Ⅲ-Ⅲ
「ねぇ、ロスさんクロスタウンにいるんじゃなかったの……?」
アンヘルとエレティックは、土砂降りの雨の中木々の生い茂る森を歩いていた。泥で足場の悪い場所を歩いているため、彼女の白いワンピースの裾は茶色く汚れてしまっている。
クロスタウンへ向かったらしいロスを探して小一時間。一度も門を潜っていない事を考えると、おそらくまだエンドタウンの中なのだろう。但し、その外れも外れだ。こんな不気味な森、普通は足を踏み入れようなどとは考えないだろう。
彼らを先導している小さなドラゴンは時折ちらりと後ろを振り返り、二人が着いて来ているかどうか確認している。
「さぁな。だがアイツが……ん?」
不意に、先導していたニトが二人から離れる。いつの間にか、続いていた森が終わり少し開けた場所に二人は出ていた。エレティックはそこに、見覚えのある建物を見つける。
所々に損壊の目立つ邸。知っている。この場所は――。
「なんで、こんな所に……」
「どうかしたの?」
突然足を止め立ち尽くすエレティックに、アンヘルも立ち止まる。
その間にニトは邸の入り口まで飛んでいくと、壊れてしまったのか扉の無い入り口からその中へと入っていく。そしてすぐ出てくると、二人を呼ぶように2回3回と鳴いた。
「ニトが呼んでる。ロスさんいるのかもよ」
エレティックの服をクイクイと引っ張りながら、アンヘルは邸の入り口を指差した。ようやく我に返ったエレティックが、彼女に引っ張られるように足を進める。
「待って」
入り口まであと数歩というところで、アンヘルはピタリと動きを止めた。それに倣うようにエレティックもまた歩みを止める。
じっと入り口を睨みつけていたアンヘルが、肩越しにエレティックを見遣り口を開いた。
「中に、誰かいる」
「誰かって誰だよ」
「わからない。でもロスさん以外に多分、誰かいる。1人」
アンヘルの言葉に、ローブの中に忍ばせているナイフへと手を伸ばす。なるべく物音を立てないように入り口へと近づくと、そっと中を覗き込んだ。
階段へと続いているらしいロビー。そこに、横たわる少年とそれに寄り添うようにして1人の人物が座っていた。肩あたりまで伸びた金髪に隠れて顔までは確認できないが、恐らくロスと同じくらいか彼より少し年上くらいの年齢の少年。
ほんの僅かに身動いだアンヘル。その際足元に落ちていた小枝を踏んでしまったのか、パキッと小さな音が響いてしまった。その音に少年はビクリと肩を震わせ、音のした方へ目を向ける。
「……っ、だ、誰」