Ⅱ - Ⅰ
「へぇー、凄い。てか、ロスの知り合いって、こういうの得意なんだ」
出掛け先から帰宅したシャルムは、優からIDカードのことを聞くと自分のカードを目の前に掲げながら呟いた。
銃の手入れを終え、満足気にそれを仕舞った優は階段を登った先にあるロスの部屋へチラリと視線を送った。
「あの子、さっさと部屋に戻っちゃったからわからないのよね。でもこれ、ちゃんと使えるのかな? 別にその知り合いを疑う訳じゃないけど……」
「あ、それじゃあ俺が試しに行ってきてみるよ。ちょうどロストタウンに用事があるんだ」
「えぇ!? でも、危なくない? 見つかったら捕まるよ?」
心配する優を他所に、シャルムは笑みを浮かべると大丈夫だよと口にする。カードを手にドアを開けると振り返った。
「じゃ、行ってくるよ」
「もう……ちゃんと帰ってきてよね。いってらっしゃい」
どうせ止めても行くであろうシャルムに、優は呆れたようにため息をついた。腰に手を当て彼を見送る。
パタンと閉まったドアを見つめ、椅子に座る。傍に寄ってきたニトの頭を撫で、優は苦笑いを浮かべた。
「まったく、どうして男はああなのかねぇ」
『きゅるるぅ?』
不思議そうに首を撚る小さなドラゴンを撫でながら、優はテーブルの上の鍋を見つめる。今日の夕飯は1人かな、などと考えながらもう一度ため息をつくのだった。
「それにしても、本当に入れるなんて」
問題なくゲートを潜ることに成功したシャルムは、用事を済ませ公園で一息ついていた。
高台になっている場所にあるこの公園からは、ロストタウンを見渡すことができる。シャルムは、離れた場所にそびえ立つロストタウンとクロスタウンを仕切る壁へ視線を向けた。
「たった壁1枚なのにな……」
その壁1枚で、何もかも変わる。シャルムはそんな世の中が嫌いだった。
女王によって支配された世界。種族によって格付けされた世界。国王が生きていた頃は、こんな世界じゃなかったのだという。それも、今や文献の中での歴史に過ぎない。
「……そんなもの見てて、楽しい?」
突如背後から声をかけられ、シャルムはビクリと肩を揺らした。早鐘を打つ鼓動を抑えようと深呼吸をし、ゆっくりと振り返る。
彼の視線の先には、茶色のローブに身を包んだ子供が佇んでいた。深く被られたフードのせいで顔は見えない。
そのローブの右胸の部分に、シャルムは見覚えのあるものを見つける。
白い翼のエンブレム。噂だけなら、彼も聞いたことがあった。機構上層部と繋がっている殺し屋組織――。
「エンジェル……」
シャルムはぽつりと脳裏に浮かんだ組織名を口にした。それを聞いてなのか否か、その子供が風に揺れるフードを外す。長い黒髪が風に舞った。
「お兄さん、本当に悪い人なの?」
シャルムを真っ直ぐに見つめる銀の瞳。思わずその瞳に見入ってしまい、シャルムはすぐに答えることができなかった。