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いもむし

小さな頃から不思議だった・・・

 

幼稚園バスから降りてきた女の子は、シナシナのたんぽぽみたいに項垂れている。

迎えに来た男に声をかけられると小さな2つの瞳からぽろぽろと涙が落ちた。

添乗していた幼稚園教諭がバスを降り、男に2、3の連絡事項を伝えると男はジャ○ー○系の甘い笑顔を振りまいた。

「山本先生、いつも気にかけて下さってありがとうございます」

男はごく自然な仕草で中年に差し掛かる女性教諭の手を取った。

山本教諭32歳はポット頬を染め、立ち尽くす。

運転手がせかすようにクラクションを鳴らすと、彼女は耳まで赤くなってそそくさとバスに戻った。


バスが行ってしまうと男は少女の手を引いて、自宅とは反対方向へ歩き出した。

海の見える高台にある公園だ。公園とは名ばかりのブランコが2つとベンチが2つあるだけのこじんまりとした場所だが、そこから見渡せる水平線と涼やかな風が心地良い。

男は少女をベンチに座らせると自分もその横に腰を下ろす。

「瑠伽たん、どうして泣いているのかな?」

「ヴェ・・エエッ・・ヒック」

「泣いてる子を連れ回していると、パパお巡りさんに連れて行かれちゃうかもしれないな」

少女は嗚咽を押し殺した。

「パパ・・・」

 一言発すると、言葉が一気に溢れ出す。

「今日とうまくんがねヒック、瑠伽のことさるヒヒック・・おんなって笑うんだ、そしたら他の人もみんなで笑って・・・瑠伽おさるさんじゃないのに、あとぶすぶすって背中をたたいてきて、そしたら悲しくなって・・・」

うん、うん頷いていた男はすくっと立ち上がると開いた左手に右拳を打ち込んだ。

「よし、トウマを殺ってこよう」

瑠伽がそんな父の足にしがみついて必死で止める。

男はそんな娘を愛しげに見つめると瑠伽の髪をくしゃりと握った。

「冗談だよ。瑠伽たんは本当に優しくて可愛い子だね」

愛娘の前に膝をつくとポケットから出したハンカチで涙と鼻水で汚れた顔を拭きとった。

再び並んでベンチに腰掛けるとぽつりと話しだした

「あのさ。女の子はまだ芋虫なんだ。人参もピーマンもごぼうもちゃーんと食べてニコニコ笑っていれば、ままみたいな綺麗な蝶々になれるんだ」

とびきりの笑顔を娘に向ける。

「瑠伽ね、にんじんもぴーまんもごぼうもいもむしもすきくないよ?」

「うーん・・・ママにきいてみなよ。ここだけの話、ママも昔は芋虫だったんだ」

瑠伽の小さな目が1.5倍も見引かれた。

「ほんとうに?瑠伽もママみたいになれるの?!}

「もちろんだとも!」

「じゃ、にんじん食べるよ・・・」

目をしぱしぱさせて瑠伽が笑う。

泣き腫らした目のせいで、いつもより人相の悪くなった娘の笑顔を見て、父は鼻の奥にツンと軽い痛みを覚えた。




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