IV - IV
「お伺いしたいことがあります」
兄妹に歩み寄った墓守は、2人の顔を見上げ口を開いた。兄の方は自分より小さな墓守を不思議そうに見つめ、妹は彼の頭上の獣耳に目を輝かせている。
「先程仰った“化け物”とは、どのような出で立ちで?」
墓守の質問に2人は顔を見合わせた。少し間を置いて、イアンが口を開く。
「あんなの、見たことないよ……。まるで――」
そこまで言いかけたところで、イアンの言葉は突然開いた扉の音に遮られる。
「墓守!!」
「……ニト、ドアを開ける時はもう少し静かに……」
「ドラゴンだ!!」
ニトの言葉に墓守の耳がピンと立つ。
「ドラゴンが……」
「く……っ……効かない……!」
弾を撃ち込んでいた優は、全く効いていない攻撃に悔しげに歯噛みした。攻撃を受けていた龍は涼しげな顔で尾を横払いする。
「龍に通常の攻撃は効きませんよ」
優の背後から声をかけたのは墓守だ。隣にはニトもいる。
墓守は目の前に佇む龍を見つめる。巨大な白銀の体。そして同色の翼が計4枚。彼は、この龍を知っていた。
「まさか……」
「……墓守……?」
龍を見つめたまま動きを止めてしまった墓守に、優が怪訝そうに眉根を寄せる。それに気がついてか否か、墓守ははっと我に返り首を左右に振った。
そして懐へ手を入れると、小さな笛を取り出し口元へと運ぶ。
「墓守、それ……」
墓守が取り出した笛を目にしたニトの表情が強張る。
「龍を大人しくさせるには、これしかありませんから。ニト、お前は耳を塞いでいなさい。この音の効果があるのは、龍だけではなく“魔”の力を持つもの全員ですから」
ニトが慌てて耳を塞いだのを確認した墓守は、口元に当てていた笛を吹いた。辺りを静寂が包み込む。
側に立っていた優とアンヘルは互いに顔を見合わせ、首を傾げた。
「音がしない笛……?」
墓守の吹いた笛からは何の音もしなかった。ーーいや、正確に言えば魔の力を持たない2人には聴こえなかったのだ。
少し離れた場所に立っていたニトが顔を歪ませる。魔族である彼には、この笛の音は毒のようなものだった。
目の前の龍が硬直し倒れたのを確認した墓守は、未だに不思議そうな顔をしている優とアンヘルへと顔を向ける。
「この笛は、私達に代々伝わる笛なんです。元々、龍を大人しくさせるための笛なのですが、どうやら魔族の血を引く者にも効果はあるようです。不快な音をならし、力を奪い取る笛」
2人は墓守の手の中にある笛をまじまじと見つめた。
木で出来た細長い笛。一見、普通の笛にしか見えない。
「これが……黒の笛」
「おや、よくご存知ですね」
「見るのは初めてだけど、本で読んだことがあるわ。確かーー」
「墓守!!」
優の言葉は、突如響いてきたニトの叫び声に遮られる。
ニトは顔を強張らせ、震える手で目の前を指さした。3人の視線がその指が示す方へと向く。
「うそ……まさか……そんな……」




