メタプレ海の海賊 その1
「これって難しいのか?」
「ああ、かなり難しいだろうな。冒険者の1パーティや2パーティでどうにかなるような依頼じゃない。これまでにも、各国が軍隊を派遣したものの、一人も逮捕できずにいるらしいぞ。」
「殲滅なら簡単にできそうだけどな。」
「殲滅ならな。だが、それでは事態を悪化させる方にしかいかないよ。」
「何故?」
「今、海賊を率いているのはキュッポラって頭目でな、こいつのやり方は、今までの海賊とは違って、いわば義賊の扱いなんだ。」
「義賊か、それなら国としても手を出しにくいんだろうな。で、義賊っていうからには他の国の民衆からも好かれているのか?」
「いや、そこはやっぱり海賊だからな。彼らのせいで物価はあがるし、商人の利益は減る。だから、けして好かれているわけではない。だが、やつらは襲った船の2割以上の荷は奪わない。そして、殺しはしない。だから通行税のようなものかも知れん。」
「他の頭にとってかわれば、全て略奪、皆殺しに戻るって可能性が高いってわけか…。」
スキコンから2か月。シグナを拠点に隼人たち『ある日森の中』のメンバーは、それぞれのレベル上げと生活のための報酬獲得の日々を過ごしていた。隼人自身も、極力、魔術による討伐で苦手な魔術スキルの向上に励んでいた。
いつものように、ギルドで依頼を探している時に、ふと目についたのがメタプレ海に面した6か国の合同依頼、『メタプレの海賊行為鎮圧』というもの。
それぞれの国は、本土からせいぜい数kmほど沖合の島までしか領有権を持たない。したがって、広大なメタプレ海の無数の島の中には、数えるほどだが自治による有人島がある。
人が住める島…というだけなら、百は下らないだろうが、居住しようとしないのは、自治と言えば聞こえはいいが、他人は誰も守ってくれないという理由が最も大きい。
隼人の世界では、飲料水、食糧さえ確保できれば、後は病気、天災くらいしか怖いものは島には存在しない。だが、この世界には魔物という存在がある。海の魔物は時として陸にあがってくる。そのため、どの国でも、他国との戦いに備えてというより魔物の上陸に備えての沿岸警備隊がある。
わざわざ好き好んで島で暮らさなくても、大陸には幾らでも安全な居場所はあるのだ。
隼人は、この依頼を受けることにし、ギルド職員から大まかな説明を、そしてギルド長のパルマンさんから聞いた。
「それで、鎮圧したってのはどういう状況になればいいんだ?」
「2通りの方法がある。一つはキュッポラをはじめとする組織中枢部の逮捕。もう一つは、彼らの拠点となる島の施設、船舶の破壊と武装解除だ。」
「なるほど、それなら何とかなるかも知れないな。」
「くれぐれも、やつらを刺激するような形での失敗はしないでくれよ。少なくとも今のところは金銭的・財産的な被害以外は出てないんだからな。そうした失敗をしてしまえば、おそらくそのパーティは全員がランク降格処分となるだろうし、ペナルティも大きいだろう。単に鎮圧できなかっただけなら、通常の依頼失敗と同じ程度でお前たちには痛くもかゆくもないだろうからな。」
ギルドを出て、真っ先に行ったのはマルトさんの店。といっても、日中はマルトさんも仕事に忙しい。だから、夜、食事でもしながら海賊の話を聞かせてもらう約束を取り付けに行っただけで、日中は『ある日森の中』のメンバーと依頼について話し合うことにした。
隼人たちの家に集まった「ある森」<ある日森の中>のメンバーは隼人から説明を受けていた。
「そういうわけで、依頼自体は俺個人として受けたけど、ある森として遂行しようと思うんだ。意見を聴かせてくれないか?」
「パーティとしてやるってことに問題はないけどさ、そもそも遂行可能なのか?」
「それをこれから練ってみようと思う。ただ、できると思ったから受けたんだぜ?」
「私も参加できるのですか?」
「もちろんだ、レンチ。今回の依頼は、難しくはあるが危険は極めて少ない。レンチにとっても、対人での戦いはいい経験になると思うぞ。」
「ちょっと待って、対人での戦いって、戦っちゃダメなんじゃないの?」
「いや、傷つけては駄目だけど、戦ってダメとは一言も言ってないぞ。」
「傷つけずに戦う…か。一人二人ならともかく、大勢が相手となると確かに大変そうね。」
「万一、傷つけた場合は治癒スキルのあるエルモたちに癒してもらうことも考えている。」
「数はどれくらいいるの?」
「組織全体で900人ほどだそうだ。だが、この中の半分は、共に生活する女子供で、残る半分の内、実際に海賊として働いているのはさらに半分。つまり、200人強ってとこかな。」
「さっき、組織の破壊か、中枢の逮捕って言ってましたが、隼人殿はどちらを行うつもりでありますか?」
「できれば、破壊はしたくない。一方、逮捕された中枢はおそらく終身刑だろう。それも、俺の望む結末じゃないんだよな。だから…海賊としての無力化…そういう選択肢を採りたい。」
「無力化というと、海賊行為をやめさせるということですよね?」
「そうだ、そしてそれは可能だと思っている。」
「どうやるのかしら?」
「アラビ、彼らの収入源は何だかわかるか?」
「海賊行為で奪ったもの?」
「そう。それが彼らの収入源だ。なら、海賊をしなくても同等の収入があればいいってことだろ?」
「島で900人もの人が暮らせるような収入源ってあるかしら?」
「難しく考えることはないさ。魚を売ったり、途中で立ち寄る船に水や食料を売ったり、今はギルドに依頼している航海中の護衛を彼らに引き受けさせたり、幾らでも収入を得るすべはある。」
「たしかに、途中で食糧や水を補給できるなら、わざわざ最初から大量の食糧・水を積み込む必要もないし、新鮮なものも口にできるわね。でも、それならどうして今まで彼らはそうしなかったのかしら?」
「一つには伝手だな。国につながるものを持たない彼らにとって、安心して島に立ち寄ってもらう術はない。しかも、これまで海賊と言えば命まで失う怖いものというイメージが強かったんだから、わざわざ自分たちから彼らに近づこうとは思わない。それが彼らを孤立化させてきたんだと思うよ。」
「それを、私たちが彼らに説得するってことらしいけど、そううまくコンタクトできるかしら?」
「ああ、最初からうまくいくとは思っていない。そこで考えた作戦がこうだ。」
隼人が、その作戦を口にした。皆、興味深そうに聞き入っている。
「それで、本命は誰がやるんだ?」
「俺とアラビで行こうと思う。」
「アラビ?」
「ああ、これまでの流れからすれば、どこかでこの鎮圧依頼を受けたことが海賊たちに知られてると思うんだ。とすれば、ある森のみんなは顔が割れてるだろう。それに、協力してもらうパーティに本命を任せるってわけにもいかないだろ?だから、アラビの眩惑で俺とアラビが海賊たちにはわからないような姿にしてもらおうと思ってるんだ。」
「そっか、じゃあ俺たちは囮ってことだな。」
「うん、そっちはリオンが中心になってもらえたらいい。一応、ある森のリーダーはリオンってことにもなってるしね。」
「わかった。で、協力してもらうパーティはどうする?」
「ギルドに依頼を出そうと思ってるんだが…。」
「おいおい、みずくさいんでないか?俺たちに頼めよ!」
「俺たちって………ど、ドンペ?」
いつの間にか、ドンペがお茶を飲みながらソファでくつろいでいる。
「なんであんたがここにいるのよ?」
「そりゃ、俺だもん、な、レンチ」
「な…って、言われても困りましゅが…」
「てか、どっから入った!」
「いやぁ、ライブで飯食ってたら、リィカさんが、レンチはこっちだって言うからさ、顔見にきたってわけ。」
「顔見にって、毎日毎日!お前が見たい顔はレンチじゃなくて、リィカさんだろ?」
「え?…あ…ん…いやぁ、レンチは俺の弟子だからさ、弟子の様子を見るのって、ほら、師匠のつとめじゃないかなぁ?」
「弟子ったって、船の上で面倒見てただけだろ?てか、お前、何 顔を赤くしてんだ?しゃべり方も変だぞ?」
皆、ドンペがリィカに恋してることは知っての上でからかっているだけだ。しかし、こうも容易に俺たちの家に入りこまれるとは、ちょっと防備を考えた方がいいな。
「で、どうよ?俺たちでいいだろ?協力するパーティってのは。」
「そりゃ願ったりかなったりだけど、ゾフィさんに頼んでおかなきゃ。」
「ああ、ゾフィなら今、ソロで修業してるぞ。俺が代わりに白銀の翼を任されてるから大丈夫だ。」
「そういや、白銀の翼って何人くらいいるんだ?」
「常時のメンバーは8人、あとはそれぞれが下に2、3人、抱えてるから、動かせるのは20人くらいかな。」
「それだけいれば十分だ。ドンペさん、頼んでいいかな?」
「まかせとけ。」
「報酬は聴かなくてもいいのか?」
「ん、まあ一応聞いておくかな。」
「一人一日1万ドンでどうだ?後は成功報酬で20万。失敗しても5万は出そう。」
「まあ、妥当なとこかな。危険があるわけでもないし。いいぜ、それで。」
それから、細かな作戦や、準備すべきもの、分担などなど、わいわいと話は続いた。
「こんばんは。マルトです。」
気がつけば、すっかり日は暮れていた。




