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Terror - テロル -  作者: 闇璃
3章
16/31

Ⅲ-Ⅰ




 落ちてきそうな曇天から降り注ぐ雨。そんな中、ロスは傘も差さず建物の屋上に立ち尽くしていた。

 ぴちゃ、ぴちゃという水音に振り返ったロスは、そこに立つ人物を見て怪訝そうに眉根を寄せる。

 真っ黒な傘に、対照的な白い髪。傘に隠れてしまっているため、顔までは確認できない。軍服を身に纏い、機構の人間であるバッジを胸元に付けている。

「……ふふっ。久しぶりだね」

 楽しげに笑う可愛らしい声。少しだけずらした傘から、その声に相応しい容貌を覗かせる。そして、その頭上に揺れる獣の耳のような癖毛。

 ロスは、この少女のことを知っている。

「あれ、私のこと忘れちゃった? ゼロくん」

「まさか……ペディア、なのですか?」

 ご名答。そんな言葉を表すかのように微笑み、手を叩くペディア。その手の甲には、逆さまに刻まれた十字架。

 警戒心を顕にするロスを他所に、彼女は笑みを崩さず口を開く。

「元気そうで何よりだわ。ね、ハーレイ」

 ペディアがロスの背後へ声をかける。それに釣られるようにロスも背後を振り返った。そこには、いつの間に現れたのか軍服の少女が立っていた。翼のようになっている腕を広げながら、水色の瞳を彼へと向ける。

「…久しぶり、ゼロ」

 抑揚のない声音。

 二人に挟まれるようにして立つロスは、動揺を隠せず何度も二人へ視線をやる。そんな彼を笑うかのように、ペディアは口許へ手を当て一歩踏み出した。反対にロスは後退ろうとするが、ハーレイに阻まれて足を引くだけに留まる。

「どうして……」

「機構に、混血がいるのか。ふふ、混血でも軍人にはなれるんだよ?」

 ペディアはクスクスと笑いながら、可愛らしく首を傾ける。そしてスッと手を持ち上げると指先をロスへと向けた。

「私の父さんが何だったか、ゼロくんは知ってるよね」

 パチパチと、ペディアの左指先に白い電気が集まり出す。

 彼女の父親は、電気の扱いに長けたケットシー。だが、混血である彼女はその能力を使えなかった筈だ。

 ロスの動揺を感じてか否か、ペディアは自身の手に電気を集めながら口を開く。

「混血だから能力が使えないはず、とか思ってるでしょ。残念だったね、今の私には使えるんだよ」

 どことなく楽しそうにするペディア。彼女の左手を包む電気が紫色に変化したのを見計らい、ハーレイがそっとロスの傍を離れる。

 ペディアの口許が歪む。それを見たロスは身の危険を感じ、一歩後退る。

「私が使える電気なんて、父さんのに比べたら全然だけど……人間にとってはそれなりに強い電流になると思うよ? それに、今日は生憎の天気だしね」

 とっさにその場から離れようとするロスより早く、ペディアがその左手で彼の腕を捕まえた。

 瞬間、バチッという音と共にロスの身体が跳ねる。そして程なくしてその場に力無く倒れ込んだ。

「……死んでない? 大丈夫?」

「大丈夫だよ。あれくらいの電流で死ぬわけないじゃん」

 ロスの傍にしゃがみ込み、心配そうにするハーレイをよそにペディアくるりと踵を返した。ハーレイが彼を背負ったことを確認すると、階段の方へと歩いていく。 

「これで……あの方は喜んでくださる」

 ぽつりと呟かれた言葉は、降り続ける雨の音に掻き消された。




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