Ⅱ - Ⅲ
「えぇ、それで連れて来ちゃったの!?」
帰ってきたシャルムに事情を聞いた優は、驚き思わず立ち上がった。その声にニトが飛び上がる。
連れて来ちゃった、と苦笑するシャルムの背後に隠れるように立つアンヘル。大人しく2人のやり取りを聞いている。
「もう……シャルムは困ってる子見ると放っておけないんだから……。まぁそこが君の良い所なんだけど」
ため息をつくものの、すぐに笑みを見せる優。
シャルムの後に隠れるアンヘルと目線を合わせるように屈み、優はニッと笑ってみせる。そして手を差し出す。そこには、小さなキャンディーが乗せられていた。
「私、優っていうの。神崎優。あなたの名前を教えてくれるかな?」
「アンヘル……ラディウス。よろしく、優さん」
幾分か緊張していた面持ちを和らげ、アンヘルはキャンディーを受け取った。それを見て優は立ち上がると、いつも通り椅子に掛けてあったエプロンを手に取?。
「お腹空いてるでしょ? 私もご飯まだなの。手を洗っておいで。シャルムもね!」
優の言葉に、はーいと2人揃って返事をし手を洗いに行く。
夕食の支度に取り掛かる彼女の表情は、心なしかどこか嬉しそうだった。
「アンヘル、家には帰らなくていいの?」
パンを手にふと浮かんだ疑問を口にする優。スプーンを銜えていたアンヘルは、口からスプーンを外し家はないからと平然と答えた。
「おとーさんもおかーさんもいないし。お家も、もう無くなっちゃったから」
あまりにもサラリと言ってのけるアンヘルに、2人は呆気に取られてしまう。そんな2人の様子に、アンヘルは不思議そうに首を傾げた。
親が居ない寂しさは、2人もよく知っている。だから、平然と両親がいないと言うアンヘルに驚きを隠せなかった。
「……寂しくないの?」
無意識に口を継いで出た言葉に、アンヘルだけでなく問い掛けたシャルムも目を丸くした。
暫くの沈黙の後、アンヘルが閉ざしていた口を開く。
「……全然寂しくない、て言ったら嘘になる。でも、ひとりぼっちじゃなかったから」
俯いていた顔を上げ、アンヘルは笑みを見せた。そんな彼女の頭を、シャルムはぽんぽんと撫でる。
「寂しい時は、無理しなくていいんだよ?」
「そうよ。甘えたい時は甘えて、泣きたい時は泣く。どうせ一緒に暮らすんだから、遠慮なんてしないでいいのよ」
一緒に暮らす、という言葉にアンヘルは目を丸くして優を見る。何か言いたげに口をパクパクと動かす彼女を見て、2人はクスクスと笑った。
思わず椅子から立ち上がり、前のめりになるアンヘル。深く息を吸って吐き、2人を見る。
「い、いいの? わたし、ここにいても」
「あぁ、組織のところじゃなくてここで一緒に暮らせばいい。ね、優?」
「もちろん。帰るところ、ないんでしょ?」
快く迎え入れてくれた2人に、アンヘルは思わず涙ぐむ。嬉しそうに微笑み、もう一度2人を見た。
「ありがとう……! これから、よろしくお願いします」