの強さに経験値が比例している事は間違いないだろう、その事からあのドラゴンがどれだけ強かったかが分かる。なにせ僕のレベルのウィンドウに表情されている今現在の経験値には約二千五百万もの経験値が追加されていたのだから。つまり一体五千万もの経験値を誇るドラゴンを実質たった一人で倒したというのだから。
「すげぇな…」
「それ程に君がピンチだったという訳だよ」
「!……そうですね」
「でも……本当に無事でよかったわ」
紫姫陽は恥じらう事なく優しい笑顔でそういった。少し涙ぐんでいたかもしれないけど、それを僕は口にはしないでおいた。いつもは口が悪い紫姫陽だけれど本当にいい奴だ。まぁ会ってから二日目、紫姫陽からしたら五日目なのだろうけど。それでも五日目なのだ、それだけしか会っていない僕の事を心配してくれる彼女には本当に感謝しなければならない。
「ふふ、さぁてお昼だしご飯にしようか。オリガミ君には私が食べさしてあげよう」
「な、破廉恥です夜霧さん!」
「破廉恥って何で。オリガミ君は動けないんだから、しょうがだろうに」
「できればそうしてくれると助かります。まだ体が重くて…」
「ほぉら」
夜霧さんという女性がそう言いながら紫姫陽を見ると紫姫陽はむむと頬を膨らませ、渋々納得していた。紫姫陽のこういう所はギャップなのだろうか。
「それよりヤキリン、喉が渇いてて水が欲しい」
「「!??」」
「え?」
不意に誰かがそう呟き、僕達は驚いたがそう呟いたのは僕だった。
「な、何でアンタまで驚いてるのよ」
「いや…わかんない、自分でもイキナリでて…」
そう呟きながら僕は夜霧さんの方を見ると彼女は驚いた表情で僕を見ていた。僕と紫姫陽は夜霧さんを見て暫く沈黙すると夜霧さんもその沈黙に気付いたらしく、口を開いた。
「…オリガミ君、君はどこでその呼び名を?」
「いや…えっと、夢の中で…傷だらけの僕を夜霧さんが治療してくれてて僕は夜霧さんの事をヤキリンって呼び捨てに…」
「……そう…」
夜霧さんはどこか悲しそうにそう呟やいた。紫姫陽は何が何だかわからない様子で頭の上にハテナが浮かびそうな表情をしていた。
「えっと…すいませんでした…」
「いいんだよ全然、さぁご飯にしよう」
夜霧さんはそう告げるとキッチンへと向かった。とはいえ部屋の数はトイレとこの一室のみの為キッチンは目に見えている。…あれ?それじゃあ夜霧さんは一体どこで寝てたんだろうか。
「そうですね夜霧さん!新人君は寝てなさい、死んだように」
「一言余計だろうが!」
「そうかしら、じゃあ死んでなさい」
「寝てなさいが余計な言葉じゃないから!」
「はぁ、文句が多いわよ新人君の癖に」
賑やかでいいねぇと笑顔を作りながら夜霧さんはテキパキと調理を進めていく、完璧と言えるほどに何でもできるんじゃないだろうか。
僕はそれから夜霧さんにご飯を食べさせてもらい時刻は夜、いい子なら寝ている時間だ。それまではたわいもない話で盛り上がった。
「それじゃあ私はもう帰るわ、今日は家でゆっくり寝ようと思う」
「そうだね、そのほうがいい紫姫陽ちゃんも疲れているようだしね」
「はい、それじゃあ新人君をお願いします夜霧さん」
「うん、まかせておきなさい」
「なぁ紫姫陽、しばらくは動けないしお前はお前でオレに構わずに生活しててくれ」
「………」
夜霧さんは黙っている。
「ん?まぁそうするけど、たまにはお見舞いくらいしに来てあげるわよ」
「あぁ、だけど本当にたまにでいいよ。治ったらまた宜しく頼みたいからゆっくりしててくれ」
「それはお互い様だけどね、わかったわよ」
「うん、それじゃあ」
「えぇ」
そう言うと紫姫陽は帰っていった。
そして僕は寝たまま口を開いた。
「緊急コールのドラゴンは出る日程とかって決まってるんですか?」
「んー、きまってはいないと思うけど一週間に一度、東西南北の順番で来るかな」
「そうですか」
夜霧さんはそれを聞くと僕に向き直り椅子に座って口を開いた。
「オリガミ君、君は何であんな事を言ったんだい?」
「え?」
「紫姫陽ちゃんにだよ、私にはお見舞いに来ないでと遠回しに言っているように聞こえた」
「…………やりたい事があるんですよ」
「…………聞こうか」
僕は少し間をあけ深呼吸をするとそれを告げる。
「あのドラゴンを……倒します」
「ほう、どうしてだい?君は理解した筈だよ?あのドラゴンの強さを。君じゃあ到底倒せない。大体、するにしても何故今なんだい?怪我が治ってからでいいだろう」
「怪我が治れば紫姫陽もそこに加わります。紫姫陽は絶対に僕を止めるでしょうし、紫姫陽の手を借りたくない。まぁ二つ目は僕の単なるわがままですけど」
「まったく…男の子は本当に分からない」
「確かに無謀な事はわかってます。でもゲームで負ければ挑戦したくなるじゃないですか」
「確かにここはゲームに似たような世界だし男の子はそういう事が好きだろう、でも君はその身をもって体感しただろうこの世界では怪我をするし下手をすれば死ぬんだ」
夜霧さんは真剣な表情でそう告げる。それもそうだ、今回はたまたま運が良かっただけで次に戦えばこれより酷い結果になるのはわかっている。
「でも……戦います」
「……何を言っても聞かないような目をしてるよ。で?どう戦うんだい?」
僕は食事の合間に少しずつ考えていた方法を夜霧さんに伝えた。すると夜霧さんは眉毛をピクリと動かしほぉと唸り、口を開く。
「確かに面白い、でもやれるのかい?その体で」
「確かにHPは少ないですが毒はないですから大丈夫です」
「ただそれをしくじれば命はないよ?」
「…わかってます」
「ふふ、面白いね君は。僕もできる範囲で手伝ってあげよう。最近運動不足でね」
「ありがとうございます!」
僕にとってコレだけ高レベルのプレイヤーからの手助けは本当心強い。
こうして僕の2.5次元世界初の大仕事が始まった。
「やってやる。レベルアップまで短縮だ」
レベルアップまで74,942,544




