31.ネガティブの少女
フォック、スノーと共にモンスターを狩りまくっていたら、お腹からグーと鳴った。
「む?空腹感を感じるな……」
「ミュ!」
ケイはすぐに満腹度を確認したら半分になっていた。ログインしてから2時間は経っていないが、そこまで減っていたことに驚いた。
(まさか、何かをすると満腹度が減りやすくなるってわけか?)
フォックとスノーのも確認してみたが、両方とも五分の一しか減っていなかった。さすがにプレイヤーと同じぐらいの早さではなかったようだ。そうでなければ、ケイのサイフがカラッポになってしまう。
「まぁ、皆で食べるのもいいだろうな」
フィールドの真ん中だが、ここで料理をすることに決めた。料理している間はフォックとスノーが警戒しているので、安心して料理に集中出来る。スキルの覚醒石と交換する際に貰った〈料理道具セット〉をアイテムボックスから取り出す。
まだ中身を見ていない箱型になっている〈料理道具セット〉の中身はーーーー
まな板
包丁
フライパン
「……これだけ?あ、紙ぃ?」
箱から順番に取り出して行くが、料理道具は三種類しかなかった。せめて、調味料ぐらいは付けて欲しかったと思うケイだった。そして、全てを取り出したら、箱の底に紙が一枚置いてあることに気付いた。
「何々……『他の料理道具は雑貨屋か道具屋に売っています。調味料は専用の店にしかありませんが、木の実から作るのも可能になります……』ふむ、説明書があるだけは親切な方だろう。木の実って、何が作れたんだったっけ?」
アイテムボックスにある木の実を調べていく。材料はモンスターが肉を落とすこともあり、本体は問題ないが、味付けがないのは困る。味付けがない料理なんて、料理とは認めない。
味付けを上手くやることで、材料の味を引き出すのが料理のプロだとケイは考えている。
拾った木の実を次々と出して行くが、どれが調味料になるかわからない。説明文を見ても…………
〈チラの実〉
緑色の実で、毒はない。
といったように、他の実も少ない説明文しかないのだ。毒があるかないだけわかれば充分だろ?と運営が考えながら作ったのだろう…………
「くそ、それっぽいのを選ぶしかないか」
なんとなく、ブラックペーパーになりそうな黒い実を手に取る。それを包丁で切り裂いて、フライパンに乗せた後に気付いた。
「火がねぇじゃん…、まさか、専用の場所があるというのか?それか、外出用の道具を買わなければならんのか?」
どちらにしても、お金がかかりそうだなと思ったが、ケイにはフォックがいる。
「やれるだけ、やってみるか……。フォック、この枝木に弱い【獄炎】を使ってくれるか?」
「ミュ!」
任せて!と言うように返事を返してくれる。要領は【鬼火】と変わらなかったので、コントロールは問題なかった。人間の手より小さな火玉がゆっくりと木の枝へ向かっていく。
「よしよし、火が付いたか。しかし、十秒後に消えるとはないよな……?」
結果、【獄炎】そのモノは消えたが、燃え移った枝は燃え続いていたので無事に細かい切った木の実に火を通すことができた。だが、調味料にはならず、ただの〈焼けた実〉が出ただけ。
〈焼けた実〉 ランク1
砕いた木の実を焼いただけ。満腹度0.5%
説明文には満腹度0.5%は回復すると書いてあるが、少し食べてみると味はなくて美味しいとは言えない。
「駄目か、やっぱり買いに行くしかないか…………っ!?」
「ミュッ!」
「キシャー!!」
急にフォックとスノーがケイの後ろへ向かって吠えたかと思ったら、警戒を頼んでいたのを思い出した。
つまり、吠えている方向に感知が引っかかったということになる。鞭を持って振り向いて見たら…………
「わわわぁぁぁ、ご、ごめんなさいごめんなさい!!フレイムフォックスとスノウバイトが一緒にいるのが珍しくて……ごめんなさいごめんなさい!!」
後ろにいたのは、黒いフードを着た少女だった。その少女は謝っていてばかりでこっちは何もしてないのに、加害者にされた気分のようだ。
「プレイヤーか……」
頭の上には名前があったからプレイヤーだとすぐにわかった。1人だけだったので、警戒を少し弱めた。
もし、PKを狙う人だったとしても、1人だけならすぐに倒せるから脅威だと思っていない。それでも、1人だけで『暴獣の森』に入るにはまだ時間が必要だと思っていたが、目の前の少女はもうここまで来ているので、それ程の実力があると考えた。それとも…………
「一応、聞いておくけど……ここは『暴獣の森』だと知って、入ってきたのか?」
「え、えっ?『喰虫の森』じゃないの?」
「あー、わかった。お前は迷い込んで、『暴獣の森』に入った口だな」
気付いている人がいるかもしれないが、『喰虫の森』と『暴獣の森』は繋がっていると。目の前にいる少女は、西の森である『喰虫の森』から入ったが、北の方へ進んでしまったため、知らない内に『暴獣の森』へ入ってしまったようだ。
実力があるから『暴獣の森』に入ってきたかと思ったら、ただの迷い人だった。ケイの話から状況がわかったのか、少女は落ち込んでいた。
「そんな……、私だけじゃ街まで生き残れない!!た、助けてぇぇぇ!!」
「ヤダ」
一秒も考えることはなく、すぐに断った。食事が終わったらレベル上げを続けるのだから、門まで届けてあげる暇はない。
「なんで!?私が蛆虫みたいな子だから、助ける価値がないと思っているのですね!?ーーーーいえ、蛆虫ではなくて…………ミドリムシ、うん、ミドリムシだわ。どうせ、私はノミよりも位置が低いミドリムシですよ……。いやいや、ミドリムシも私と同等にしたらミドリムシが可哀想だわ。なら、私って、なんだろう……………………」
「そこまで思ってねぇよ、っていうか、お前のネガティブ思考は引くわ」
自分を貶めてばかりで、ケイも引くほどだった。ネガティブな少女……頭の上を見たら名前はサヨだったので、名前を呼んで意識をこっちに向けさせる。
「サヨ、サヨ、サヨサヨサヨサヨサヨサヨサヨサヨサヨサヨサヨサヨサヨ…………サヨうなら」
「ま、待ってください!!私を置いて行かないでぇぇぇぇぇ!!」
名前を何回も呼んだのに、こっちに振り向かずぼそぼそと呟いて自分を貶めることに忙しいのか、聞こえていなかった。だから、諦めてここから立ち去ろうとしたが、最後の言葉だけは聞こえていたようだ。
「それで、俺は断ったんだから死んで帰れば?っていうかウザいから爆発してシネ」
「ヒドイ!?鬼!!悪魔!!」
初対面の少女に対して酷い言い草だった。ケイは一応、初対面の少女に優しくすることは出来るが、何故かサヨには優しくしてやろうという気持ちが湧き上がらない。
本当に何故なんだろうんだね……、ウザかったからか?
(あ、これってチャンスじゃねぇか?)
目の前には黒いフードを着た少女、顔をよく見るとまあまあ可愛らしい顔をしている。何故、ネガティブ思考なのかわからないが、思い付いたことを行動へ移すことにした。
「おい、ネガティブ少女。お前は門まで戻りたいよな?」
「は、はい。私の実力では門まで辿り着く前にやられそうなので……、あと……」
「なんだ?ネガティブ少女」
「そのネガティブ少女はやめてもらえますか……?人から言われると落ち込みそうなので……。私のことはサヨと呼んでくれますか?」
「ふむ、俺はケイだ。こいつらはフォックとスノーだ。あと、言っておくがフォックやスノーに触るなよ?」
「え、なんで?」
「お前のレベルはどれくらいかわからないが、叩かれたら瀕死になりそうだからだ。瀕死の奴を守るのは面倒だからな。わかったか、迷子のサヨ」
「は、はい」
ケイが警告をする時、フォックとスノーが尻尾をパタパタと振っていたので、サヨからは『触る時は覚悟しとけ』と言われているような気がしたので、迷子のサヨと言う言葉に触れる暇もなく頷いたのだった。
「よし、門まで無事に送ってもらいたいなら…………」
ケイはビシッと指を指して、言った。
「対価を払え」




