Ⅲ-Ⅳ
ロスを庇うように片手を広げ、金髪の少年は二人を見つめる。だが、目が合うとその紅の双眸をふいと逸してしまった。
アンヘルが一歩歩み寄ると、少年はビクリと肩を震わせる。
「わたし達、ロスさんを助けにきたの。ロスさん返して」
「そ、それが本当だって証明出来るの……? そうやって、ロスのこと連れてって……また、酷いことするんでしょ……」
ロスの手を握りながら言う少年にアンヘルは何も言えなくなってしまう。証明と言われてもどうすれば良いのかわからない。
ロスに証明してもらうのが一番手っ取り早く確実なのだろうが、意識がないのかピクリとも動かない。息が荒く、心なしか顔が赤いような気もする。
アンヘルは助けを求めるように背後のエレティックを見遣った。
エレティックは困ったように頭を掻くと、ロスの傍に膝をついた。そして彼の頬を軽く叩く。
「ちょ、ちょっと――」
「ロス、おいロス。しっかりしろ」
「ん……ぅ……は…」
数度頬を叩かれるとロスは瞼を震わせ目を開けた。焦点の合わない瞳を兄の顔へと向ける。
「に……さん……?」
「え……?」
雨の音に掻き消されてしまいそうな声。それでも、少年の耳には確かに届いていた。
ロスの発した言葉に、目を丸くし彼とエレティックの顔を交互に見遣る。
「兄さんって……2人は、兄弟……なの?」
驚いたように問う少年の言葉に、エレティックがピクリと反応する。そしてため息をついた。そんな彼の様子に少年はしまったとと口を塞ぐが、時すでに遅し。
「ご、ごめんなさい……」
「あー……別に良いよ。慣れてるし。実際似てねぇしな」
申し訳無さそうに謝罪する少年に、エレティックは頭を掻き手をヒラリと振った。すると突然、アンヘルが「そんなことないよ!」と声を上げる。
「2人共、似てるところだってあるよ! えっと……ほら、目元とかっ」
「は? 俺コイツ程目付き悪くねぇだろ」
「えー、そうかなぁ? わたし、そっくりだと思うけど……」
このまま言い争いになりそうな2人を、間に挟まれたニトと少年がオロオロと見つめる。
「あ、の……ロスのこと、助けないと……」
少年の言葉に、ようやく2人は言い合いを止める。その様子に少年はほっと胸を撫で下ろした。
自らが纏っていたローブを頭からロスに被せ、彼を背負い屋敷を後にしようとするエレティック。その後ろを着いていこうとしていたアンヘルは徐ろに振り返ると、じっと少年のことを見つめた。
「な、何……?」
「……あなたも、一緒に来る?」
突然の申し出に少年はおろか、エレティックも驚き振り返った。一方問うたアンヘルは平然としている。
どうしたものかと、少年はエレティックとアンヘルへ交互に目を向ける。
「だってさ、ニトが懐いてるもん。きっと悪い人じゃないんだよ。それに、行くところないんでしょ? シャルム達ならきっと許してくれるよ」
少年の肩に留まったニトを見ながら、アンヘルはにこにこと話す。少年が遠慮がちにエレティックへ目を向けると、困ったように視線を泳がせた。
「まぁ、多分アイツらなら良いって言うんじゃねぇ?」
「じゃあ、一緒に行こうよお兄さん」
「……うんっ」
雨の中、小走りに駆ける二人の背中を追い少年もまた雨の中へと駆け出した。