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ハヤトが逝く  作者: 砂流
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ギコボール

大会会場となる多目的競技場、その中にスキコン本部があった。さっそく俺たちも出場登録をした。本戦は5日後だが、その前日から予選が始まるらしく、招待選手以外はそこからのスタートだそうだ。トパの魔術コンテストが午前中で参加者は今現在76人、俺の接近戦コンテストは午後からで参加者が93人…本戦に出るのはそれぞれの分野の32人。半数が招待選手だから、残り16の席を争う。ただ、予選から優勝者が出ることはほとんどないそうで、ここ10年でも全て招待選手が優勝している。


会場では、既に賭けが始まっていた。専ら招待選手の中から候補があがっており、予選からの参加者については、候補者以外という扱いらしい。賭けるつもりはなかったが、何気なくオッズを見ていると、さきほど宿で会ったマリョードが近接部門で18倍となっていた。あいつ、招待選手だったんだ。それから、弓部門でゾフィーさんの名前を見つけた。7倍となかなかの人気のようだ。


賭けのテントだけでなく、既にスキコン関連のグッズを売ってる店や、各地の名産品の販売をやっているテント、それにさまざまな屋台が競技場を囲むように店を開いており、それほど多くはないもののあちこちに人だかりができていた。この光景は、パルナスの芸術祭に似ている。どちらも、お祭りって点では共通しているからな。


「おにいちゃん、ギコボール買ってくださーい。」


レンチくらいの年ごろの女の子が俺に声をかけてきた。なんか一生懸命っぽくて買ってあげたいって気はするんだけど、こういうのってたいてい親が作ってたり、裏で糸をひいてたり(悪い意味でなくて)するんだよな。子どもだけで、店を開けるわけがないのだから。でもわかっちゃいるけど、おっちゃんやおばちゃんに言われるより、やっぱり小さい子供に言われると買ってあげたくなるんだよなー。で、その子が言うギコボールってのを見に行った。


「!たこ焼き!」


「えー?ギコボールだよぉ?」


たこ焼きそっくりの、ギコボールを焼いてたのは、その女の子より少し年上と思しき男の子だった。


「一つもらおうか。」


「えー、私のはないの?」


「トパも食うか?じゃ二つな。」


「はい、まいどー。」


使っているのは、小麦粉とキャベツに似た野菜…そこまでは同じなのだが、タコではなく肉を入れて、さらに味付けは塩だけ。


「お待ちどうさま。400ドンが二つで800ドンになります。」


やっぱり祭だけあって高めの値段設定だな。


「兄ちゃん、これはそのまま食べるのか?」


「そうだよー。味はついてるから、一口言ってみなよ。熱いから気をつけて。」


とりあえず一口食べてみた。うん、やっぱりたこ焼きと同じだ。材料がほぼ同じだから当たり前か。てか、塩味だけ…物足りないな。


「売れてるか?」


「うーん、まだ本番前だから、ポツポツとね。」


トパも、一口食べて物足りなそうな顔をしている。


「二人は兄妹かい?」


「そうだよー。」


「父さん、母さんは?」


「父さんは近くにいるよ。母さんは家でギムボールの材料作ってる。」


「じゃ、父さん呼んでもらえるかい?」


「えー、俺、何かまずいことやらかした?」


「いやいや、むしろ家の手伝いをしてるんだから褒めたいくらいだよ。でなくて、ちょっと店を使わせてもらいたくてね。」


「私、呼んでくるねー。」


そういって、妹の方が走り去っていった。


しばらくすると、水場で下ごしらえをしていた二人の父親が食材を抱えて戻ってきた。


「まいど、何か私に御用ですか?」


見るからに人のよさそうな屋台のおじさんって感じだ。


「ギコボールってのを食べたんだけど、ちょっと物足りなくて、すみませんが屋台の一角でいいから使わせてもらえませんか?」


「そりゃ、商売の邪魔にならなきゃご自由にどうぞ。どんなことをされるんで?」


「ほんのちょっと、調味料を作ったり、できた後のギコボールにもう一工夫するだけですよ。」


許可をもらって、俺が出したのはフライヤーとマヨネーズ、市販のたこ焼きソース、植物油。あと、ダシで食べるってのもあるんだけど、さすがにこの世界の屋台ではダシを入れる器を別にして…って手間も値段もかかりすぎるから、それは諦めた。で、さっそく買ったたこ焼きをフライヤーで揚げる。トパは、そのまま食べてたので、ソースとマヨネーズを勧める。マヨネーズはともかく、ソースはあった方がいいと思うからね。


「あら、うんうん、味が濃厚になっておいしい。」


「だろ?マヨネーズもつけてみなよ。」


「あー、マヨネーズはない方が私は好きだわ。」


「んじゃ、これはどう?」


揚げたてのを一つ、トパの皿に移して、ソースをかける。


「へえ、さっきのより何ていうのかな歯ごたえと濃くが深くなった気がするわ。いけるわよ。」


「……な、なあ、兄さん、それ一口食わせてもらえないか?」


「ああ、いいですよ、どうぞ。」


揚げたてのギコボールにソースをつけて親父さんに一つ渡す。


「……うめえ!うちで作っといて何だが、これうめえよ。兄さん、その調味料、売ってくれないか?そいつをつければ、絶対売れる!」


「売るってか、いいですよ。ただ、これって魔術で出したものだから時間が経てば消えてしまいます。マヨネーズは、私のところでも作ってますが、ソースは…この分はまだできてなかったはずですから、ご自分で作ってみてはいかがでしょう?」


「いや、ありがたい。おい、タポにナポ、食ってみな。」


「子どもには、マヨネーズもつけた方が、たぶん好評だと思いますよ。どうぞ。」


「うまい!」


「おいしい!」


うんうん、なかなか好評のようだ。


フライヤーはそのまま置いていきますけど、これも時間が立てば消えてしまいます。けど、揚げ物ですから、似たような器具はあるでしょう。


「ありがとう、兄さん。兄さんと奥さんには、この店のギコボール、いつでも無料で食い放題にしとくから、食べにきてくれよ。」


「やだ、奥さんて。あははははあ」


トパ、照れる年でもあるまいに…。てか、そこは一応訂正させるとこでしょ?


「そいつはありがたいね。肌寒いから、温かいギコボール、きっと一杯売れるよ。子供たちも頑張ってるしね。」


本当はタコが入ってた方がしっくりくるんだけど、それは高望みだろう。でも、元の世界で、しかも俺の国にあるたこ焼きに近い料理を見つけることができたのは収穫だった。


幾つかの屋台を回り、帰りにギルドに立ち寄って依頼を2つ程引き受けて宿に帰った。スキコンまで、あと5日。明日は肩慣らしで、少し離れたところに生息域のある魔物を狩ろう。


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