王城七不思議の7
「絵は移動させてもよろしいですか?」
「かまわぬが、どこへ持って行くのじゃ?」
「王城には地下があると伺っておりますが、できれば地下室がよいかと。」
「ふむ、地下は雨天時の兵士の練習所と士官室、それに貯蔵庫くらいだが?」
「では、その士官室を使わせて頂きましょう。」
肖像画はゲンタさんが取り外し、地下へと移動することにした。
「国王様、間もなく夕食のお支度をいたしますが、今日のお料理はいかがいたしましょう。」
1階に降りると、リョールとは別のメイドさんが国王様に声をかけてきた。
「ふむ、もうそんな時間か。ハヤトよ、夕食、食って行くだろう?そうだ、今夜はここに泊まらぬか?」
「ありがたいですね。王城の料理って、興味がありますよ。でも、宿に仲間がいるから帰らないと心配します。」
「期待させて悪いが、普段は町の料理屋と食事はそう変わらぬぞ。もちろん来賓を招いた晩餐会では特別な料理でもてなすがな。使用人も国王も同じ料理を食べておるし、この町の料理屋にはいったことがあるのじゃろう?」
「ええ、こちらへ来て、まだ3軒ほどですが食べに出かけました。」
「そうか、では行った料理店の料理と同じような食事と思ってくれればよいぞ。不味くはないと思うが?それから、宿の方には使いを出そう。今夜は王城に泊まるとな。よいか?」
「宿の方は、そうして頂けるならかまいません。でも、料理ですが、町の料理店と同じようなものでしたら、俺の世界の料理でも食べてみませんか?」
「ほう、お主は料理ができるのか?」
「いえ、残念ながら。でも、できた料理を出すことはできるんですよ。ほら、おやつに食べた甘味と同じようにね。」
「そりゃもう、頂きますとも!頂かせて下さい!ぜひにぜひに!!」
あ、眼を爛々と輝かせたリョールが、再び俺の背後から声をかけてきている。自衛官として、気づかぬ内に背後をとられるとは、何たる不覚!いや、それ以上にこのメイドさんがすごいんだ。てか、さっき国王様に話しかけてたメイドさんはどこへ?まさか、リョールの変わり身の術とか?
「リョールよ、案ずるな。わらわもハヤトの国の料理には興味がある。わらわからハヤトに頼もうぞ。皆の分もな。ハヤト、お願いしてもよいかの?」
「は、ところで何人分くらい出せば?」
「そうじゃの、ゲンタ。今、城におる者はどれくらいじゃ?」
「そうですね、外で警備に当たっている者も含めれば、40人程かと。」
「大丈夫か?ハヤト?」
「うーん、まあ、大丈夫でしょう。大勢いるなら、庭でバーベキューにでもしましょうか?」
「ばーべきゅう?それはどのような料理かの?」
「えっとですね、下に火を燃やして、上に網や鉄板をしいて、その上で肉や野菜を焼いて食べるんですが、こちらの肉や野菜でもかまいませんよ。調味料は出しますから、それで味付けすれば、俺の世界のバーベキューと同じように楽しめるはずです。食べやすいように、肉と野菜は切っておいて下さいね。それから、俺の世界の料理ですが、俺が出せるのは冷えた状態ですので、それらを鉄板や網の上で温めて食べてもらえれば、美味しく頂けると思いますよ。」
「おお、それは良い考えじゃの。リョール、さっそくバーベキューの準……なんじゃ、もう行ったのか?相変わらず食うことに関してだけは、動きの速いやつじゃ。」
………
「部屋の照明は落として、ゲンタさんの手持ちの照明だけにして頂けますか?」
「うむ、わかった。プレリイ、照明を。」
ゲンタさんの照明だけとなり、それがなければ部屋は真っ暗だ。
「ゲンタさん、もう少し離れて下さい。あ、そのあたりでいいですよ。では、国王様、プレリイさん、ゲンタさんの傍へ。これから、俺がこの絵を少しずつ動かします。どこかで、きっと眼が光るはずですから、よく見ていて下さい。」
そう言って、俺は絵を上下左右に少しずつ動かしてみた。
「あ、光った!」
「わらわにも見えるぞ、光っておる!」
「この位置ですね。ゲンタさんはどうですか?」
「いや、わたくしには光っては見えておりません。」
「どういうことかの?」
「では、プレリイさんが照明を持って、ゲンタさんと入れ替わってみて下さい。」
「おー、光っておる、光ってみえますぞ。」
「実験は以上です。部屋の照明を入れましょうか、プレリイさん、お願いできますか。」
部屋が明るくなってから、士官室のテーブルに4人が腰かけ、俺は説明を始めた。
「まず、私の世界には、さまざまな場所に反射材というものが使われております。例えば、道路の端に反射材を設置して、光が当たればその光が反射することで、そこに反射材があることがわかり、そこから先は道路ではないことを示したりします。」
「はんしゃざいとな?それもこの世界にはないものじゃが?」
「反射材そのものはなくても、その原料はあるはずですよ。その肖像画の眼に使われた白い絵具、その中に意図せずに反射材の原料と同じものが使われているのでしょう。」
「初代様の眼は、今もキラキラと輝いて強い意志が感じられる。わらわはその瞳が大好きじゃ。」
「この肖像画の作者も、きっと眼に力を入れたのでしょうね。国王様がおっしゃるようなキラキラとした瞳を表現するのに、さまざまな絵具を試し、混ぜ合わせ、偶然、反射材の原料と同等のものを絵具に練り込み、そうしてこの眼が描かれたのでしょう。」
「だが、決まった場所でしか光っているのが見えないのは何故じゃ?」
「私の世界の反射材はかなり広い範囲で、光が当たれば反射されるように作られていますが、この絵の場合、ある角度から光が当たり、その時に決まった地点からだけ光の反射が見えるようなものだと思います。」
「それで、ゲンタに見えず、プレリイに見えたわけじゃな。」
「眼が光る謎については、蛍光塗料や絵の裏から光が当たるケースも考えてみたのですが、条件に当てはまるのは反射材だけだったんですね。」
「うーん、お主の世界には反射材以外にも、キラキラと光るものがあふれとるようじゃの。」
「ええ、そりゃもう、夜の町など山の上から見るとキラキラ光る宝石箱って言われるくらい光にあふれてますよ。でも、それも善し悪し。俺は、むしろ訓練の野営地で見る星空の方が好きだったな。この世界の夜と同じようにね。」
「華やかで、きらびやかな夜も一興、闇もまた一興、それぞれの趣き、味わいがあるものですからな。」
ゲンタさんの言葉に皆、うなづく。
「そういうわけで、この謎はこれでいいですね?」
「うむ、残りはあと一つかの。」
「それなんですが、最後の一つだけは、まだわかってないんですよ。ここまでは、こちらの常識、私の世界の知識から答えは導き出せましたが、馬が消えるというのは、どうも私の世界の知識からはどうしても答えが出てこないんです。ただ、とっかかりはありますので、時間を下さい。」
「そうか、いや、6つの謎を解いただけでもたいしたものだ。急ぐことはない、じっくりと考えてみてくれ。」
これで、ひとまず今日の謎解きは終わった。できれば、あと2日、王都を出るまでに最後の一つも解決して帰りたいが、謎の真相は深そうだった。




