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25.喧騒

 


 中ボスを倒したケイは、街へ戻っていく途中だったが…………




「え、ガー坊と……リンダ?」

「来たな」

「あ!ようやく来た!!」


 門で待ち構えていたのは、友人のガイルとリンダだった。何故、2人が一緒に門で?と疑問が浮かんだ。




「ん?なんで俺らが一緒で門に?って顔だな」

「間違ってはいないが……」

「簡単なことよ。アナウンスを聞いて、すぐ『喰虫の森』に近い門へ向かったわけよ」

「この女と同じ考えだったわけさ」

「あぁ、成る程……」


 何故、ここにいるのかわかった所で次の質問をした。




「それで、何か?」

「決まっているじゃない!!ケイが中ボスを単独討伐をしたとアナウンスから聞いた時はジュースを吹き出したわよ!?」

「俺も仲間と模擬訓練をしていたら、アナウンスを聞いた瞬間に木刀を頭にぶち込まれたわ!!」

「あれ?ガー坊のは、俺のせいじゃないじゃん」

「そうね、ハゲの注意散漫よ」

「誰がハゲだ!?」


 ギロリッとリンダを睨むが、リンダは怯えもなく、無視していた。




「あれ、知り合いだったのか?」

「違うわよ。誰かを待っているなーと思っていたけど、まさか同じ人物を待っていたとは思わなかったわ」

「おう。それよりも、どうやって単独討伐をしたんだ?フレイムフォックスだけでは勝てないだろうし……」

「まぁまぁ、ちゃんと話してやるから街の中へ入らせろよ」


 ここはまだフィールドの中なので、門の近くといえ、モンスターが出てこないとは言えないのだ。

 ケイの言う通りなので、2人も一緒にアルテミスの店へ向かう。〈毒棘の鞭〉の耐久力が半分ぐらいも減っていたので、回復してもらうのだ。




「さぁ、説明してもらうぜ!!」

「うっさい。声が大きすぎ」

「まぁ、待てよ。こっちの用事が先だ」


 そろそろアルテミスの店に着くので、先に武器を預けてから話をすることに。




「おーい、アルテミスはいるかー?」

「はーい、待ってください」


 少しだけ待つと、トテトテとこっちへ向かってくる音が聞こえる。さっき鍛治を終わらせたアルテミスが現れた。




「いらっしゃいませ……ケイちゃん!?さ、さっきのアナウンスを聞きましたよ!!凄い人だったんだね!?」

「あのお嬢ちゃんの方が、声が大きいじゃねぇか?」

「アホハゲ。可愛いから許すのよ!!」

「差別だよ!?こいつと仲良く出来る自信がないな……」

「私も無理ね。何故かわからないけど、煩いから無理。それでいいや」

「適当過ぎんだろ!?」


 何故か、この二人は会ったばかりだと聞いたのに喧嘩ばかり。気が合わないという理由だけで済まないぐらいだった。

 だが、ケイは無視してアルテミスに鞭を渡す。




「これの鞭、耐久力を回復させてくれ」

「あ、はい!あの……、止めないのですか?」

「面倒」


 バッサリと答える。アルテミスは何とも言えない表情になっていたが、とりあえず仕事をしてくれるようだ。




「あ、そんなことをしている場合じゃないわ!ねぇ、どうやって勝ったの?」

「俺も気になるな」


 先ほどの話で、どうやって勝ったのかは、二体目の従魔であるスノーがいたからだと話した。

【金龍の加護】のことは話していない。もし、他の人に知られたら面倒なことになるのはわかるからだ。従魔のステータスを二倍にすることが出来たなら、パーティの仲間に有効だと言うこと。


 10000ゼニでパーティの最大数である六人分を二倍強化出来るなら、必ずパーティに引き入れようとするだろう。しかも、仲間としてではなく、ケイのことをブーストアイテムとして扱うだろう。

 ケイ本人だけだったら、他の者よりステータスが低くて戦闘に参加しようとしても足手纏いにしかならない。だったら、他の者はそう言うだろう。




 アイテムは動くな。それかずっと逃げ回っていろと…………




 本人を前に言う人がいるか疑問だが、それに近い状態で抑え込まれて、楽しめない。

 だから、自分からこのことを話さないと決めたのだ。




「フォックとスノーのお陰で勝ったわけだ」

「ふーん、他に何かありそうな予感がしたけど、気のせいだったわね」

「まさか、フレイムフォックスに続いて二体目をテイムしたのか……」


 ガイルには加護の内容を見せたことがあるが、ガイルが勝手に加護のことを話さないとケイは思っている。とにかく、ケイはガイルのことを信頼しているわけだ。




「なぁ、今見せてもらうのは無理なのかな?」

「アホか、街の中で出したら大騒ぎになんぞ」

「そうだよな……」


 ガイルがスノーを見たいと言ってきたが、断った。外に出たら一目は見せても良いかな?と考えていた時にーーーー




「あぁん?お前ぇら!!アルテミスちゃんの店前で何を駄弁ってんだよ?ここから消えろ」

「何だ、お前らは?」


 強面のガイルがギロリと絡んで来た男達を睨んでいた。それに少し怯んだが、それは一瞬だけだった。




「ここはアルテミスちゃんの店だと知ってんのか?知っているなら店の側で駄弁ってねぇで、どっかに行け!店の営業で邪魔になるんだろうが!!」

「なぁ、リンダ。こいつらは何を言っているんだ?」


 ケイはリンダとモゾモゾと小さな声で会話をする。




「別に店の入口を塞いでいるわけじゃないんだけどね……。あー、あれだわ。アルテミスちゃんは人気があるからね」

「あー」


 つまり、こいつらはアルテミスのファンで自分達のことをアルテミスの店の前で待ち伏せしている他のファンだと勘違いしたかもしれない。その誤解を解いてやろうと思った先に、アルテミスが現れた。大きな声を聞き取ったかもしれない。




「何をしているのですか!!」

「あ、アルテミスちゃん……、こいつらが店の前で待ち構えていたもんで……。店の妨害にならないようにどっかに行ってもらおうと思って……」

「そ、そうだぜ!!」

「何を言っているのですか?こちらは私が待たせていた客なのよ。大きな声で騒がれたら、そっちの方が営業妨害なんですよ!」


 アルテミスは数人の男達に向けて怖気ることもなく、怒鳴っている。アルテミスは大人しい性格だが、商売のことでトラブルになると、今のように前へ出て行くことが多い。あとでリンダから教えてもらったことだが、β時代の頃からそうだったらしい。




「ねぇ、そんな男達はどうでもいいから、ケイに鞭を渡してあげたら?」

「あ、待たせてすいません!ケイちゃん、耐久力を回復させました!」


 リンダがアルテミスを呼び止めた。アルテミスはいそいそとアイテムボックスから鞭を出してケイに渡した。それを見た男達がどよめく。




「はぁ?ただの修復をアルテミスちゃんに任せてんのか!!他の鍛治師の奴らに任せればいいんだ!!何故、高等鍛治師のアルテミスちゃんに任せる!?」

「は?高等鍛治師って?」

「あー、元βテスタの奴らだったのか。アルテミスはβ時代では三本の指に入るほどの有名な鍛治師だったの。その人に修復をやらされていることに気に食わないみたいねー」


 客を選ぶと聞いたが、アルテミスはそんなに凄い人だとケイは自覚していなかった。だが、ケイは他の知り合いに鍛治師はいないのだから仕方がなくねぇ?と思うのだった。




「あー、成る程。お前達はアルテミスの店を潰したいんだな!!」

「はぁっ!?なんでそんな話になるんだよ!!」


 ケイが変な事を言い出して、男達は即座に否定する。ケイはある策を思い付いたので、すぐに実行した。




「わからないの?営業には、客が必要なんだよ。それをお前達が邪魔をしたら鍛治の腕が上がらず、武器があっても客がいなければ店も続かない。……あ、お前達はアルテミスに武器を作って貰えなくて、ひがんだ奴らだったとか?」

「ーーということだけど、アルテミスはどう思う?」

「本当に……?どうなのか貴方達に説明してもらうよ?」


 ケイの話を聞いて、アルテミスは敵意のような瞳を男達に向けていた。




「ま、待て!俺達はそういうつもりじゃない!!」

「そうだ!ガキが、間違った解釈をすんじゃねぇ!!」

「あぁん?だったら、どうしてこんなことをするのか説明しやがれ!!」


 ギロリとガイルが睨みを利かせる。


 男達は本当にアルテミスのファンであり、武器を作って貰えていないが、それでもアルテミスのことを見守ろうと決めていた。だが、そんなことをアルテミスの前で言えるわけがない。

 そのようにケイが流れを作ったのだから、理由を話すしかなくなるのだが…………




「お、お前!変な事を言うんじゃねぇ!!」

「何を?俺はただ可能性を話しただけだぞ。何らかの理由があるならそれを話すだけでいいんだろ?」

「それは……」


 もちろん、言えない。悪い意味ではなく、ただ恥ずかしいから言えないのだ。だが、その態度がアルテミスの疑いが深くなってしまう。

 もし本当のことを言っても、アルテミスに引かれるだけで状況は好転しない。


 そこで小さくニヤッと口を歪めるケイ。それを見たのはガイルだけで、そのガイルは「ゲッ、裏ケイが出るのか?」とケイから少し距離を取っていた。




「まぁ、そんなことをするわけがないか!!」


 二パッと輝くような笑顔で、自分が言っていたことを否定する。そのケイにガイル以外はポカーンと固まっていた。




「え、ケイちゃん?」

「このままだったら、アルテミス……だけではなく、全ての鍛治師達を敵に回す可能性があるだけで、こいつらには得がない。生産者は横に広いと聞いたことがあるから、悪い噂が流れるのは勘弁して欲しい。そうだよね?」

「っ!!そ、そうだぜ!!」

「ああ、当たり前だ!!」


 ケイはここで男達を助けるようなことを言う。助けられた男達は何のつもりだ?と思いながらも、頷く。




「どんな理由があるかわからないけど、この件はアルテミスに対することではなく、俺達にあるみたいだから、この件は俺に任せて貰っていいかな?」

「うーん、店に被害があったわけでもないからいいけど、もうそんなことはしないでよ?」

「は、はい!」

「もうしません!!」


 そう言って、男達はここから去ろうとしたが、ケイはそれを許さない。




「待てよ、俺達とは終わってないだろ?」

「……まだ何かあるのか」


 訝しむ男達だが、助けて貰ったのもあり、強く出れない。




「ねぇ、この件は俺に任せていいかな?」

「私は任せてもいいけど……」

「何か変なことを思い付いたのかよ?」

「嫌だな、変なことをやるわけがないだろ?酷いなぁ、純粋な少年を捕まえて何を言うんだろうな。ガー坊は」


 呆れるケイにガイルは顔をピクピクするが、さらにこの場を混乱させると思い、我慢した。男達もケイの異様さに気付いたみたいで、警戒していた。

 だが、ケイはそれを嘲笑うように笑顔で一つの提案を出した。






「ねぇ、俺と『賭決闘』をやらないか?」





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