表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Terror - テロル -  作者: 闇璃
2章
13/31

Ⅱ - Ⅵ

 





 ―10年前―






 鉄の柵。コンクリートの床、壁。子どもが数人入れられた檻の前に、銀髪の小柄な子どもが看守に連れられて来た。

 キィという音を立てて、開いた牢の音に中にいた者が一斉にそちらへ目を向ける。看守に押されるようにして牢の中に足を踏み入れた少年は、自分に向けられる視線に動きを止めた。

「……お前、小せぇなー。ちゃんと食ってたのか?」

 頭上に狼の耳を生やした少年が、どこからともなくリンゴを取り出す。するとそれを半分に割り、片方を銀髪の少年に差し出した。

「オレ、ソラってんだ! よろしくな! お前は?」

「俺は……」

 半分になったリンゴを受け取り、自分の名を名乗ろうとした少年は途中で言い淀んだ。愕然と目を見開き僅かに震えている。そして視線を手元に落とし、何度か名前を言おうと口を開閉させる。

「名前……俺は……誰……?」

 その場に座り込み、ぽつりと呟かれた言葉。

 どれだけ思い出そうとしても、彼は何も思い出せなかった。自分が誰なのか、なぜここにいるのか、ここはどこなのか。

 俯き黙ってしまった少年の前にソラがしゃがむ。

「まさかお前……記憶がないのか?」

 ソラからの問いかけに少年は小さく頷く。

 認めたくなかった。何かの間違いであってほしかった。でも、認めざるを得ない。自分には記憶がない――。

 そのことに気付いた途端、少年は恐怖に襲われた。小さな体を更に小さくし、何かに耐えるように唇を噛み締める。

 そんな彼の頭を、誰かがぽんぽんと撫でた。顔を上げた少年の目に、自分を撫でている少女が映る。

 肩まで伸びた茶髪に水色の瞳。腕は二の腕あたりから鳥のような翼になっている。

「かわいそ、かわいそ」

 ぶっきらぼうな撫で方に、ソラが思わず吹き出した。頭を撫でていた少女はピタリと動きを止め、ソラを睨みつけた。

「笑うところ、違う」

「いや、わり……でも、ぷっ。ハーレイ、お前それでも撫でてるつもりかよ……っ」

 ついに堪えられなくなったのか、ソラは声を上げて笑った。笑われた少女は、むくれて笑った当人を翼で何度も叩く。

 ひとしきり笑い終えたソラは息を整え、牢の中にいる全員を呼び集めた。

「はー笑った笑った。えっとじゃあ、この牢にいる奴ら紹介するな」

 ソラは、左にいる少女から順に紹介していく。

 白のショートヘアで獣の耳のようなくせ毛を持つペディア。ヒポグリフとケットシーとの混血。

 腕が翼になっているハーレイ。ハルピュイアと人間との混血。

 黒のロングヘアーに左右で色の異なる翼を持つクレア。天使と悪魔の混血。

 そして狼の耳を持つソラ。狼族と人間の混血者だ。

「ちなみに俺とペディアが一番年上。よろしくな……って、名前がないと不便だよな。そうだな……じゃあ、お前のことはゼロって呼ぶな!」

「ゼロ……」

 みんなもそれでいいか? とその場にいる者達に問いかけるソラ。その問いかけに、各々が頷き笑みを浮かべた。

「良いと思うよ」

「ゼロ、かっこいい」

「ちょっと安易だけどな」

「うっせ」

 鼻で笑うクレアに食って掛かるソラに、もっとやれと煽るハーレイ。ペディアはそんな三人を宥めようと、オロオロと手を彷徨わせる。

 ゼロ――。

 そんな彼らを余所に与えてもらった名を小さく呟いた少年は、ほんの少しだけ嬉しそうに笑った。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ