第九話 蜜葉オリガミフラグ回収しちゃいます。②
「よし!五体目!換金と!」
オリガミは狩りを開始し、五体目のドラゴンを狩ったところだった。ドラゴン一体につきコチラの世界では千円程度に換金される。一体倒すだけで千円というのはかなり楽にお金を稼げると思うが、命を賭けてドラゴンを倒しているのに千円というのは安い気もするだろう。
「まだ経験値の高い奴はでないのか?」
「そんなに簡単に出るわけないじゃない、前にも言ったけど普通なら経験値五百でレベルが1あがってお釣りがくるのよ?それなのに五万も経験値を落とすモンスターがそんなにポンポン出るわけないじゃない」
「まぁ…それもそうだな」
オリガミ達は洞窟の一定の範囲を歩き回り、そのモンスターが出るまでドラゴンを倒し続けるというのがオリガミがレベルアップするまでの主な行動だ。一定の範囲とは言えかなり広い、紫姫陽がいなければオリガミとっくに迷子になっているだろう。
「それにしてもモンスターってのはどっから湧いてるんだ?ずっと出てくるけど」
「あぁ…そういえばハーフプレイヤーの軍団がその事を調査するためにワンフロア全部に均等にプレイヤーを配置したって聞いた事があるわね」
「なるほどね、結果は?」
「瞬きした瞬間にモンスターが居たらしいわ」
「えー」
「まぁ、私も聞いた時はそうなったわ」
「はぁ、まぁ今更驚きはしないけど本当に不思議だよなぁこの世界」
「そうね…アナタが言ってた何かあるっていうのは本当なんでしょうね。…と、言ってる間にモンスターがってあら?」
「どうしたんだって、おう何か見たことないモンスターが!」
「新人君あれよ!経験値!」
「え!あいつがか!」
二人の目の前にはドラゴンとタヌキが合体したような何とも可愛らしいモンスターがいた、大きさはオリガミの膝くらいでぴょんぴょん跳ねている。
「え、こんなやつ殺さなきゃいけないのかよ!」
「今更何言ってるのよ、さっさと殺れ」
「うっ…」
紫姫陽の言葉が様になり過ぎていてオリガミは思わず息を呑む。相変わらず怖いキャラだ。
「あー、わかったよ!ごめんな!」
するとオリガミが腰から剣を抜き、モンスターを真っ二つに斬った。
「え、アナタ真っ二つはどうなのよ」
「いや、殺せって言っといてそりゃあないだろ!!」
そう言っている間にモンスターはピギャッと鳴き声を上げながら絶命した。
「もうちょっとスマートな殺し方があるでしょう?こんなに可愛いドラゴンタヌキを真っ二つにするなんて、あなたには減滅したわ!」
紫姫陽はドラゴンタヌキと呼んでいるらしいモンスターに寄り添い、最低と言いながらオリガミから距離を置く。
「なんでそうなる!」
オリガミは換金を選択したが、ドラゴンタヌキは十円とお金には全くならないらしい。換金した事により死体は消滅しオリガミのレベルのウィンドウに経験値が追加された。
「おぉ、本当に五万くらい入ってる!」
「あらそう、経験値の為なら何でもするのね……」
「いや、元々この案だしたの紫姫陽じゃねーか」
「そうやってまた私のせいにするのね…あなたはいつもそう…私は何をしても怒られる…」
「なんで結婚生活に疲れた妻みたいになってんだよ!」
「結婚した当時はダイヤモンドみたいに輝いた日々だったのに」
「何だよその表現、輝きすぎだろ」
「今は美術の授業で使った食パンのように黒ずんでる…」
「だから何だよその表現!わかりにくいわ!木炭デッサンした事ない奴はわからないだろうが!」
とそんなツッコミをオリガミがした時だった。
「…私の携帯…あ」
「どうした?」
「いや家の用事を忘れてたわ。一旦ここを出ましょう親戚が来て鍵を開けなくちゃいけないの」
「そうか」
紫姫陽母から言われていたまきちゃんが来たらしい。紫姫陽は表情を曇らせ渋々とオリガミをつれ洞窟をでた。
「あなたはここでまてる?」
「まてるよ!そんなに子供じゃないから」
「そう、門の近くでモンスターはあまり見ないから大丈夫だとは思うけどプレイヤーが来るかもしれないから岩陰にでも隠れておいて」
「わかった」
「絶対よ?すぐに戻ってくるけど」
「わかったって!行ってこい」
「本当に絶対よ?何かあったら怒るからね!?」
「わ、わかったって」
真剣な表情で素だったのだろうか、女の子らしかった。
「そう…じゃあ行ってくるわ」
「おう」
「じゃあ後で」
そう言うと紫姫陽はオレンジ色の光に包まれて消えた。外から見るのが初めてだったオリガミは感動していた。
「ちょっとはモンスターでも狩れるかなぁって思ってたけど、あんなに念を押されたらできないな……さて、この辺ならバレないか」
そう言ってオリガミは岩陰に身を潜め辺りをそおっと見渡す。そうして一先ず問題はないだろう安心した時それは起きた。
緊急コール。
うるさいと思える程に大きい音が2.5次元世界を包み込んだ。
「な、なんだよこの音!……もしかして……」
オリガミは考え紫姫陽から教えられていた緊急コールを思い出していた。
「え」
そう言ったオリガミの先、沢山の木々だけが見えていた視界に突然、超巨大なドラゴンが出現した。
立派に成長しきっている木々がドラゴンの膝にも及ばない。
「東西南北に出現するんじゃないのか!?……………まさか…」
オリガミは東西南北に出ると聞いて一つの勘違いをしていた、それはそれぞれの方角の端に位置する場所でモンスターが出現すると思いきっていた事だ。紫姫陽が言っていたのは先程まで居た街を中心とした時に東西南北に出現すると言っただけで誰もこの世界の端々に出現するとは言っていない。
「くそ………どうする紫姫陽も居ない時になんで…」
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そうして今に至る。僕とドラゴンとの距離は50メートルを切っていた。
「くそ……一撃いれて逃げれば…」
オリガミは考えていた、一撃でもいれて逃げれば経験値が貰えると。警報が発現してまだそれ程に時間がたっていないために幸いにも他プレイヤーはいない。
「………おれに気づいてないのかな」
目の前にきるドラゴンはオリガミのいる山のふもとには向かって来ず、街に向かい一直線に歩いている。
「チャンス!」
この時ほどオリガミは自分の軽率すぎる判断力を恨んだことはない。野生の生物の本能をなめていた。オリガミがチャンスと踏んで走りだした途端、ドラゴンが廻った。
「なっ!!」
ドラゴンはオリガミに見向きもせず、体を一回転させ長さにして50メートル程の尾でオリガミを薙ぎ払った。
はらうといえば、被害は少ないと思うかもしれない。だがこれは全長100メートルは下らないドラゴンがソレをしたのだ、人間への被害は絶大だ。オリガミの三倍程にもなる太さの尻尾がオリガミの全身を打った。
「……ぐぁふ!」
とっさに剣でガードしたものの、そんなものが通じる筈もなく、オリガミは地面の上をスーパーボールのように転がった。
「がはっ!がはっ!」
オリガミは盛大に吐血し地面にうつ伏せたまま身動きが取れなくなっていた。
「これは………っく!…」
この時オリガミの体は左肩から肘、左足、そして左側の肋骨が粉々に折れていた。息をするだけで肺が痛むことから折れた肋骨が肺に突き刺さっているのだろう。
「……はぁ…はぁ…うっ!」
ドラゴンは一回りしてからは動きを止め辺りを見回している。
意識は辛うじて保っていたが悪質なハーフプレイヤーが来れば絶対絶命だろう。
「…………くそっ……」
オリガミは轟々と鳴り響くサイレンを耳にゆっくりと意識を落としていった。
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その頃の彩菜は
「戻ってきてあげたわよ新人君………って……緊急コール!?」
彩菜の目の前には超巨大なドラゴンが留まり、木々が薙ぎ倒されていた。初めての事ではない為にそれ程驚かなかったがオリガミの存在を気にして辺りを見渡す。
「新人君?…新人君!?」
どこか遠くに隠れているだろうとオリガミに呼びかけるが返事は返って来ず、不安が高まっていく。
「新人君!?!……………オリガミ君!!!どこ!」
新人君という呼び方も辞め真剣に焦りが見え始める。
「………まさか……」
そういって彩菜は目を瞑るとオリガミの生命活動を確認するために目線の左下に位置するパネルECGのウィンドウを表示しオリガミを思い浮かべる。
「……っ!これは!」
彩菜が見た心電図は赤黒く輝き波形は酷く乱れていた。心電図は知識がある人でないと読み取れない為に危険な人ほどパネルが変色していく様になっている。色は青白い通常のパネルから緑、黄色、オレンジ、赤そして黒は死を意味する。この時のオリガミは黒い赤。
そう、かなり危険な状態である。
「……嘘でしょ!……」
彩菜は顔を青くすると、木々が薙ぎ倒されている場所へ走る。レベルにより身体能力が上がっている彩菜は目で終えない程に木々の隙間をすらすらとかけていく。
そして、彩菜は目撃する。木々が一部だけ晴れている場所に倒れていたオリガミの姿を。
「オリガミ君!!」
レベルアップまで…………




