Ⅱ - Ⅴ
「でも、アンヘルの刻印はロスのとは違うのね。何か意味があるの?」
「優、知らないんですか?」
不思議そうに言う優に、ロスは少し驚いたように返す。自分の首元の痕に触れ、優へと視線を向ける。
「天界族の血が混ざっているのか、魔族の血が混ざっているのか、それともその両方の血が混じっているのか。それで刻まれる印が異なるんですよ」
「わたしは、天界族との混血なの。だからほら、蛇が巻き付いてるでしょ?」
ほら、と言いながら太腿の刻印を指差すアンヘル。
「魔族ならただの十字架。両方混ざってる時はリングの中に十字架、だっけ?」
「確かそうだったはずです」
「へぇー、そんなに徹底してるんだ……」
パンを手に優は、少しだけ悲しそうな顔を見せた。だが、刻印を刻まれている当の2人は平然としている。アンヘルは余程気に入ったのかスープを頬張り、ロスはまだ眠いのか欠伸をしながらパンを口に運んでいた。
そんな2人の様子にシャルムと優は顔を見合わせ苦笑した。どれだけ悲観しても、過去は変わらない。それを、この2人はちゃんとわかっている――。
「ご馳走様でした」
手を合わせ挨拶をしたロスは立ち上がり、自分の食器を片付けると再び部屋に戻っていった。シャルムも食事を終えると頬杖を付き、アンヘルへと視線を向ける。その視線に気付いたアンヘルは、不思議そうに目を瞬く。
「なぁに?」
「あ、いや。何でもないよ」
怪訝そうにするアンヘルの頭を撫でると、彼もまた食器を片付け自身の部屋へと戻った。
突然あっ、と何か思い出したように優が声をあげる。アンヘルの視線が彼女へ向いた。
「そうそう。アンヘル、あなたの部屋はその階段を上がった廊下の突き当たりね」
優は先程ロスが上っていった階段を指差す。それを目で追ったアンヘルは、再び視線を優に戻した。
「わたしにも、お部屋があるの?」
「あるわよー。ここ、元は小さな宿屋だったの。だから部屋は余分にあるのよ。ベットと家具はひと通り揃ってるから好きに使って。疲れてるだろうからもう寝たら? 片付けは私がやっておくから」
アンヘルが食べ終えたのを確認すると、彼女の分の食器を自分のに重ねる。アンヘルは頷くとおやすみなさい、と頭を下げ教えてもらった部屋へと上がっていった。
片付けをする優を手伝おうと思ったのか、ニトはパンが入っていたカゴを持ち上げると彼女の側へ寄る。
「ありがとうニト。優しいのね」
褒められたニトはどことなく誇らしげに鳴くと、優と一緒にキッチンへと向かうのだった。