IV-Ⅰ
翌朝、ニトは窓から差し込む日差しで目を覚ました。ロスの様子を見ながら眠ってしまったらしく、痛む体に顔を顰めベッドへと目を向け息を呑んだ。
開け放たれた窓。空っぽのベッド。
そして、白いシーツに残された――小さな血痕。
バタバタという音に、日課である掃除をしていた墓守は顔を上げた。血相を変え部屋へと飛び込んできたニトを見て眉を潜める。
「何事ですかニト。お二人共まだ寝ていらっしゃるのですからもう少し静かになさい」
「ご、ごめんなさ……でも、ロスが……ロスが……!」
ニトの言葉に床を拭いていた墓守の手が止まる。
思案するように口元に手を当てた墓守は階段へと視線を向けた。
「そのようなところで聞き耳を立てていないでこちらへ来たらいかがです?」
階段で隠れるように座っていたアンヘルは、目を丸くし墓守を見つめる。殺し屋として働いていた彼女は、気配を殺すのが得意だ。それをいとも簡単に見抜かれた。
「ロスさん、どうかしたの?」
アンヘルはニトへと視線を向け問いかける。対するニトは視線から逃れるように目を逸らした。
「ロスが……いなくなった」
「え……?」
今度は二人同時に墓守へと視線を移す。ずっと考え込んでいた墓守は困りましたね、とため息をついた。
「訪ねて来た者はいません。なのでお2人は自ら此処を出ていかれたのか、もしくは……何者かに攫われたのか」
「え、ちょっと待って……二人って、どういうこと?」
「あの、ね……」
戸惑ったようなニトの声に、アンヘルが口を開く。
スカートをぎゅっと握り締める彼女に、ニトは怪訝そうに眉を潜めた。
「実は、エレティックさんもいないの……」
「ロスの、お兄さんが……?」
アンヘルはこくんと頷いた。
目を覚ました時にはもう、彼の姿は無かったのだという。
墓守はどうしたものかと考え腕を組んだ。ここにいるのは子供二人と、そして小さく力もないカーバンクルだけ。これでは何もしようがない。
「あのぉ〜」
どこからともなく響いてきた声に、二人は辺りを見回す。ここですよーという声に、墓守の肩へ視線を留める。
小さな妖精が、墓守の肩に乗っていた。半透明の羽が光を反射しキラキラと輝く。
「此処にいらっしゃっても仕方ありませんし、アンヘル様がいる所へ行ってみてはどうでしょうかー? 安心してください、お師匠様の仕事はこのリッカにおまかせを!」
得意気に胸を張るリッカに墓守は悩んだ末、驚きで固まっているアンヘルを見た。はっと我に返ったアンヘルがその視線に気付き首を傾げる。
「だ、そうですが……宜しいですか、お邪魔してしまっても」
「え、あ……わたしに聞くの?」
「エレティック様もロス様もいない今、その場所を知っているのも許可をくださるのもあなたしかいませんからね。……それで、いかがでしょうかアンヘル様」
腕を組みうーんと唸っていたアンヘルは、顔を上げ頷いた。
確かに、戻ってみんなの力を借りた方がいい――。
「うん、行こう。ソールに」




