Ⅲ - Ⅴ
叩きつけるように振り続ける雨に、3人は足止めされていた。結局、元の屋敷に戻りロビーで火を焚き体を温めることになった。
「雨、止まないねー」
入り口に立つアンヘルが、一向に止む気配を見せない雨を眺めながら焚き火の側にいる三人の方を振り返る。彼女に適当に返事をし、エレティックは少年とロスを見遣った。
相変わらずロスの傍を離れない少年。そんな彼の顔を覗き込むように、アンヘルが傍に腰を下ろした。あからさまに少年が後退る。
「そういえば、まだお兄さんの名前聞いてなかった」
「僕の、名前……?」
じっと見つめてくるアンヘルの視線に気まずくなったのか、少年はふいと顔を逸らした。
ロスの傍を飛び回っていたドラゴンが少年の膝の上に降りる。その頭を撫で、少年は再びアンヘルへと目を向けた。
「……ニト」
「え? ニトがどうしたの?」
不思議そうに首を傾げるアンヘル。ドラゴンも、自分が呼ばれたのかと膝の上から彼を見上げ、不思議そうに首を傾げた。
二人の視線を受け、少年は居心地悪そうに身動ぎ視線を泳がせる。
「あ、いや……その……ニト、のことじゃなくて……」
言いにくそうに言葉を濁す彼に、二人は顔を見合わせ不思議そうな顔をする。
「その……僕の名前も……ニト、なんだ」
遠慮がちに告げられた言葉。暫くその場に沈黙が流れた。
「……すっごい偶然だね! ニトも、ニトさんもおんなじ名前だなんて!」
沈黙を破ったのはアンヘルだった。目をキラキラさせながら、少年――改めニトの方へ身を乗り出す。興奮気味のアンヘルの手元でドラゴンもまた、鳴き声を発す。
「君の…名前も、ロスがつけてくれたのかい?」
ドラゴンの頭を撫でながら、ニトは口元に微かな笑みを浮かべる。当のドラゴンは首を傾げるだけだ。
「ニトさんも――」
口を開いたアンヘルは突然黙り込み窓の方を睨みつける。
アンヘルは勘が鋭い。中でも人の気配には特に敏感だ。
「……誰か来たのか」
エレティックの問いに頷くアンヘル。目を閉じて意識を外へと集中させる。
「……多分、1人。まっすぐ、こっちに向かってきてる」
彼女の言葉に二人も身構える。
暫くすると、小さな足音を立てながら一人の人物が入り口に立った。中にいる四人を見て、大き目の双眸を丸める。
「おや、珍しい。このような場所で人間に会うなんて」
小さな身体に似合わないような大きな袋を担いだその半獣は、頭上の耳を揺らしながら首を捻る。
途端、今まで大人しく座っていたニトが駆け出し入り口に立つ彼へと抱き着いた。突然の行動にその場にいた全員が驚きに固まる。
「墓守っ……!」
「……ニト?」




