少年少女、
遠い遠いあるところに、魔法と剣のある世界がひとつ。
魔力を多く持っている者は皆美しい髪をしています。
そんな色彩豊かな世界の果てに、ふたりの少年少女が居りました。
カランコロンカランコロン
足跡を東に置いていく少年は、微かに聞こえた音にふと足を止めた。疲労困憊の様子でとても疲れ切った顔をのろのろとあげる。
カランコロンカランコロン……
耳を澄ませばキャラバンの愉快な音が聞こえてきた。
「ねぇねぇ、あれについてけば次の町に着けるよ!」
希望の光を見出したかのように目を輝かせて少年は言った。
すると、彼の後方から少女の声がした。
「次の町って、どんな?また変な法律で捕まるのはゴメンだわ」
ウンザリとした声だった。
最初の少年の声が、少し焦った様子で言う。
「でも、食料も大分尽きたし。ナイフの刃もズタズタだし、あったかいシャワーもあびたいしさ!」
おんぼろのコートが寂しげに風になびいた。
少女はチラリと己の成りを見た。億劫そうにまえを向いて、少年を見据えた。
「でも、貴方を殺すのに、食料もシャワーも要らないわ」
彼女の鮮血のように美しい紅色の髪が、なびいた。
元貴族の少年は、困ったように綺麗に笑った。その、ひとつひとつの動作が洗練とされていて、酷く優雅だった。
「だいだい!」
赤髪の少女は、眉間に眉を寄せて啖呵を切った。
「あんたのその無駄に綺麗な身なりやら動作やらのせいで道中余計に苦労したのよ!この前の町だって、もっと早く出発する予定だったのに!その前の町だって!」
「うん、ゴメンね」
「ごめんで済むと思ってんの!?こんな、こんな……」
こんな儀式さえなけりゃ、さっさとあんたの喉笛をかっきってやるのに。
「うん、ごめんね」
少年は変わらず謝った。続けて
「でも、嬉しいよ」
声に少し喜色を乗せて、少年は言った。
「は?」
苛立ちを隠せずに少女は、少年を睨める。
いつしかキャラバンの陽気な音は聞こえなくなっていた。
まるで世界の果てのようだね。
嬉しそうに笑う少年。そして、
「ぼくでも、こんな遠い地にたどり着けて、色んなことを知ることが出来て、あそこに居るよりずっと楽しい。幸せで、捕まるのは恐いけど、生きてる感じがして。」
きみのおかげだね。
有難う。
真っ白な髪がフードから覗いた。
まるでこの世の全ての色素をどこかに置き忘れてしまったかのような、空っぽの純白だった。
「自分を殺す相手に礼だなんて、随分間抜けね」
忌忌しげにその髪を見ながら少女は、吐き捨てた。
けれど、その耳は仄かに朱に染まっていた。初めての礼だったかもしれない。殺し屋を生業とするまだ幼い少女にとって、それはとてもこっぱずかしいものだった。
「ねぇ、キャラバンどっか行っちゃったけど、どうする?」
「野宿ね」
「やっぱりかー」
「うっさいわね。だまんなさいよ、このボンボン」
「元ボンボンだよ」
「そう変わんないでしょ、甘ったれ!」
「酷い言いようだなー」
ふたりの少年少女の旅はあと、もう少しだけ続く。
魔法を一切まとわない少年と、憎悪を剣に委ねる少女の行き着く先は、さて何処?