IV - Ⅲ
【ロストタウン 万事屋“ソール”】
「あの……ただいま」
遠慮がちにドアを開けたアンヘルは、ドアの隙間から顔を覗かせ室内に声を掛けた。
しばらくするとドアの開く音がし、いつも結ってある髪を解いたままの優が階段を降りてくる。アンヘルの目の前まで来ると、彼女の表情が怪訝そうに歪んだ。
「アンヘル……あなた、1人なの?」
「あ……その……」
どうしたものかと視線を泳がせたアンヘルは、助けを求めるように後ろへと目を向けた。それを追うように、優もまた視線を彼女の後ろへと向ける。
優と目が合ったニトはビクリと肩を跳ねさせると、隠れるように墓守の背後に回った。最も、彼より小さい墓守の後ろでは隠れられはしないのだが。
助けを求めるかのような視線と訝しむ視線を受けた墓守は、頭上の耳を揺らしため息をついた。
「はじめまして。墓守と申します。早速で悪いのですが、事情は私からお話しします」
「あ……はい、わかりました。その、立ち話も何ですし、中へどうぞ」
「……と、いうことです。故に、このような形で押し掛けてしまいました。申し訳ありません」
ロビーらしき場所にあるテーブルで話を聞いていた優は、眉間のシワを更に深くした。
「ロスだけじゃなく、エレティックまで……」
「朝、起きたらいなくなってて……ごめんなさい……」
「あら、アンヘルは何も悪くないわ」
項垂れるアンヘルの頭を撫でた優は、小さく首を振り微笑んでみせた。それを見たアンヘルは、安心したように表情を緩めた。
「墓守さんと……えっと、ごめんなさい。あなたの名前を教えてくれるかな?」
墓守の隣に座り、大人しく話を聞いていたニトへ視線を向けた優はなるべく穏やかに声を掛けた。先ほどから、目が合う度に怯えたような反応をする彼を怖がらせない為の配慮らしい。
問われたニトはというと、口をパクパクとさせ視線を泳がせた。1度ズボンを握り締めると、顔を上げ意を決したように口を開く。
「あ、の……に、ニト……です……」
「ニト? あの子と同じ名前なのね……。ニトは、ロスのお友達?」
優からの問い掛けに、ニトはコクコクと頷いた。そうなのね、とどこか嬉しそうな表情を浮かべる彼女にニトもはにかむように笑う。
一通り話を聞いていた墓守は咳払いを1つし、優へ視線を向けた。
「それで、これからのことなのですが――」
何かを言いかけた墓守の言葉を遮るように、勢いよくドアが開いた。全員の視線が開いたドアへと向く。
ドアを開けたのは、2人の幼い兄妹だった。
「ゆ、優ちゃんっ大変なの!」
「ナディにイアンじゃない。一体どうしたの?」
「そ、外に……化け物が! 町のみんなを襲ってるんだ!」
息を切らしながら血相を変えている2人の言葉に、優は息を呑む。
カウンターに置いてあるホルダーを身につけ銃を持つと、兄妹に「ここにいなさい」と残し外へ飛び出して行った。それを追い、アンヘルもまた外へと向かう。残された墓守とニトは顔を見合わせ、2人の兄妹へと目を遣った。
兄、イアンの服を掴む妹ナディは今にも泣き出しそうな顔をしている。
それを見たニトはいてもたってもいられなくなったのか、立ち上がりドアへと駆け寄っていく。そのまま外に飛び出していった彼の背中を見送った墓守は、子供の相手は苦手なのにと呟き深いため息をつくのだった。




