36.ハイドラ
本日二話目。
ちょいと短いけど、どうぞ!
ハイドラという、毛が白くて長い猪がケイの前にいる。大きさはバイトより大きくて質量がありそうな巨体でケイの身長の3倍ぐらいはありそうだった。
幸い、向こうはまだこっちに気付いていない。いや、気付いているが、無視されているかわからないが…………
ここは逃げの一手だ。
「…………フォック、スノー。ここは逃げるぞ」
小さな声でフォックとスノーを呼びかけると、頷いた。了解という意味だろうと後ろへ下がろうとした時ーーーー
「逃げるのか?」
「っ!?」
ハイドラはこっちを見てもいないのに、下がろうとしたケイに話していた。ケイは会話が出来ることに驚いたが、それよりもここで逃げても、やられる未来が見えたことに舌打ちしたくなった。
(なんだよ、何でこいつがここにいるんだよ。…………まさか、クエストの延長線上なのか?)
考えてみるが、情報が少ないから答えが出るわけでもなかった。逃げられなくなったが、戦うのはもっとありえないことだ。
ハイドラから放たれる威圧をケイ達は感じ取っており、ゲームだと思えない程に凄かったのだ。
「…………何の用か?」
「たわけ、そっちが何か言いたそうにしておらんか?」
「……ち、お前ほどの奴が何故ここに?」
一番の疑問はそこだ。何故、ハイドラ程の強者がここにいるのか?答えてくれると思っていないケイだったがーーーー
「ふん、馬鹿な息子を殺しに来ただけだ」
「は?」
息子を殺しに来たと答えられて、一瞬だけ頭の中が真っ白になった。
「む、息子を?」
「ああ、馬鹿な息子が暴れていて森に迷惑を掛けていると知ったから、我がが来たのだ」
「来た(・・)だと?」
まるで、別の場所から来たような話ではないか。それはその通りだったようで、
「そうだ。我の住処はもっと遠い」
「…………はぁっ」
ケイは読めてきた。これはクエストの延長線上か、別のイベントに無意識に参加してしまったような感じだ。つまり、目の前にいるハイドラとは戦わなくても済むことにケイはホッとしていた。
(いや、死んでも街に戻るだけじゃないか。なんで、そんなに心配していたんだか…………まぁ、あの威圧のせいだな)
ハイドラから出る威圧のせいで、ゲームだというのを忘れていたわけだ。ホッとしていた先に、ハイドラが話を始めた。
「……丁度いい。お前が我が息子を殺せ」
「は?」
この時、ケイは何言ってんだ、この老いぼれは?と言うような顔をしていただろう。だが、その理由はすぐにわかることになった。
「我が暴れたら、森も無事に済まないだろう?だから、お前に頼むということだ」
「あぁ、成る程」
その巨体を見て、納得した。暴れたら森が無事に済まないのは理解出来るし、森を守るためにハイドラが暴れても、それで破壊したら意味がないからだ。
だから、ケイが現れたから丁度いいと言ったのだ。
「む?」
『□特殊クエスト□ハイドラの息子であるコクガボアを倒せ。このクエストは受けますか?』
選択があるみたいだが、断ったら何があるのか読めないし特殊クエストのことは聞いたことがあって、断ると二度と受けられないクエストなので、受けない人はあまりいないだろう。
たまにクエスト中に別の流れが出来て、今みたいに特殊クエストを受けられることもあるのだ。
特殊クエストをクリアしたら、珍しい報酬を貰えるので、ケイは逃す訳がない。
「受けるよ」
「そうか!馬鹿な息子はこの先にいる。我はここで待っているから終わったら戻ってこい」
「あぁ、わかった」
モンスターから依頼を受けられるとは思っていなかったが、ケイは楽しくなっていた。まさか、面倒だなと思いながら受けた依頼が、面白そうな依頼になるんだから、機嫌が良くなっていた。
ケイを見たフォックとスノーも楽しみを表すように、尻尾を振りながらケイに着いて行く。
この先にある広場まで歩いていくと、ボスと戦う時みたいにバトルフィールドへ変わった。通っていた道に透明な壁が現れて、そのバトルフィールドの中心に闇の霧が集まったかと思えば…………
「ブギィ、ブギィィィィィィィィィィィィィィィ!!」
身体が真っ黒に染まった、コクガボアの姿が現れたのだった。そのコクガボアはハイドラみたいな理性が吹き飛んでいるようで、奇声を上げるだけで話せていなかった。
「ハイドラの息子と聞いたから話せるかなと思ったが、闇に染められてしまい、理性がなくなったって流れか?」
そのコクガボアのレベルを確認してみたら、
コクガボア(狂化中) レベル20 (R)
コクガボアは狂化中だから、攻撃力が普通のより高いと考えるケイ。中ボスクラスであるアメンボーよりレベルが高いが、戦えない程ではないと判断した。
(先程のハイドラを見たせいか、大したことがなさそうに感じるな……)
それはそう感じるだけであって、コクガボアが弱いわけじゃない。それを理解した上で、考えていたので油断はしていない。
闇の霧が完全に、コクガボアへ纏まった後、今まで動けなかったケイ達は動けるようになった。
そして、コクガボアが一声を鳴いたのが戦いの始まりになったのだった。




