家を建てたんだけど
「はぁ~、やっぱ湯船でつかる風呂はいいわ。」
あれから、2か月。風呂に入りたい、それだけのために俺はここに居を構えた。
「ほんと、リラックスできるわねー。気持ちいいぃ~」
「この泡立ち!お肌スベスベであります。」
「だろ?………て、トパ!エルモ!何でお前らが入ってるっ!」
「いいじゃん、せっかくお湯が沸いてるんだし。」
「そういう問題じゃない!男と女がだな、一緒に風呂に入るってのはどうなんだ?」
「あら、恥ずかしいの?」
「恥ずかしいって言う前に、モラルってもんがあってだな、混浴ってのもあるが、それは結婚した男女、つまり何だ、許される相手とだけだ!それとも何か、こっちじゃ人前で裸になるのは普通なのか?」
「そんなことあるわけないじゃない。でも、ハヤトなら気にならないわ。」
「であります。」
「いや、そうは言ってもだな…おい、生チチを押し付けるなっ!」
体中、ボディソープで泡だらけにしたエルモはともかく、一緒に湯船でスッポンポンのトパ…目のやり場に困る。それに…やばいっ…出るに出られなくなった。頭と、主に下半身に血液が集中している…そして…ブラックアウト…俺はのぼせるってことを初体験した。
「で、俺の全てを見ちゃったわけ?」
意識を取り戻した時、俺は脱衣所兼縁側で風に当たりながら、トパとエルモの介抱を受けていた。下半身にタオルを巻いただけの姿で。
「ハヤトも男だったのね、あは。」
「不潔であります。何を考えていたでありますか?」
いや、そう言われてもだな…お婿にいけないっ。
トパの店から2軒挟んで、俺の店ができた。いい具合にかなり大きな商店が閉店し、それを取り壊して広い土地が手に入ったのだ。さっそく2階建ての店舗兼リィカさんとレンチさんの住居を、そしてその隣に俺の家を建てた。
トパはもともと店の奥に自分の住居があったのだが、改装で全て店にリフォームし、なぜか俺の家にころがりこんでいる。エルモはもともと自分の家がないため、居候するつもりだったらしい。2階に4部屋ある内の2部屋が俺の書斎と寝室、残り1部屋ずつをトパとエルモに占拠された。というか、建築中に勝手に職人さんにあれこれ指示を出していた。
1階はダイニングキッチンと客間それに風呂。料理は簡単なものしかしないので、風呂に重点をおいた。
店の方は、内装は俺が考えた。鉄筋コンクリートなんてのはこの世界にはない。使える建築資材から東京駅をイメージしたレンガ作りの外観、中は中世ヨーロッパ風の作りだ。照明やテーブル、それにキッチンはマルトさんの店でリィカさんとトパがいろいろと物色し、なかなかおしゃれな店構えになったと思う。もちろん、道路に面したところは広めのスペースをとり、オープンカフェ兼弁当ができるまでの待ち合い席にした。
店ができるまでの間、テンドンさんの食堂でメニューをあれこれと試しては、客に出せるレシピを作っていった。俺がしたことと言えば、基地の本棚にあった例の本をこちらの言葉に翻訳したり、調味料をこちらで手に入る食材を混ぜ合わせて、試行錯誤の末、ウスターに似たソース、デミグラスソース、お酢、ケチャップ、魚を使った醤油もどき、植物油を使ったドレッシングなどなど、当面使えそうな調味料を作っていった。もちろん、マヨネーズは、苦労の末、テンドンさんがそれに近いものを完成させていた。香辛料の方は、そのまま使える。後、店の南側に畑を作り、そこにハーブを植えたかな。
朝は弁当屋、昼と夜は定食屋、そして日中はカフェ。早朝から日暮れまでの営業だ。リィカさんの村から3人の仲間を雇うことになってるから、仕事はたいへんかも知れないけれど、それも生きがいになると思っている。
「おーい、ハヤトー、帰ったぞ。土産もってきた。」
「お、リオンか。思ったより早かったな。」
リオンもこの町を根城にすることに決め、故郷に奥さんを呼びに行って、帰ってきたようだ。ちなみに、リオンの家も通りを挟んで5軒ほど西側にあり、ご近所さんになる。
「はじめまして、亭主がお世話になってます。」
「あ、リオンの奥さんですね、はじめまして、お世話になってるのは私の方ですよ。隼人です。」
「あら、いい男。」
「あげないでありますよ?」
エルモ、何言ってるの?
「ったく、こいつ、浮気症でな。結婚するまでたいへんだったんだわ。」
「あらぁ、結婚してくれないならこの槍で刺してくれとまで言われて、断れなかったけど、もっと遊んでいたかったのよ~。」
「へぇ、リオンの方から熱烈アタックだったんですね?」
「そりゃもう、部屋はプレゼントでどんどん狭くなるし、毎朝、仕事前と後にわざわざ『愛してる』って言うために立ち寄るし、たいへんだったわ。」
「もうやめてくれ。すまん、俺が悪かった。」
「で、ハヤトくんは一人なんでしょ?遊ぼうねぇ」
「あげないぞ?」
トパまで何言ってるの?
「まぁ、なんだ。家内の挨拶と思ってくれ、それじゃこれ、土産な。」
そう言うと、まだまだ話したりなそうな奥さんを引きずるように帰っていった。リオンもたいへんだな。
……………
そして、店はオープンした。
弁当は、唐揚げ弁当、焼肉弁当、山菜ヘルシー弁当、そしてお任せ日替わり弁当の4種。弁当を持って仕事にという習慣はなかったのだが、口コミがいい宣伝になったようで、冒険者や職人以外にも、昼ごはん代わりに主婦たちも買いにきてくれた。
弁当と同じような内容で、定食の方もかなりの数が毎日出ている。
そして、カフェ。まだ仕入れは少ないものの、コーヒーに似た豆をマルトさんのツテで入手し、それにお茶葉はもともとあったものを紅茶用に発酵させ、自家製の飲み物として客に提供していた。スイーツは、まだまだ開発中で、ただいまパンケーキと蒸しパン、ドーナツだけだったが、これが意外と好評で、もしかしたら弁当と定食以上の売上になってるかもしれない。いずれ、ショートケーキやアイスクリーム、プリン系のスィーツも出せればいいな。
「ハヤトさーん、来月、父さまと王都まで仕入れに行くんだけど、護衛で一緒に行きませんかぁ?」
レンチちゃんのところに遊びに来たエメラちゃんが声をかけてきた。
「護衛って、ギルドに依頼するんじゃないのか?」
「そうよ。でもどうせならハヤトさんのパーティに指名依頼したいって父さまも言ってた。私もレンチちゃんと一緒に行けたら楽しいし。」
「そうか。そういや、俺、ここ以外の町って知らないんだよな。みんなと相談してみるけど、行ってみたい。俺たち5人で大丈夫か?」
「今度は馬車が5台になるの。父さまの店からも3人が同行するから、御者できる人が2人いればいいんだけど。足りなければギルドに依頼するつもりよ。」
「わかった。明日にでも返事するよ。」
「あてにしてますからねー。じゃレンチちゃん、お庭で遊ぼうか。」
トパの店が終わり、俺たちはリオンの家でエメラちゃんからの指名依頼のことを話し合った。リオン以外は乗り気だった。リオンは…というと、奥さんがこちらへ来て間もないから離れたくないらしい。
「亭主元気で留守がいい、ってね。私は勝手に楽しんでるからしっかり稼いどいで。」
そう言われてしぶしぶ同意。レンチちゃんはリィカさんから同意をもらってるし、パーティとしての護衛を受けることとなり、翌日の討伐仕事前にマルトさんの店に立ち寄ってその旨を伝えた。王都、どんな町なんだろう。それに、護衛…どんな旅になるのだろう。楽しみだな。




