Ⅱ - Ⅷ
「……笑い過ぎです」
涙が出るほど笑う優とシャルムに、ロスは眉間のシワを濃くする。
未だ笑いが止まらない2人を一瞥し、エレティックはロスを見る。その視線に気付いたロスは怪訝そうに目を細めた。
「何ですか」
「お前が拗ねんの、そんなに珍しいのか?」
「拗ねるのっていうか、ロスはそんなに感情を出す子じゃないみたいなのよね」
ロスの代わりに答えたのは優。目元の涙を拭い、ふぅと息をつく。ようやく落ち着いたようだ。
それを聞いたエレティックはもう一度ロスを見つめた。記憶にある姿より、随分と大きくなった。それでもまだ、どこかあどけなさが残っている。
自分を見つめたまま動かないエレティックに、ロスは返事の代わりに彼を睨みつけた。
「昔はそんなことなかったんだけどな」
「余計な事は言わないでください。……昔とは違うんですよ」
吐き捨てるように言い立ち上がったロスは、そのまま部屋に戻ってしまった。ロスの後ろ姿を見送り、エレティックは手元のカップへ視線を落とす。どことなく落胆した様子の彼に、頬杖をついているシャルムが声をかける。
「機構に戻れないって、これからどうするつもりなの?」
「……考えてない」
「それならここにいればいいじゃない」
突然の優の言葉に、シャルムもエレティックも驚いたようにそちらへ目を向けた。当の本人は嬉しそうに笑みを浮かべている。
「良い、のか?」
「もちろん。一緒にいた方が、ロスと仲直りしやすいと思うし。たった2人の兄弟なんでしょ? 仲良くしなきゃダメよ」
優の言葉に、エレティックはシャルムを見る。彼もまた頷いて見せると、エレティックはふっと笑みを溢した。
「……ありがとう」
【機構内司令官室】
「申し訳ありません、スティア様……。奴を取り逃がしてしまいました」
窓の外を眺めているスティアの背後で、部下であろう男が頭を下げている。スティアの蛇が、そんな彼を咎めるように鳴いた。
男の方を見向きもせず、スティアはクスクスと小さく笑い声を漏らした。
「まったく……使えない部下ですね」
楽しそうに言いながら笑う彼女に、男は怪訝そうな表情を浮かべる。スティアは徐ろにくるりと振り返ると、自身の机上へと視線を向けた。そこに乱雑に置かれている書類の中から、1枚の写真を手に取る。
「まぁ、今回は許してあげます。その代わり、あの方を何としても連れてくるのですよ」
優しい声音で言い、写真をまた机上へ戻す。男が慌てて司令官室から出て行くのを見送り、未だ笑みを浮かべたままのスティアは再び視線を窓の外へと移した。
「全ては、女王様のために――」