27.進化素材
ここは現実の世界である。今は昼飯を食べてから仕事を続けていた。
訓練所でのことはどうなったのかは…………
さっきまで訓練所で『賭決闘』をしていたが、戦いが終わって観客席を見ると数が増えているのがわかった。
始めからいた観客が仲間に連絡とかしたから増えたと思うが、ケイにとっては面倒なことが起こりそうだなーと思った。
予想通りだった。
「凄いな!!どうやってテイムを成功したんだ!?」「キャーキャー!可愛い!!フレイムフォックスに触っていい!?」「パーティに入らないか!?」等ーーーー
訓練所に戻った瞬間に色々な人から話しかけられた。ケイは相手をするのも面倒だと思ったし、フォックも触ってくる女性に威嚇をして次々と触ってくる手を払い落としていた。
ウザいと思ったので、お金が入ったのを確認してから、リンダとアルテミスには巻き込んだことを謝った。さらに、ガイルには「後は任せた!」と言い残してここから抜け出した。
後ろから「ふざけんな!?」とか聞こえたが、空耳だろうと無視して宿に逃げ込んだ。
そして、今に至るのだ。
今はケイのことで噂になっているのは予測出来るので、夜まで現実で仕事をやることに決めた。
(さぁて、どんな絵を描こうかな~?)
妄想を膨らませながら、デジタルのペンタブに書いていく。
ーーーーーーーーーーーーーーー
夜八時、仕事だけではなく家事も全てを終わらせてからヘッドギアを被る。
「フォック、現れろ~【召喚】!」
「ミュッ!」
フォックが魔法陣から現れ、炎石のことをリンダから聞こうと思ったのを思い出し、フレンドリストを開く。そこで、メールが一通来ていることに気付いた。ガイルからだった。そのメールにはーーーー
『覚えていやがれっ!!』
と一言だけが書かれていた。ケイはそーっと削除のボタンを押して、見なかったことにした。
「ミュッ?」
「ああ、大丈夫だよ。いつものことだから」
前のゲームでも、対応が面倒だった時はいつもガイルに丸投げをしていた。ガイルはこれでも対応が上手いから、ガイルが対応した時は大体丸く収まるのだ。
だから、ケイはガイルを信じて丸投げをしているのだ。面倒事を押し付けられるガイルにとってはまたか!?それぐらいは自分でなんとかしろ!!と言いたい気分である。
「んー、おっ、オンライン中であれば、ボイスチャットが出来るんだ?」
ケイが目についたのは、メールの下にあるボイスチャットで、話したいフレンドがオンラインであれば、電話みたいに話すことができて、チャットのログが現れる。すぐに情報を共有したい時は役に立つ機能である。
それを使ってーーーー
ケイ『こんばんはー。今は大丈夫か?』
リンダ『大丈夫よ。戻って来たのね』
ケイ『おう、聞きたいけど、雑貨屋では素材を売っている?』
リンダ『素材?売っているわよ。何が欲しいの?』
ケイ『炎石を二つだけど……』
リンダ『あら、β時代のが何個か残っているけど、普通は第二ステージにある物だから、今は高いわよ?ここで買わないで大ボスを倒してから手に入れることも出来るけど、どうする?』
ケイ『そうだな……、一個でいくらか教えてくれるか?』
リンダ『そうね、一個でなら5000ゼニってとこね』
ケイ『確かに高いが……、買えない程でもないな』
リンダ『買うの?なら、店に来ていらっしゃいな。私は店にいるから』
ボイスチャットを終わらせ、すぐに店へ向かう。所持金は賭決闘のお陰で、15000ゼニは増えているから炎石ぐらいは買える。
周りからこっちを見る視線があったが、話し掛けては来ない。おそらく、ガイルの奴が何か言ったのだろう。何か怯えているような目をしている人もいたので、ガイルは何を言ったんだろうな……、聞きたいような聞きたくないような……
とりあえず、ガイルに会ったらドロップキックをぶち込んでやろうと決めた。
「お、来たか」
「ブツの奴を頼む」
「何で、そんな言い方なのよ……?そっちの方が良いならあるけど?」
「すまん、ふざけすぎた……って、あんのかよ!?」
「ほれ、これがそうだ」
そう言って、渡されたのはーーーー
〈危ない粉〉
「麻○取締法違反ーーーー!!」
「まぁ、落ち着け。それは真っ当な粉だよ。内容を見てみな」
「名前だけでもアウトだと思うんだが……」
言われた通りに内容を見てみた。そしたら、こんなのが出た。
〈危ない粉〉
敵にぶつけたら【混乱】状態にする。
真っ当な粉でした。混乱させる粉なんて真っ当とは言えるかわからんが、モンスター相手に使う物だからギリギリセーフだろう。
(なんか、ゲームでよく出る混乱させる薬、あれは麻薬その物みたいよな……)
そんなことはどうでもいいとして、用事を早く終わらせようと思う。
「まぁ、冗談はもう終わりとして、炎石を2個買いたいんだけど?」
「何に使うかを聞くのは野暮か。次のフィールドへ行けば、手に入るのに何を急いでいるんだか」
次のフィールドで手に入るなら、わざわざ高い物を買わなくてもいいと思うが、ケイにとっては早いほうがいいのだから。
今のフォックはレベルがMAXになっているから、このまま進化させないと経験値を無駄にしてしまう。だから、炎石を手に入れたら次はフォックの仲間であるフレイムフォックスを狩りに行くつもりだ。〈狐の尾〉なんて、フレイムフォックスがドロップするしか思いつかない。
フレイムフォックスを進化させるために、フレイムフォックスを倒させるなんて嫌なことを考える運営だなと思うのだった。ちなみに、テイムしたらドロップ品は出ないので、もう一回フレイムフォックスと戦わなければならない。
もし、フォックが元仲間であるフレイムフォックスと戦いたくないなら、スノーだけに戦わせる手もある。フォックが嫌だと言うなら、戦わなければいいと思うが、どうしても必要だから仕方が無いと割り切る。
「はい、2個の〈炎石〉。特別に9000ゼニまでに割引してあげるわ」
「お、いいのか?」
なんと、割引をしてくれたので甘えることにした。〈炎石〉を貰い、アイテムボックスに入れた後にリンダから話があった。
「そういえば、明日にアップデートがあるとHPで見たけど、知っているよね?」
「む、知らないぞ。掲示板だけではなく、HPも見ないからな」
「……威張って言うことではないけどね……」
疲れたような顔をするリンダ。しかし、明日と言えば、まだ三日目なのに、もうアップデート?
「何か追加されるかはアップデートが終わった後に知らされるから、今はわからないよね」
「普通は事前に知らせる物だろうが……、追加されるだけなら時間はそんなにかからないだろう」
「そうね、明日の朝6時から昼12時までだったはず」
六時間だけなら、その間は仕事に当てればいいので、ケイはそんなに困ることでもない。
「そうか、教えてくれてありがとうな」
「いいわよ。また来てね」
店から離れて、すぐに『暴獣の森』へ向かった。スキル屋にも行きたかったが、アップデートが始まる前に〈狐の尾〉を手に入れておきたい。もし、アップデートしてモンスターが現れる出現地が変わったら面倒である。そんなことはあまりないが、自由過ぎる運営相手には常識が通じないと考えたほうが良い。
(テイムの成功率といい、強制イベントでアナウンスなしとか運営の奴らはゲームの名に乗り掛かって、夢一杯のゲームで先が読めないような作りになっているな……)
他に、β時代のと違って中ボスを四体倒さなければ大ボスと戦えないとかも、設定を大幅に作り変えられているからそう簡単に先へ進めないだろうと警戒するケイ。
とにかく、今はフレイムフォックスを探して目的の物を手に入れるために森の奥へ進んでいく…………




