プロローグ
「あぁ? んだぁ、その目は。なんか文句あんのかよ人間風情が」
道端に尻餅をついた少年を見下ろしながら、ガラの悪い男が忌々しげに吐き捨てる。その男を、未だ座り込んだままの少年が上目で睨みつけた。その態度が男の怒りを逆撫でしたようだ。男は彼の胸倉を掴み上げた。自然と、男よりも小柄な少年は爪先立ちの状態になる。
それでもなお、慌てる様子もなく男を睨みつけたままだ。
「ぶつかってきたのはそっちでしょう。謝るべきなのは貴方です。それとも、この街の魔族様はそんなこともわからない馬鹿なんですか?」
「んだとこのガキがぁ!!」
ふんと鼻で笑い、嘲るように言ってのける少年に男は怒鳴り彼を投げ飛ばそうとする。だがしかし、その行動がピタリと止まった。周りに集まっていた野次馬も皆息を呑む。
いつの間に抜いたのか、男の喉元には月明かりを反射して光る刃の切っ先が宛てがわれていた。その切っ先を突きつけているのは、先程から胸倉を掴まれている少年である。
生温い風が、銀色に輝く彼の髪を撫でていく。少年はその深蒼の瞳を細めると、ゆっくりと口を開く。
「……ガキだからって、あんま舐めてんじゃねぇぞクソ魔族が」