56.中ボス戦 前半
はい、続きをどうぞ!
「無いのか……?」
「ごめんね。β版でも見たことがないの」
ケイが欲しがったのは、臭い消しのアイテムだ。β版をやっていたリンダに聞けば、何かわかると思って来てみたが…………
「あとで、【製薬術】か【錬金術】を持っているフレンドに聞いてみようか?」
「あ、あぁ。頼むぞ。あそこは普通の人間が入れる場所ではない」
匂いがキツすぎて。
とにかく、匂いを消したり遮断出来る物がないと、扉の先には進めない。
「あー、どうすっか……」
「あら、『青草の草原』にいる中ボスとやらないのかしら? あそこはまだ単独討伐の賞品が残っていたわよ」
「あ、まだだったんだ? シキと言う奴がとっくに挑んだと思っていたが」
「とっくに挑んでいるわよ。体力を半分ぐらい残して負けたみたい」
ケイもシキと言うプレイヤーのことをある程度は知っている。何せ、ケイと同様に単独討伐をした唯一のプレイヤーである。
まだ『青草の草原』の単独討伐は誰も達してないなら、暇の内に行ってみようと思っていたがーーーー
『アナウンスが流れます。只今、サクラ様が『青草の草原』の中ボスを単独討伐致しました』
「一歩遅かったか。サクラね、このゲームは有力なプレイヤーが多いじゃないか」
「うーん、聞いたことがないわね。生粋なソロプレイヤーなのかしら」
アナウンスが流れ、『青草の草原』で中ボスが討伐された。サクラと言う名だが、交友関係が広いリンダでも知らないという。強いなら掲示板などで騒がれそうだが、今まで名を聞かなかったし、単独討伐をしたことから普段からソロを嗜むプレイヤーだと想像出来た。
「あー、暇だから『初心の草原』と『青草の草原』に挑んでくるわ」
「ゲームで暇と言うのは珍しい形よね?」
「そうだなー」
くだらないことを雑談しつつ、先に『初心の草原』にいる中ボスを倒しに行くことに。
中ボスの扉がある場所はリンダに聞いたので、あっさりと着いた。
「んー、デカイ牛かぁ」
『初心の草原』の中ボスは普通より大きい牛だった。
モーブルグ レベル10 (R)
ランクはRだが、レベルは低い。体力バーはどの中ボスでも同じ様に統一しているからか、3本もあった。
「モー」
「ゴツい身体をしていて、可愛い声だなっ?」
「モモォォォッ!!」
ケイの言葉に怒ったのか、可愛い声で突進してきた。可愛い声に気が抜ける気分だったが、すぐスノーに指示を出した。【氷霧鎧】を纏い、ケイの前に出た。ケイの指示にしては珍しく正面からの勝負だった。スノーの硬さが勝つか、モーブルグの攻撃力が勝つかーーーー
ドコォォォッ!!
まるで自動車が突っ込んで当たったような音が響いたが…………スノーは体力を少し減らしつつも、完璧に受け止めていた。
まさか、受け止められてしまうと思っていなかったのか、驚愕するモーブルグのようにーーーー見えた。モーブルグの表情は変わってないから想像でしかないが、動きが止まっているから、その考えは間違ってないと思う。
止まって、隙だらけになったモーブルグへ絡みつくようにと指示を出していた。
「シャッ!」
「モー!!」
「声の選択を間違えているよな……。【毒牙】だ!!」
中ボスに毒が効くかわからないが、毒状態にならなくても、スノーの実力なら高いダメージを与えられるはずだ。
「モッ!?」
「え、思った以上だったな……」
一撃だけで、1本目の体力バーが3分の1も減っていた。しかも、毒状態になっていた。
「これって、スノーだけで行けそうじゃね?」
「ミュ~」
フォックもそう思ったようで、スノーに全てを任せる気満々だった。扉前で1回肩から降りたが、今はケイの肩に戻っていた。
「呑気だな……まぁ、アレを見ちゃそう思うよなぁ」
ケイがノンビリしている時もスノーは【毒牙】を連続で繰り出していた。毒状態で力が余り入らないのか、絡みつきから抜け出せないでいた。
あと体力バーの3本目が半分を切った所で、モーブルグの様子が変わった。スノーも様子がおかしいと気付いたのか、ケイからの指示無しでモーブルグから絡みつきを止めて、離れた。
「スノー! 何がーーーー成る程……」
「シャー」
モーブルグを見て、すぐわかった。何故、絡みつきを解いたのか。
「モー、モオォォォォ!!」
「燃えているな」
モーブルグは身体から炎を放出して、炎を纏っていた。
つまり、スノーは【熱視感知】でモーブルグの体内が高温になっていくのが見えたから、すぐに離れたのだ。
スノーが離れたことで、モーブルグは優位を取れたと思って、炎に滾る身体を持って、突っ込んできたーーーー
「馬鹿か。炎を纏っていようがーーーー」
ケイは既にスノーの勝利を確信していた。スノーは離れてすぐに、次の手を準備していた。
スノーの周りには尖った氷が10本も浮いていた。氷は炎に弱いという常識はあるがーーーー
「魔力の差がありすぎたんだよ」
そう言い切った時は、モーブルグは氷に貫かれて、体力バーが真っ白になっていた。氷は炎に弱いといえ、魔力の差が離れすぎた場合はその分だけ威力が高くなる。
少し威力を削られてしまったが、【氷穿】はモーブルグの身体まで届いて、貫いたのだ。
「モーーー………」
消える前に弱々しい声がケイの耳に届き、不愉快な声だと感じていた。
「イヤな終わりだ……。まるで子牛が無抵抗で嬲られたような声で鳴くなよ……」
「シャー……」
スノーもそう思ったようで、眉を下げたような気がした。因みに、フォックは肩ですぅすぅ……と眠りに落ちていた。
「はぁっ、次に行くか」
呑気なフォックに呆れつつ、次の中ボスがいる場所へ脚を進めるのだったーーーー




