IV-Ⅱ
【機構内上層部ゲストルーム】
「本当に、役に立たない部下ですねぇ」
「も、申し訳ございません……」
窓の外を眺めながらほうと息を吐くスティアに、項垂れるペディア。
くるりと踵を返し、ベッドの上で眠る少年の頬を撫でるとスティアはパンッと手を鳴らした。そして目を細め微笑む。
「貴女だけでは心許ないので、特別に協力者を呼んでおきましたよ」
スティアの右手が部屋の奥を示す。それに倣うように、ペディアの視線が部屋の奥へと向けられた。
そこには、漆黒の給仕服に身を包んだ赤髪の女性が立っていた。燃え盛る炎の様な瞳が、ペディアへと向けられる。
「ご紹介しますわね? 彼女は第一部隊の副隊長、ライズ・アルパガス」
「だ、第一部隊……!?」
第一部隊――別称、女王の親衛隊。しかもその副隊長と言えば、女王の右腕と呼ばれている人物。
何故、そんな人が協力を――。
「さて、私は職務がありますのでこの辺で。ペディア、次はありませんからね」
扉を開け部屋を出て行くスティアに頭を下げ、ペディアはライズへと視線を戻した。彼女の無機質な瞳と目が合い、思わず顔ごと逸らす。
「ペディア殿、噂は常々伺っております。なんでも、とても優秀な調薬の腕をお持ちだと」
「……お褒めにあずかり光栄ですわ。しかし、親衛隊の副隊長様の足元にも及びませんよ」
言葉を発してから、はっと口元を押さえる。
こんな言い方、まるで子供だ――。
「副隊長などと言っても、大したことはございません。これからよろしくお願いいたします、ペディア殿」
「……こちらこそ、よろしくお願いいたします」
差し出された手を握り返しなるべく平然を装うペディア。そんな彼女を余所に、ライズは無表情のまま。
手を離すタイミングがわからなくなってしまったペディアは、その後しばらく彼女の手を握っているのだった。




