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32.心霊術師

 


 ケイはサヨから対価を貰い、満足していた。一方、サヨは涙目になっていて、項垂れていた。何故、そうなっているのかは…………









 皆はお腹一杯になって満足な気分を味わい…………、サヨだけは何かが入っていた袋がカラッポになってしまい、袋を逆さまにしても何もないことに項垂れていた。




 ケイが望んだ対価とは、さっきまで望んでいた物であり、手に入らなくて悔しがっていた物。そう…………




 調味料なのだ。


 ケイはサヨが持っている調味料全てを対価として望み、サヨは少しだけ迷っていた。調味料は塩、コショウ、味噌の三種類を買ってあり、2000ゼニはかかったのだ。稼ぎが少ないサヨからしたら、全てを差し出すのは迷うことだろう。


 さっさと差し出さないサヨに仕方が無いというように、ケイは妥協案を出した。今回、使って余ったら返すと言った。

 サヨは「……まぁ、それなら」と認めて三種類の調味料を差し出したのだった。

 ならば、何故サヨが項垂れているのか?




 正解は、全てを使ったからだ。




 ケイも始めは全てを使わずに、終わったら返そうと思っていたのだ。だがーーーー




(まさか、フォックとスノーがあんなに食べるとはな…………)


 予測していないことが起こったのだ。ケイが作った料理はさっき倒した猪のモンスターがドロップした〈猪の肉〉と木の側に生えていたほうれん草のような味がする草、〈ホウの草〉を使った作品。それがこれになる。



 〈猪の塩焼き〉 ランク2


 薄く切った猪の肉を塩で焼いた物。満腹度5%



 〈猪の味噌汁〉 ランク2


 ダシなしで猪の肉とホウの草を味噌汁に入れた物。満腹度3%



 〈巻き肉〉 ランク3


 何枚か束ねたホウの草を丸めて、さらに肉を巻いて結んだのを炒めた物。満腹度8%



 これらを塩とコショウと味噌で作ったのはいいが、フォックとスノーの満腹度が満タンになってもお代わりをし続けたのだ。

 ケイ達は沢山の猪のモンスターを狩っていたから、〈猪の肉〉は大量に持っていたが、材料は三分の一まで減って調味料は全て使い切ったのだ。




「うぅっ……、2000ゼニ分の調味料が……」

「まあまあ、サヨも美味しそうに沢山食べていたんだから」

「むぅ、そうですが……で、でも、一粒も残らないとは思いませんよ!?」

「ふむ、途中で止めても良かったが、こいつらには初めてのご飯だからな……」


 ケイの言うとおりで、満腹度が付いたことによって、モンスター達にも味覚ていうのが備わったのだ。だから、初めてのご飯というのは間違っていない。

 でも、まだ涙目のサヨが不憫だと思ったのか、ケイは特別に対価のお返しをしてやることに決めた。




「一応聞いてみるが、サヨのレベルはまだ低いよな?」

「え、レベル8ですが……、いきなりどうしたの?」

「なぁに、そのまま門まで帰すのは不憫だと思ったんで、少しレベル上げを手伝ってやるよ」


 その言葉が意外だったのか、目をまん丸にして驚いていた。




「え、いいの?私は心霊術師なのよ……。そう、マイナーな職業で、心霊術師と聞くと『何だそれ?』と言われるNo.1と輝く職業だよ?1人では余り戦えない職業なのよ……、私はなんでこれを選んだのだろう?私ったら、『心霊術師』を見ただけで、ピーンと来たから選んだなんて、周りの人に言ったら、電波系か?コイツは……とか言われるに決まっているぅぅぅ!!」

「長ぇし、側でブツブツとか言うな。ゴリラがこっちに向かって鼻に人参を刺して、ウホウホと鳴くぐらいに引くわ」

「ブツブツ…………、え、ゴリラがなんだって?」

「いや、聞いてないならいい。心霊術師って、聞いたことがないな……。死霊術師じゃなくて?」


 ケイが実際に体験したことを例に出したが、聞いていなかったので流すことにした。それに、心霊術師なんて聞いたことがない。




「まぁ、いいや。サヨが心霊術師だろうが、関係ないし。何が出来るかはモンスターが現れてからでいいし。どうする?レベルを上げたいか?」

「は、はい!お願いします!」


 サヨは職業のせいで、パーティに誘われることもなく、1人でレベル上げをしようと思っても多数のモンスターには相手出来ず、弱いモンスターとばかりだったのでレベルがあまり上がらない。


 だが、森の奥へ迷い込んだ時にケイと出会ったのは幸運だった。調味料は全てなくなってしまったが…………




「こっちからパーティ申請とフレンド申請しておくから、登録しておきな」

「は、はい!」


 パーティを組むことになっても、最後にトドメをさした人が経験値を得るシステムなので、最後のトドメはサヨにさせればいい。それまではケイ達が減らす戦いをすることに。ちなみに、従魔がモンスターを倒した場合は、倒した従魔と主人に経験値が配分される形になっている。

 また、例外もある。それは中ボスと大ボスだけは全員へ均等に配分されるのだ。


 経験値についての話はここまでにして、モンスターを探し始めると、ケイにとって馴染み深いワンドッグが3体も現れた。




「来たぞ。サヨは俺の後ろに隠れていろ。決して動くなよ?トドメは譲るから、それまでは絶対に動くな」

「り、了解です!」


 念押ししてから、ケイはフォックとスノーに突撃と指示を出して、さらに倒すなとも言っておいた。ケイ本人はサヨを守るように立っているだけ。




「あ、サヨは魔法とか使えるか?使えるなら使ってもいいが?」

「いえ、魔法は使えないのですが、【心霊術】が使えます」

「【心霊術】……?どんなのだ?遠距離攻撃は使えるなら、見せて欲しい」

「はい!まずはこの技です。【魔霊喰】!!」


 サヨが放った技は、骸骨の顔が人魂みたいな感じなのがワンドッグに向かっていく。そして、当たった。






「…………?何も起こらないな」


 体力バーは減っていないし、状態異常がかかったようには見えない。なら、なんの技かわからない。




「見た目では、わかりませんが……、この技は敵のMPを10%減らす技なんです。私のMP20も消費されますが、魔術師相手には効果的なんです!」

「それはそうだが、MPを使わない相手には使えないな。他に何がある?」

「あと一つありますが、触れる必要があるんです……【吸手】は相手に触れたらHPを10%減らし、減らした分の5%を私が回復します」

「それは……1人では厳しいな」


 サヨの職業は【心霊術師】であり、どう聞いても後衛タイプなので、触れる必要がある技は抑えてくれる仲間がいなければ、難しい。

 近付いて【吸手】を使っても、衝撃がないから怯ませることは無理だからすぐに反撃を貰う可能性がある。




「おっと、一体がこっちに来たか」

「あわわっ、大丈夫なの!?」

「黙ってろ」


 普通に倒すなら、3体でもこっちに来ることはないが、手加減をしてスノーが巻きついて捕縛する必要があるので、1体がこっちに向かってしまったわけだ。




「【爆泡】!」


 泡を撃ち出して、ワンドッグはバァン!と音を鳴らして身体を一回転させていた。その間にスノーが追いついて、動きを封じた。




「す、凄い。あっさりと……。え、ケイって、何処かで聞いたような……?」

「知って、近付いたわけじゃないんだな……。アナウンスで聞いたと思うが、忘れたか?」

「あぁっ!?ち、中ボスを単独討伐したあのケイィィィですか!?」

「そうだ、あのケイィィィだぞ?」

「ま、真似をしないで!?フレイムフォックとスノウバイトを使役するモンスターテイマーがいると聞いたことはありますが……。成る程、戦いを見れば、中ボスを倒したのも納得ですぅ……」

「まぁ、フォックはもうフレイムフォックではないけどな……、今は関係ないからいいか。3体共、体力が1割を切っているから、『吸手』なら一撃ずつで倒せるだろう」

「は、はい!」


 サヨはスノーに巻きつかれて動けないワンドッグの元へ近付いていく。1体ずつに【吸手】を使って、倒した。

 そして、格上のモンスターにトドメを刺したので、サヨのレベルは一気に10まで上がった。




「よし、次に行くぞ」

「はい!!」


 サヨはこの状態が寄生していて短い間のパーティだとしても、初めてパーティを組んだことに嬉しく思い、笑顔でケイについて行くのだった。








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