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ハヤトが逝く  作者: 砂流
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王城七不思議の1

七不思議は何話か、間に閑話をはさみながら続きます。

町の中心部、小高い丘の上に王城が建てられている。王城自体は、国王の執務室、一家の住まい、ゲストルーム、謁見室など、約30ほどの部屋があるだけで、建物はこの世界としては最も高い5階建てだが、それほど大きくはない。むしろ、王城を囲むように建つ議事堂、財務堂、行政堂、司法堂といった国の重要な機関の方が床面積としてはかなり大きい。それらの建物がほとんど隙間なく立ち並び、軍事堂と警察堂の二つの建物の間が唯一王城へ入ることのできるスペースだった。


「こんにちわ。王城の見学はできないんですか?」


王城への入口に立つ衛兵に問いかけてみた。


「ああ、警備小屋の右と左に見学用のエリアがあるから、そこに行けばいいよ。」


「中には入れないんですね?」


「用があるか招待されているなら入城できるが、原則、警備小屋から先へは入れないんだ。」


若い衛兵が気さくに答えてくれる。


「それじゃ、そのエリアから見学させてもらいますよ。ありがとう。」


礼を言って、軍事堂裏…衛兵の言う警備小屋左側にあるスペースへ行ってみた。


建物は大きくないが、その分、庭は広い。よく手入れされた木々と芝生。この世界の自然も美しいが、人の手がかかったこの庭のような場所も心が落ち着くな。そんなことを思いながら右の方を眺めていると、ふと違和感を感じた。芝生の上にある岩…何か書かれてあるが、ここからではよく見えない。それを確認しようと警察堂裏のエリアに移動してみた。


岩に刻まれていたのは…日本語?『和』という文字と、その下に『故郷』の1番の歌詞が…


さきほどの衛兵をつかまえて、あの岩のことを聞いてみる。


「俺もよく知らないんですよ。建国の王、この国の初代国王の時代からあった岩と伝えられていますが、何が書かれているのか、誰も知らないそうですよ。」


「その初代国王ってどれくらい前の人なんですか?」


「7百年…いや、8百年前になるかな。賢王と言われ、たいそう立派な方だったそうですよ。今の国王も立派ですけどね。」


「そうか、じゃああの碑を残した人も、もういないんだな。」


俺以外にも、この世界にトリップしてきた人がいる。何ともいえない懐かしさ…寂しさがこみあげてくる。


「うさぎおいし かのやま…か。いや、ありがとう、いいものが観れたよ。」


「いえ。ところで、さきほど口にされた言葉は?」


「ああ、あの岩に書かれている詩だよ。俺の故郷の詩でね。」


「えっ!あなた、あの文字が読めるのですか?」


「ん?それが何か?」


「………ちょっと待ってて下さいね!そこ動いちゃダメですよ!」


何かまずいことでもしでかしたかな?ところかわれば、ごく当たり前の行動が罰せられるようなこと、元の世界でもあった。日本では「良いこと」が外国では「悪いこと」として扱われたり…。そんな不安を抱きながら待っていると、さっきの衛兵が戻ってきた。


「あなた、さきほど王城を見学できないかっておっしゃってましたよね。」


「ああ、あんなきれいな所ならゆっくりと見て回りたいとは思うよ。」


「失礼ですが、冒険者でいらっしゃいますか?」


「そうだけど?」


「でしたら、王家から出されている依頼を受けてみませんか?あの岩の文字の解読も、その依頼に含まれているんですよ。その依頼をお受けになれば、王城に入ることができますよ。」


「なるほど、で、その依頼はやっぱりギルドで受けるのかな?」


「そうです。これまで多くの冒険者、魔術師、研究者が挑んできましたが誰一人、たった一つの解答すら出せていない、名付けて王城七不思議クエスト!ギルドに行けばすぐにわかりますよ。あの岩の文字を読めたあなたなら、もしかしたらと思いましてね。」


「それは面白そうですね。ただ、俺、護衛の依頼で王都に来てるから、5日間しかいられないんですよ。まあ、その期間にできるようであれば、受けてみたいとは思いますけどね。」


「期間に制限はありません。現に今も4人の方が継続して挑んでますし、謎を考えたり調査したりするのは王城の外でもできますから、ぜひ挑んでみてください。」


「ありがとう。俺はハヤトといいます。依頼を受けることがあれば、その時はよろしく頼みますよ。」


「モーグです。期待してお待ちしてますよ。」


若い衛兵と名乗りあって別れ、その足でギルドへと向かった。実は、ミルダの研究所から王城に来る途中でギルドの建物は見かけたのだが、依頼を受ける予定もなく、人の出入りもかなり多かったため素通りしてきたのだ。


………


さすがに、国のギルド全てを管理するギルド本部、まるで元の世界の大きな都市の役所のようだ。案内所で、「王城七不思議クエスト」について聞いてみると、すぐにその掲示場所がわかった。やはり、有名なんだな。


依頼書に書かれてあったことを要約すると次の通りだ。


【以来内容】

 王家に伝わる謎を解明すること。謎とは次の七つのことである。

 1.庭にあいた穴を調査し、その穴が掘られた目的、またその利用方法。

 2.客間から聞こえる謎の音。

 3.賢王の肖像画の光る目の謎。

 4.庭にある岩に書かれた文字。

 5.不自然に存在する王城内の一角のスペース。

 6.動かせない女神像。

 7.消える馬車馬。


【報酬】謎を一つ解明するごとに100万ドン。同時に依頼を受託している者が複数いる場合は、解明の早い順に支払う。


【その他】期限は設けない。また、依頼受託者数は無制限とする。ただし、国内のギルドで実績のない者の受託は認めない。


ふむ、7つの不思議の概要はわかるが、委細は現地ってことかな。この世界では謎でも、元の世界では何でもないことかも知れないし、受けてみるかな。4番の岩の文字なんて解決済だしね。


さっそく、依頼書を掲示板からはがして、ギルドカードと一緒に窓口に提示する。シグナのギルドでそれなりに実績は積んでいるし、資格に問題はなし。すんなりと依頼受託申請は受け付けられ、依頼書に変わって受託書が発行され、ギルドカードとともに返ってきた。今日はもう遅い。明日にでも、再び王城に行ってみよう。


宿に帰ると、エルモとレンチちゃんはずいぶん買い物をしてきたらしく、部屋には荷物が散乱している。そっちはいいのだが…トパ…機嫌が悪そうだ…。


「どうした、トパ?」


「どうしたもこうしたも、ハヤトからもらったスケッチブックが消えたのよ!」


はっ!しまった。トパの誕生日にペーストして出したスケッチブック…期限があるのを完全に失念していた。絵を描けば残すのが普通だよな。


「ごめん、トパ。あれは練習用と思って、コピペで出してたよ。だから、消えたんだ。それを忘れてた。ほんとにごめん。」


「まだ、本格的な絵は描いてなかったからいいけど、やっぱり自分が描いた絵、残しておきたいわ。」


「だよな。埋め合わせはするよ。そうだ、明日にでも画材店に行ってみないか?絵具は買ったものだから大丈夫だけど、スケッチブックってのがなければ、俺がお詫びに作るよ。それに、王都ならいろんな画材もあると思うんだ。」


「そうね、どっちみち画用紙がないと絵は描けないし、つきあってもらおうかしら。」


「もちろんさ。買った後でスケッチに出かければいいよ。」


「ハヤトも一緒に、スケッチに行く?」


「いや、俺は明日は王城に行ってみようと思うんだ。依頼を受けたんでね。」


「せっかく王都まで来て、依頼?ゆっくり休暇と思って楽しめばいいのに。」


「それがさ、なかなか面白そうな依頼なんだ。王城七不思議クエストって言ってね。」


「あー、それ知ってるでありますよー。天上…実家でも、話題になってまして、特に不動の女神像ってのが面白そうでありますよねー。」


「おー、エルモは知ってたか。そうそう、それもあったな。けっこういい暇つぶしになると思うし、既に一つは謎が解けてるんだ。」


「なんかハヤトってそういうの好きそうだね。私は、そういうオカルトっぽいのはダメ~。」


「あはは、わかるわかる、トパは悲鳴あげそうだもんな。ま、そういうことで、とりあえず別行動ってことでよろしく。」


「エルモとレンチちゃんは、明日はゆうえんちってとこに行くでありますよ。おやすみなさい。」


「楽しんでおいで。迷子にならないようにね。」


「ぶぅーーっ、レンチちゃんはともかく、私は子どもじゃないでありますっ!」


王都2日目の夜は、静かにふけていった。


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